2009/10
No.106
1. 巻頭言 2. inter-noise2009 3. 鉄の代用:陶器の配電用具 4. 第34回ピエゾサロン
  5. 純水中パーティクルカウンタ KL-30A

    <会議報告>
 inter-noise2009

山 本 貢 平,牧 野 康 一,
土 肥 哲 也,大 久 保 朝 直,豊 田 恵 美

 第38回国際騒音制御工学会議すなわちinter-noise 2009は、カナダのオンタリオ州オタワ市で開催された。オタワはカナダの首都であり、オンタリオ州東部に位置する。ここには世界遺産リドー運河が流れており、その河畔にはネオゴシック様式の荘厳な建物の国会議事堂がある。とても美しい町であった。メイン会場はリドー運河に隣接するWestin Hotel Ottawaの4階にあり、8月23日〜26日の4日間にわたって会議が開かれた。小林理研からは私のほか、牧野、土肥、大久保、豊田が参加した。私は山田一郎氏のinter-noise 2011大阪のプレゼンをサポートするために、2日前の8月21日にオタワ入りした。
 到着翌日の8月22日(土)は、午前中に山田氏と打ち合わせを行い、inter-noise 2011のプレゼン内容と簡単な広報用パンフレットの配布方法を確認した。午後2時よりI-INCE理事会で山田氏がinter-noise 2011の準備状況を10分間で報告した。このとき、思いもよらぬ人に出会った。元NRC (National Research Council) のTony Embleton氏である。Embleton氏は五十嵐先生と懇意であったため、開口一番にその消息を聞かれた。亡くなられたことをお伝えすると非常に残念がっておられた。しかし80歳とは思えぬ元気さで、神戸や東京を訪れた時の思い出を懐かしそうに話された。この日の夜は山田さん、桑野先生、篠原さんほか合計6名で、有名なバイウォードマーケットに出かけ、夕食をとった。ちょうど食事を終えてレストランを出るころ、この日にオタワ入りした小林理研のメンバーと出会い、彼らが無事に到着したことを知って安心した。
 翌23日(日)は午前中に世界遺産のリドー運河と国会議事堂を小1時間ほど散策後、10時から開かれたTSG#7の会合に出席した。この会合では国際騒音政策を実施するための手段として、有効なドキュメントを作るべく、その内容について討議した。TSG#7でまとめる資料をもとにして、CAETS (International Council of Academies of Engineering and Technological Sciences) への報告書を作成することになっている。また、「CAETS Forum on Worldwide Noise Sources」という講演形式の会議がこの3日間に渡って開催されることが報告された。
 午後1時からは、I-INCEの加盟団体代表者参加のもと総会が開かれた。この総会では2009年から会長に就任したカナダNRCのGilles Daigle氏が議長となって、議案の討議と議決を行った。内容についてはCSC (Congress Selection Committee) メンバーの一部改選以外に特筆すべきものはない。
 午後4時からは、inter-noise 2009の開会式が行われた。共催団体から歓迎の挨拶のあと、会長Daigle氏から開会宣言が行われた。このとき、実行委員会(Joe Cuschieri氏)からは今回の論文数が627件であること、そのうちプレナリレクチャが7件、口頭発表が575件、ポスター発表が45件であること、機器展示が54社であることが発表された。その後、Welcome Receptionを経てSession Chair’s Dinnerに出席した。
 翌24日からは12会場に分かれて研究発表が始まった。私は国内会議の都合により、閉会の1日前、すなわち26日(水)にカナダを離れた。閉会式に出席した人のメモによれば、今回の参加者総数は1027名であり、国別の参加者は多い順にUSA(191名)、日本(117名)、カナダ(95名)、フランス(35名)、韓国(35名)とのことであった。今回も日本の参加者数は第2位であった。 (所長 山本貢平)

inter-noise2009の会場 (Westin Hotel Ottawa)

発表会場

 私は久しぶりの国際会議参加で、12年前のハワイでの日米音響学会ジョイントミーティング以来の海外渡航であった。今回はエアカナダでトロント乗り継ぎオタワまでというコースだったが、一日早く出発した山本所長からメールで、「トロントでの乗り継ぎ時間が短くて乗り遅れた。でも後続の便に振り替えをしてくれるから安心して来るように」との連絡があり、若干緊張してトロントへと出発した。幸いなことにトロントでは我々の荷物は早く出てきて、一行は無事に乗り継ぐことができた。
 オタワでは時差ボケと発表前の緊張で、街を見てまわる余裕も無いまま二日目の発表当日を迎えた。発表はOutdoor Sound Propagationのセッションで長距離伝搬への気象影響について行った。このセッションでは日本4件、米国3件、英国2件、フランス、オランダ、ニュージーランド1件ずつの発表があった。自分の発表はなんとか時間内で終わらせることができたが、質問にはうまく答えることが出来ず、座長に助け舟を出していただいて時間を終わらせるという始末だった。英会話の力が足りないことを痛感した。
 伝搬のセッション以外では航空機騒音関連の発表を中心に聞いた。Airport Noiseのセッションでは日本7件、米国3件、オランダ3件、スイス1件、フランス1件の発表があった。現在、日本では新しい航空機騒音に係る環境基準で評価対象となった空港内の地上音に注目が集まっている。地上音に関連して日本からは成田空港振興協会の篠原氏が成田空港の新モニタリングシステムの考え方の紹介、リオンの福島氏が複数地上音の自動識別手法の発表を行った。また、米国のAtchley氏が滑走路近傍でのリバース音の予測、オランダのVeerbeek氏が離陸滑走時の後方の騒音に関しての発表を行った。海外でも航空機の地上音に関心があることが分かった。
 カナダではトロント空港とオタワ空港を利用したが、両方ともターミナルビルの中でのアナウンスが少なく、全体に静かで違和感があった。ターミナルが広く、スポットの利用に余裕があるためだと思うが、搭乗ゲートで待っている間にアナウンスが少なすぎると、間違えたかと少々不安になる。
 また、航空機が離陸前にターミナルから離れるためにトーイングカーによるプッシュバックを行うが、日本とは手順が違うことに気が付いた。日本ではプッシュバック=後退+旋回だが、カナダではまっすぐ後退するだけでトーイングカーを切り離し、その後ジェットエンジンの推力で前進+旋回を行っていた。我々の搭乗したオタワからの帰りの便はプッシュバックした後、右側に待機していた機がいたため、左270度(3/4周!)旋回していた。なお、日本ではプッシュバック後に地上係員が整列して手を振り見送るが、カナダではまったく行われていなかった。所変わればいろいろと違いがあるものだと改めて認識した。 (騒音振動研究室 牧野康一)

 

 私は屋外で使用可能な超低周波音源の開発成果をポスターで発表した。今回のポスターセッションでは2日間の展示を行い、そのうち計3回のブレイクタイム(1回20分間)の時にポスターの前で説明をすることになっていた。ポスター会場が企業展示やインターネットコーナーに近かったこともあり、多くの参加者がポスターを見に来てくれた。私はアメリカでソニックブームによる窓ガラスのがたつきを研究している方や、アメリカ軍関係の音の伝搬を研究している人と有意義な議論ができた。
 以下に私の関心があった低周波音と鉄道騒音・振動のセッションの概要を示す。
○ 低周波音
 今年の国別参加者第一位のアメリカではソニックブームや爆発等による音が低周波音として問題になっているようで、全8件の発表にはソニックブームに関するものが多かった。日本からもJAXAの中氏がソニックブームによる建具振動についての実験結果を報告していた。
 ノルウェーのLovhlt氏は軍事基地周辺での低周波音(恐らくソニックブームや爆発音)が家屋に与える影響を調査していた。大音圧の低周波音の場合、通常問題になる建具振動や人的影響だけでなく建物全体を揺らし、そのことが問題になることがわかった。
 異色の発表で面白かったのはスロバキアのZiaran氏による研究で、寒冷地の部屋の暖房に使われるボイラーから出る音や振動が建物内の建具を揺らす事例を報告していた。
○ 鉄道騒音・振動
 鉄道に関するセッションは日本から5件、アメリカから5件の合計10件の発表で、日本からは鉄道騒音に関するものが多かったのに対してアメリカからは鉄道振動に関するものが多くみられた。
 鉄道騒音の発表では鉄道総研の長倉氏が線路沿いの高所空間の騒音予測を目的として転動音の指向性、遮蔽壁と列車の多重反射などを考慮した手法を提案しており、狭い日本ならではの研究だと感じた。アメリカのJohnson氏は機関車の運転室内の騒音をアクティブノイズコントロールで低減した事例を紹介しており、運転席のように位置が限定されている条件ではアクティブの手法が効果的であることがわかった。
 鉄道振動の発表では交通安全環境研究所の緒方氏が高速鉄道の高架構造物音を数値計算で調べた結果を報告しており、これも高架橋の多い日本らしい研究であると思った。アメリカのShankar Rajaram氏は独自に開発したインパルスハンマーのような実験装置で軌道付近を加振し、そこで得たインパルス応答から沿線の地盤振動を予測する方法について報告していた。
 現在日本はアメリカなどの諸外国に対して新幹線を輸出しようとしており、それを推進するために国土交通省は鉄道国際戦略室を設置した。今回の会議ではライバルのヨーロッパからの発表が1件もなく、日本勢の発表は鉄道に関する騒音・振動の対策技術が進んでいる日本をPRできたのではなかろうか。  (騒音振動研究室 土肥哲也)

リドー運河の閘門

衛兵交代式

 4年連続でinter-noiseに参加することができた。この6年間継続して行ってきた先端改良型遮音壁の性能評価測定と伝搬予測計算の研究が一段落し、その成果を第1日午後の“Noise barriers and associated devices: modeling, design, and performance”というセッションで発表した。狭い部屋のおかげで質問者の声を明瞭に聞き取れた幸運もあり、発表、質疑とも順調にこなした。
 6件の発表から成るこのセッションでは、私の発表を含む4件が先端改良型遮音壁に関するものであった。他のセッションにもう1件あり、先端改良型遮音壁で計5件の発表となった。研究が盛んな日本ならともかく、国際学会でこれだけ揃うことはあまりなく、マニアとしては嬉しい限りであった。私見ながら、ヨーロッパでは過去に先端改良型遮音壁の効果を疑問視する風潮があったように思う。多重回折や厚さの効果は現れるものの、吸音や干渉といった機構には効果が期待できないという批判が多かった。G.Watts et. al., Appl. Acoust. 49, 1-16 (1996)などはその一端かもしれない。今回、このように批判的だったはずのヨーロッパの国々から、新しい装置の開発に関する発表があった。CEN/TS 1793-4:2003で先端改良型遮音壁の性能評価法を規格化する動きとあわせて、Directive 2002/49/ECに後押しされた遮音壁事業の需要をうかがわせる。ドイツの発表者からは、私が提案している方法と同じような伝搬予測計算をやりたいので詳しく聞かせてほしいという申し入れがあり、非常にうれしく思った。ただ、彼らの装置の減音機構を見ると、複数経路間の位相差による干渉やヘルムホルツ共鳴器を利用するなど、日本国内ですでに検討された事例と似ているものが多い。日本には5年から10年分の技術的な先進性があると思う。国内では近年停滞気味の分野だが、ヨーロッパや東アジアでの需要を見込んだ製品開発や市場開拓には可能性があるかもしれない。
 覚悟していたとはいえ、やはり時差11時間のオタワの地は遠かった。空の旅が長いのはもちろんのこと、現地についてから3日間、おそらく時差の影響で夜中に何度も目が覚めた。学会会場のあるオタワの中心街は、大変美しい街並だった。国会議事堂の建物に囲まれた芝の広場で行われる衛兵の交代式や、手動開閉式の水門で水位を調整し船が階段状に登っていく運河はとても印象的であった。食べ物には期待できないと聞いていたものの、幸い、美味しい店で食事することが多かった。ガイド役を買って出てくれた方々に感謝します。 (騒音振動研究室 大久保朝直)

 

 オタワは、主な名所は歩いて回ることができる程度のこぢんまりとした街だ。オープニングセレモニーの前に半日余裕があったため、朝からオタワ散策に乗り出してしまった。街並みは、どこをみてもヨーロッパに近い雰囲気があり、アメリカ大陸初上陸の私には、いささか拍子抜けですらあった。それもそのはず、オタワは英語圏であるが、川を挟んですぐ隣のケベックはフランス語圏。観光地で働く人はたいていバイリンガルのようで、2ヶ国語を事も無げに使い分けていたのには感心した。一方の自分は、国会議事堂や、ロイヤル・カナディアン・ミントと言われる造幣局での英語のガイドツアーに参加し、理解力の乏しさを痛感。観光気分が一転、急に不安に襲われ、今日は遊んでないでホテルで質疑応答対策でもしていた方が良かったかもしれないと、冷や汗をかいた。
 私の発表したTesting of Architectural Systems in the Lab and Fieldというセッションでは、残響室法吸音率に関する発表が数件あり、室の拡散性による測定値の差異や面積効果についての報告がされた。このセッションのchairは非常にパワフルな方で、一件講演キャンセルがあったため、その20分間のブランクを利用してこれらの発表に関する熱い議論が繰り広げられた。非常に興味のあるテーマだったにも関わらず、内容は半分も聞き取れなかった。会場は大いに盛り上がり、温まったところで私の順番が回ってきた。今回の発表では、建築音響の測定に使用するためのインパルス音源に関して報告した。その音源というのは、折り紙の紙鉄砲を改良して自作し、折り紙インパルス音源(Origami impulse source:Origamiという単語は、すでに英単語化しているらしい)と命名したものである。安価で繰り返し使用可能、かつインパルス音源として十分な音響特性を有しているというのが特徴で、国内の学会発表ではすでに多くの方々に興味を持って頂いた。日本人なら紙鉄砲といえば、振り下ろして音を鳴らして遊ぶ物だとすぐ分かってもらえるのだが、今回の聴衆はそうはいかない。とにかく日本の文化を紹介するような気分で、折り紙とは何ぞやという説明から、実際に音を鳴らして発表会場の残響時間をその場で測定するというデモンストレーションまでおこなったところ、ありがたいことに会場の反応は上々であった。発表後の質疑応答はなんとか乗り切ったものの、その後何人もの方に声をかけて頂いたにも関わらず、つたない英語力のせいで、ほとんど“Thank you”しか答えられない自分が歯がゆかった。なかでも、“君のプレゼンテーションはサーカスのようだったよ”というお褒めの言葉(?) を頂いたのは複雑な気分だった。こればかりは自分のヒアリングミスだと思いたいが、どうやら強烈なインパクトを与えることには成功したようだった。 (建築音響研究室 豊田恵美)

国会議事堂のシルエット

 

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