2011/4
No.112
1. 巻頭言 2. 中華民國音響學會學術研討會 3. 半 鐘  4. OAEスクリーナー ER-60
   

     <技術報告>
 OAEスクリーナー ER-60

リオン株式会社 医療機器事業部 開発部  増 成 伸 一

1. はじめに
 OAEスクリーナー ER-60は、耳音響放射(Otoacoustic Emissions : OAE)という現象を利用した聴覚機能の臨床的評価を得ることができる他覚的聴力検査装置である。耳音響放射には誘発耳音響放射、歪成分耳音響放射、自発耳音響放射などがあり、本検査装置では、歪成分耳音響放射(Distortion Product OAE : 以下DPOAE)を測定することが可能である。
 DPOAEは、周波数が異なる2種類の刺激音を実耳に放射することにより内耳から発生する。内耳に異常がある場合は、一 的にDPOAEは発生しない。また、このDPOAEは非常に微小な信号であり、発生する周波数は刺激音(2種類)の周波数に関連している※1
 ER-60は、DPOAEを利用し新生児および乳幼児の聴覚スクリーニングを目的とした医療機器である。図1にER-60の外観を示す。

 

図1 OAEスクリーナー ER-60

※1 刺激音の周波数とDPOAEの周波数の関係は以下の通りである。刺激音の周波数をF1、F2、DPOAEの周波数をFoaeとしたときに"Foae = 2×F1 - F2"となる。

2.ER-60の構成およびDPOAEの測定
 ER-60は、本体およびプローブ部で構成される。その詳細を図2のブロック図に示す。


図2 ブロック図

(1)本体
 ER-60本体は、表示装置(LCD)、操作ボタン部、信号制御部(DSP)、赤外線送受信部(電子カルテ、プリンタに接続)を備えており、制御部(MPU)によって管理されている。電源は単3形電池4本であり、乾電池(アルカリ、マンガン)もしくは充電池(ニッケル水素)が使用可能となっている。筐体は、開発費低減のため既存の騒音計の筐体を流用し、赤外線送受信部に若干の加工を加えて使用した。

(2)プローブ
 プローブ内には、刺激音を出力するイヤホンが2個と耳音響放射等を測定するためのマイクロホンが1個内蔵されている。プローブ内のイヤホン、マイクロホンはシリコンゴムのサスペンションにより保持されており、ステンレスパイプを じて音を発振および採取することが可能となっている。プローブ先端部のステンレスパイプには、測定を繰り返し行うことで耳垢が付着してくるため、先端は取り外しが可能となっており、耳垢の掃除やプローブ先端部の交換を行うことができる。図3にプローブの外観を示す。  プローブと本体を接続するケーブルは、2重シールド構造となっている。イヤホンに接続する芯線が4本、マイクロホンに接続する芯線が3本あり、7本の芯線全体を覆うシールド線が一つ、そしてマイクロホンの信号を伝達する芯線に対してはさらにもう一つのシールド線で覆う構造となっている。マイクロホンに接続される芯線3本は、微小な耳音響放射を測定する必要がある。そのため、環境ノイズの影響を受けにくくする構造として2重シールドに設計した。

(3)DPOAEの測定
 DPOAEを測定する前段階として、プローブが被検者の実耳にフィットしている状態であることを確認する必要がある。ER-60では、実耳の等価容積を測定し、“音が漏れていないか”、“プローブの先端が外耳道で塞がっていないか”の確認を行った後、DPOAEの測定を開始する。
 DPOAEを測定するためには、外耳道内に2種類の刺激音(正弦波)を入力しなければならない。外耳道内に入力する2種類の刺激音は、信号制御部のDSPより生成され、DA変換器を介してプローブ内に備えられたイヤホン2個から、それぞれの周波数の刺激音として出力される。イヤホンより出力された刺激音は、外耳道から中耳に伝達され、内耳に到達すると、2種類の刺激音の周波数に関連した周波数のDPOAEが内耳より発生する。この内耳から発生したDPOAEは、刺激音と逆の経路を り外耳道に到達する。この外耳道内に到達したDPOAEをプローブ内のマイクロホンにより採取し、本体の増幅器、AD変換部を介してDSPに取り込む。DSPに取り込まれたデータは、周波数分析、加算平均の信号処理が行われ、各検査周波数のDPOAEレベルおよびノイズレベルを抽出し制御部に送って液晶に表示する。

図3 プローブ

3.ER-60の特徴
(1)検査周波数および測定時間
 ER-60は、3周波数(F2:2k、3k、4kHz)もしくは6周波数(F2:1.5k、2k、3k、4k、5k、6kHz)のスクリーニングを行うことが可能である。3周波数の検査の場合は約10秒、6周波数の検査の場合は約17秒で各周波数のDPOAEレベル、ノイズレベル、SN比(DPOAEレベルとノイズレベルの差)を測定することが可能である。また、検査周波数のシフト機能も搭載している。このシフト機能は、ある検査周波数でDPOAEの発生が確認できない場合、その検査周波数(F1、F2)を3/64オクターブシフトさせて再測定する機能である。これは、刺激音をシフトさせると、DPOAEの信号レベルが変動し、それによってDPOAEを確認できる場合があるため、搭載している機能である。

図4 液晶表示画面


図5 印字結果(シングルモード)

 

(2)測定データの表示、保存および判定結果
 DPOAE等の測定データは、グラフもしくはテーブルとして液晶画 に表示され、ボタン操作により簡単に切り替えが可能である。グラフに表示されるデータは、縦軸が音圧レベル(DPOAEおよびノイズ)、横軸が刺激音の周波数(F2)となっている。テーブルには、各検査周波数(F2)におけるDPOAEレベル、ノイズレベル、SN比が表示される。この3つのパラメータの測定データをあらかじめ設定した基準値と比べることにより、判定結 (Pass/Refer/Noiseなど)を表示させることが可能である。
 図4に検査結果の液晶表示画面の写真を示す。右上に表示している文字(図4では“Pass”)が判定結果であり、“○”がDPOAEレベル、“−”がノイズレベルを表している。
 測定データの保存には、シングルモードおよびマルチモードの2種類がある。シングルモードでは、両耳(1被検者)分のデータ保存が可能である。マルチモードでは、495耳分のデータが保存可能であり、赤外線 信を使用し電子カルテにデータを送信後、被検者ごとに両耳データの関連付けが可能となっている。
 図5が、検査結果の印字例である。左右両耳のデータのグラフおよびテーブルを印刷することができる。

4.おわりに
 『OAEスクリーナー ER-60』について、上記の通り報告した。
 ER-60の開発に際しては、プローブの構造やDPOAE測定のためのソフト開発等、多岐にわたり多くの方々に御指導、御助言を頂いた。
 ER-60の前機種は、海外メーカからのOEM供給を受けて販売していた。今回の開発により自社製品としてOAEスクリーナーを販売することができるため、エンドユーザーからの意見や要望を取り入れ反映しやすくなった。今後もユーザーからの意見や要望をさらなる発展の糸口と捉え、より品質の高い製品開発に望んで行く所存である。

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