2005/4
No.88
1. 深田研究室50年の歩み

2. 超音波の光学的可視化

3. 鉛蓄電池(可搬型直流電源) 4. 第24回ピエゾサロン 5. 1/2インチ エレクトレットマイクロホンUC-57
  
 深田研究室50年の歩み

所 長 山 本 貢 平

 圧電応用研究室が2000年4月に新たな出発をして、今年で6年目に入ります。出発時のコンセプトとして騒音振動分野とのコラボレーション、新しい圧電素子の開拓、圧電素子の応用の3つを挙げました。その内、新しい素子の開拓については進展しませんでしたが、他の二つについては前進を続けています。一つは圧電高分子材と不正容量回路の結合による防音・防振の研究です。この研究は平成15年度に国土交通省の研究助成を受け、基礎研究から実用研究に大きく前進をしました。もう一方は、超音波の可視化技術を使った構造物の健康診断の研究です。こちらも科研費の助成を受けて一歩ずつ前進しており、将来我が国のインフラストラクチャにとって重要な意味をもつアセットマネージメントに役立つことを期待しています。
  さて、この圧電応用研究室をリードして下さっているのが深田栄一先生です。深田先生は現在83歳ですが、これまで24回のピエゾサロンを精力的に開催されると同時に、現在も若者に混じって研究活動を続けられています。一昨年には盤寿(81歳)を迎えられ、それを機に5月に深田研究室50年を祝う会が催されました。そこで、ここでは深田先生と小林理研のつながりを少しご紹介致しましょう。
  深田先生は、戦争という激動の時代に東大の物理学科を卒業され、昭和19年(1944年)に小林理学研究所に入られました。ここでは研究者としての第一歩を踏み出されると同時に、多くの新鋭物理学研究者と共に若き時代を過ごされました。在籍10年の間には、英国留学も経験されて、高分子の物性と圧電気の研究を精力的に行われました。その後、昭和38年(1963年)には理化学研究所に移られることになりましたが、そこでもさらに多くの優秀な研究者に囲まれて多数の業績を残されました。
  深田先生が理化学研究所を退任された後、古巣の小林理研に戻って来られたのは平成3年(1992年)のことでした。これは、当時の五十嵐寿一理事長(現在名誉顧問)の働きかけによるものであり、小林理研に圧電材料と超音波の研究を復活させ、また発展させたいとの意向によるものでした。この意向を受けて、それまでやや沈滞気味であった圧電材料研究室の復活に精力的に取り組まれたのです。その後のことは、以前本紙でも述べたとおりです。
  今回、伊達宗宏氏(小林理研評議員)、古川猛夫氏(東京理科大教授)、田實佳郎氏(関西大教授)らにより、小冊子「深田研究室の50年 −圧電気とレオロジー−」が作られました。これは、深田研究室の歩みの重要な記録であり、深田先生の研究に対する情熱と努力の結晶というべきものです。この冊子で多くの方が述べられているとおり、深田先生は若き研究者に物理現象の神秘さ、実験の楽しさと大切さを教えられました。理論は人間が産み出したものであるのに対し、物理現象は名も無き創造者が産み出したものであると考えられます。それが故に物理現象への興味は尽きることはありません。これからも深田先生の興味と追求は止むことなくますます前進することでしょう。

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