2009/10
No.106
1. 巻頭言 2. inter-noise2009 3. 鉄の代用:陶器の配電用具 4. 第34回ピエゾサロン
  5. 純水中パーティクルカウンタ KL-30A

第34回ピエゾサロン
  「カーボンナノチューブと高分子の圧電性」Cheol Park

顧 問  深 田 栄 一

 平成21年 5月25日に小林理学研究所で第34回ピエゾサロンが開催された。National Institute of Aerospace と University of Virginiaに所属しNASA Langley Research Centerで研究をしておられるCheol Park 博士が「Carbon Nanotube and Piezoelectricity in Polymers」と題して講演された。

 カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男博士によって発見されて以来、ナノテクノロジーで注目されている新素材である。単層ナノチューブ (single-wall nanotube SWNT) は図1のように、グラフェン(graphene 炭素六角網面)をまるめた中空の管である。直径は1〜2 nm、 長さは数nm から数μmであり、丸め方により電導性、半導性になる。ヤング弾性率は1×1012 Pascal、伸び強度は200 GPaに達する。
左:Cheol Park 博士
右:古川猛夫博士(東京理科大学)
図1 単層カーボンナノチューブ
(single-wall nanotube SWNT )

 NASAでは耐熱性の良い圧電高分子の合成の研究を進めているが、その一つが図2に示す非晶性ポリイミドである。ここで、2,6-bis(3-aminophenoxy) benzonitrile を(β-CN)APB, 4,4 oxidiphthalic anhydride をODPA と略す。
図2 (β-CN)APB/ODPAの重合過程

 イミド化の熱処理中にプラスのコロナ放電で分極(poling)すると圧電性になる。150 ℃の高温で d31=8 pm/V(=pC/N) の圧電率が得られている。

 本講演の主題は、この非晶性ポリイミドにカーボンナノチューブを混合することによって、電気力学特性がどのように変わるかという研究であった。図3は0.5 wt% SWNT/Polyimideの走査電子顕微鏡写真を示す。まず一定量のSWNTを溶媒DMAcに溶かし超音波攪拌を行う。これをPoly(amic acid)の溶媒として用い、ガラス板の上でフィルム状にキャストする。このフィルムを熱処理するとイミド化が起こり、SWNT/polyimideのフィルムが得られる。厚さが約60 μmのフィルムの断面では、直径1 nm長さ3 μmのSWNTが長さ方向に約20個つながることが出来る。SWNTが高分子の中で3次元的な網目構造を作っていると考えられる。
図3 0.5wt% SWNT/Polyimide nanocomposites

 SWNTの含量を変えて、交流導電率を周波数に対して測定した結果が図4に示されている。0.035 %までは絶縁性であるが、それを超えると、高い導電性を示す。0.035 % が SWNTが連続して網目構造(percolation)を作る臨界容積分率である。

 誘電率の周波数依存性が図5に示されている。SWNTの臨界分率以上では、100 Hz以下で誘電率が102から104に達する。コロナ分極したときの残留分極Prは低周波の誘電率に比例し、その圧電率d31はPrに比例する。図6は、SWNTを含まない場合の値で基準化した圧電率d31をSWNTの含量に対して示したものである。SWNT約0.1 wt%のとき、基準化した圧電率は約20%増加している。さらに含量が増えると、導電率が高くなるため分極することが難しくなり、圧電率は減少する。
図4 SWNT/Polyimide の交流導電率σcの周波数依存性
図5 SWNT/Polyimideの誘電率の周波数依存性
図6 圧電率d31のSWNT含量による変化

センサー及びアクチュエーターとしての応用
 SWNT/Polyimide複合材料は、高感度のストレンゲージとして用いることができる。伸び歪また圧縮歪に比例して電気抵抗が大きく変化する。図7はピエゾ抵抗歪み係数のSWNTの含量に対する変化を示す。臨界percolation 含量の上あたりで、係数は最大になる。そのときのgauge factorは約4.5であり、普通の金属線の値2.0よりもかなり大きい。

 また、この複合材料は、大きい電歪効果を示す。図8は厚み方向に電圧を加えたとき、歪みS3が電圧V3の二乗に比例して増加することを示す(S3=M33E32)。電歪係数はM33=−3.6×10-15m2/V2〜−1.2×10-13m2/V2 に達し、ポリウレタンなどの値の103〜104倍であり非常に大きい。もし、SWNTの臨界分率0.035 %のあたりで、DCバイアス電圧Mb=0.1 MV/mを加えることが出来れば、見かけの圧電率はd31a=Mb×M33=−360 pm/Vの大きな値になる。耐熱性の良い圧電高分子として期待される。
図7 ピエゾ抵抗係数のSWNT容積分率による変化
図8 SWNT/Polyimideの電歪

 表1は既知の圧電・電歪材料との比較である。SWNT / Polyimide複合材料の電歪は、0.8 MV/mという小さい駆動電圧で最大歪み2.6 %が得られる。またヤング弾性率も大きい。
表1 圧電・電歪材料の電気力学特性の比較
Material
Out-of plane
Strain
Electric field
Young’s
Modulus
Energy Density
Eε2/2 (J/cm3)
PVDF
0.1 %
50 MV/m
1.6 GPa
0.0008
Irr-PVDF-TrFe
5 %
150 MV/m
0.4 GPa
0.5
Polyurethane
11 %
100 MV/m
0.017 GPa
0.103
PZT
0.1 %
1 MV/m
62 GPa
0.031
SWNT/Polyimide
2.6 %
0.8 MV/m
3.5 GPa
1.183

 SWNTの作用のメカニズムとしては、SWNTの強い弾性や高い導電性と高分子への吸着による界面分極が考えられている。SWNTの分散状態や網目の構造など今後の研究の発展が大きく期待される。


文献:
C.Park et.al, Polymer 45, 5417-5425 ,2004.
  C.Park et.al, Adv.Mater.20, 2074-2079, 2008.
    

−先頭へ戻る−