2011/4
No.112
1. 巻頭言 2. 中華民國音響學會學術研討會 3. 半 鐘  4. OAEスクリーナー ER-60
   

 
  安全と省エネと低騒音            

所 長   山 本 貢 平

 近年、地域的な(local)環境問題よりも世界的な(global)環境問題が解決すべき課題として取り上げられるようになりました。すなわち騒音・振動のような地域的問題よりも、地球環境問題としての地球温暖化にスポットがあたっています。地球温暖化がまねく気候変動と異常気象が自然災害を発生させ、人の安全・安心な暮らしを奪うとの懸念です。温暖化の原因となる大気中の炭素化合物の発生抑制から、脱炭素社会や省エネルギー社会(省エネ社会)の達成が叫ばれているのは周知のとおりです。安全・安心と省エネは、人類の生存にとって重要であることは理解できるのですが、騒音・振動といった至極身近な問題が軽視されるのは困ったことです。

 安全性に関しては、低騒音・低振動がトレードオフの関係にあるかもしれません。例えば、走行中の車のタイヤ騒音を下げようとすると、現在の技術では路面とタイヤ間の摩擦を下げる必要があり、これは走行の安全性と相反することになります。安全性を捨ててまで騒音を下げることはできません。

 一方、省エネについてはどうでしょうか。騒音・振動はそもそも無い方が望ましいものであって、それらは機器を駆動するのに必要なエネルギーの廃棄物に該当すると考えることができます。その廃棄物を少なくすることは、駆動エネルギーの無駄を減らすことにつながります。つまり、省エネと低騒音・低振動の関係は本来同じ方向にあるはずです。残念ながら、現在の多くの機器の中にはこの省エネと低騒音・低振動とがトレードオフの関係にあるとみて、低騒音・低振動化を置き去りにする傾向があります。このようなトレードオフとなる騒音・振動制御技術は、恐らく何か根本的に間違っているのでしょう。ここで申し上げたいのは、安全性確保は必須であるが、省エネ設計と低騒音・低振動設計とは両立させることが重要であることを技術者が認識してほしいということです。

 少し話題を変えます。エネルギーの廃棄物としての騒音・振動を再利用する方法も考えられます。つまり騒音・振動を利用可能なエネルギーに変換することです。例えば電気に戻すことは可能です。すなわち力から電気への変換であり、それを実現できるものの一つがピエゾ材料(圧電材料)です。近年、従来のような圧電性無機材料だけでなく、有機材料で圧電性のあるものが高分子分野で盛んに研究開発されています。またそれに呼応して、エナジー・ハーベスティング(energy harvesting)という圧電材料から電気を取り出す技術の研究も行われています。このような技術が進歩すれば、たとえ微弱な電力であっても、エネルギー効率の高い機器の動作や関係回路への還元が可能となります。そのことはまた、原理的には省エネ化、低騒音・低振動化に繋がるものと期待されます。騒音・振動の低減技術の進歩のためには、このような新材料分野にも目を配る必要があると考えます。

 

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