2005/7
No.891. 昭和15年8月24日 3. 電気音響変換機(ヘッドホン) 4. 強震観測装置SM-27 <研究紹介>
圧電体による音・振動制御
圧電応用研究室 児 玉 秀 和
1.はじめに
力を加えると電圧や電荷を発生し、電圧を加えると力や歪みを発生する性質を圧電性という。水晶やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスは代表的な圧電体である。また、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は高分子の圧電体として知られている。
圧電体による音・振動制御方法は数多く研究されており、パッシブ型とアクティブ型の2つの制御手法に大別される。パッシブ型は振動エネルギーを圧電体によって電気エネルギーに変換し、さらに抵抗でエネルギーを消失する手法で、圧電体に抵抗を付加した単純な構造であることを特徴とする。アクティブ型は振動を打ち消すように圧電体を駆動する手法でアクチュエータの他に振動をモニタするためのセンサを必要とする。
我々の研究では、アクティブ型をさらに発展させて一つの圧電体がセンサ機能とアクチュエータ機能を併せ持つ音・振動制御の開発を行っている。この技術は圧電体に帰還回路を結合した単純な構造である、モニタ点と制御点が同一であり高い制御効果を容易に得られるという2つの特徴を持つ。2.負性容量回路による弾性率制御
本研究では図1の破線内に示す2種類の帰還回路を用いる。いずれも負の容量のコンデンサのように振る舞い、負性容量回路と呼ばれる。一般にコンデンサは+電位を印加すると+電荷をチャージする。それに対して回路1は+電位を印加すると+電荷を放出し、回路2は+電荷を入力すると−電位を生じる。
図1 負性容量回路圧電体に回路1を結合すると、回路が放出した電荷によって弾性歪みと逆位相の歪みを生じ、正味の歪みは減少する。即ち圧電体の見かけの弾性率は増加する(堅くなる)。一方、回路2を結合すると、回路が生じた電位によって弾性歪みと同位相の歪みを生じ、正味の歪みは増加する。即ち圧電体の見かけの弾性率は減少する(柔らかくなる)。図2にPVDFの弾性率制御の結果を示す。弾性率の変化は回路の容量と試料の電気的容量の比に依存し、容量比が−1に近づくにつれ増加する。
図2 PVDFの弾性率の容量比依存性3.PVDFフィルムの遮音性能制御
PVDFフィルムは薄くて軽く、透過音の制御にしばしば要求される面積の拡大が容易である。図3に内径43oの音響管で測定したPVDFフィルムの垂直入射透過損失を示す。図は1kHzの単一周波数音に対して制御を行った結果である。制御を加えると1kHzでの透過損失は25dBから80dBまで増加する。回路制御によって限定した周波数の透過損失を増加させることが出来る。
図3 回路1を接続したPVDFの透過損失実用化のためには大きな制御幅と同時に周波数帯域の拡大が必要である。しかしPVDFは圧電性の大きさを示す電気機械結合係数kが0.1と小さく、性能の改善は容易ではない。ここでは回路の中の容量素子にPVDFフィルムを用い、フィルムが透過した音をさらに遮断するためにフィルムを多重化した。図4に示すように200Hz〜1.5kHzの周波数帯域で最大35dBの制御が可能となった。
図4 制御周波数の広帯域化音響管を用いた基礎実験をもとに図5に示す20cm×30cmサイズのパネルを作成した。残響室に開口部を設けて試料を設置し、拡散音場に対する遮音性能をインテンシティ法により評価した。図6に結果を示す。制御がない場合、透過損失は300Hzで極小値を示した。制御を加えると透過損失は最大約15dB増加し、2kHz以下では系全体の透過損失は30dB付近でほぼ一定となった。この結果から、拡散音場においてもPVDFと負性容量回路による透過音制御が有効に働くことが分かる。
図5 PVDFパネル 図6 パネルの音響インテンシティ透過損失4.PZTセラミックスによる振動制御
積層PZTと回路2を組み合わせた防振技術を紹介する。PZTは結合係数kが0.6と高く、弾性制御はPVDFに比べて容易である。加振台と金属棒の間にPZTを挟み、台と棒の加速度比よりPZTの振動伝達率を測定した。
図7に振動伝達率の周波数依存性を示す。制御がない場合、振動伝達率は1.3kHzにピークを示した後、周波数の上昇と共に減少する。制御周波数を3kHzとした結果を青線で示す。振動伝達率は3kHzで-10dBから-35dBに減少した。回路の時定数に分布を導入すると容易に広帯域化出来る。赤線で示すように1.3kHz以上の周波数で振動伝達率は一様に20dB減少し、共振によるピークは300Hzに移動した。これはPZTの見かけの弾性率が約1/20減少したことを示す。
図7 回路2によるPZTの防振性能制御5.まとめ
圧電体と負性容量回路による音・振動制御について紹介した。PVDFによる透過音の制御は広い面積が容易な反面、結合係数kが小さく制御効果を得るためにはフィルムの多重化やフィードバックの安定化などの工夫を必要とする。PZTによる振動制御は制御面積が限られるが、結合係数kと出力が大きいため制御効果を容易に得ることが出来る。
この他に、バイモルフや円筒形など多種多様なアクチュエータや多孔質ポリマーエレクトレットといった新素材がある。また最近では、構造物の制振を目的としたシート状アクチュエータが開発された。これは0.3という比較的大きな結合係数と数100cm2の制御面積を特徴とする。これらの新素材と回路を組み合わせた新しい制御手法が期待される。