2005/7
No.89
1. 昭和15年8月24日

2. 圧電対による音・振動制御

3. 電気音響変換機(ヘッドホン) 4. 強震観測装置SM-27
  
 昭和15年8月24日

理事長 山 下 充 康

 1940年8月24日、「財団法人小林理学研究所」は理学研究のための学術団体として文部省による認可を受け産声を上げた。今から65年前のことである。1940年(昭和15年)は日本国が無謀な戦争に突入する前年である。極東のいち小国であった日本国は科学立国を志すことなしに世界の列強と肩を並べることはできなかったのである。以前にも繰り返し紹介させていただいたが、小林理研の設立趣意書では科学の育成と科学技術充実の必要性を強く説かれていた。わが国において指導的な役割を担った多くの優れた研究者が名を連ね、当時は入手が容易でなかった貴重な東西の科学関連文献や物理、化学の先端的な実験装置が集められて研究所がスタートした。以来、太平洋戦争が招いた混乱や終戦後の物資不足の時代の中でひたすら物理、化学の研究機関として基礎的な理学研究(物理学を中心としていた)の活動を続けてきた。
 やがて戦後の荒廃した日本が窮乏から脱出して復興期を経て先進諸国の仲間入りをした時期を迎えるが、その頃に公害問題が社会の注目を集めるところとなり、1971年(昭和46年)に環境庁(環境省の前身)が発足した。鉄道、道路等の交通網の整備拡大や工場等各種設備の拡充に伴って各種の環境汚染が注目を集め、環境庁は生活妨害要素を抑制するために「公害対策基本法」に基づいて「騒音に係る環境基準」を制定した。
 小林理研では基礎物理の研究を続けてきたところであったが、この時期に環境要素である騒音、振動に研究の軸足を移すこととなった。音響、振動の基本的な物理特性を解明することを目的に幾多の計測技術も開発された。これらの基礎研究推進の過程では幾多の応用研究が育成されてきた。例えば道路沿道、鉄道沿線、空港周辺などにおける騒音の予測や低減方策の立案設計などは今日的な課題として社会に大きく貢献するものとなっている。他方、各種の音響研究設備の整備を推進し、各種建築材料の音響性能に関して活発な研究が進められている。これらの設備と研究成果は先進的なものであり、国の内外で高く評価されているところである。
 65年前に理学研究機関としてスタートした小林理研であるが社会的な要求に応えて音響と振動の研究を主軸に位置づけて研究活動を営んできた。さはさりながら、小林理研のバックボーンはあくまでも理学研究である。音響や振動の研究は理学の一部ではあるものの物理学を視野の中心に捉えてきた科学者集団の精神が脈々と受け継がれていることを感じさせられることがある。
 2005年は「世界物理年」である。過日、これを記念して「社団法人日本物理学会」から会長名で「感謝状」が贈られた。「物理学の発展に貢献した」ことが讃えられている感謝状である。これを目にして諸先輩が培い、今なお意欲的に遂行されている物理学の基礎研究および応用研究の価値の尊さを思い知らされる次第である。

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