シャルル・ド・ゴール空港を離陸して数時間、窓下に小さくまばらに街の明かりが見える。inter-noise 2023 組織委員の一人として会議を無事に終えた昨年とは少し異なる心持ちで長い旅路の帰路についた。8 月25 日(日)~ 29 日(木)の5 日間、Nantes(France)で開催された53 回目の国際騒音制御工学会議 inter-noise 2024 に小林理研から廣江、横山、小林の3名が参加した。会議テーマは開催地出身の冒険小説家にちなみ“From Jules Verne's world to multidisciplinary approaches for Acoustics & Noise Control Engineering”である。会議全体の開催状況について報告する。
8 月25 日(日)の初日。定刻の16 時を少し過ぎて始まったオープニングセレモニーは、司会のJulien
Cesbron 氏の下、まず組織委員長Adrien Pelat 氏の挨拶があり、今回のinter-noise の参加登録者が62 ヵ国から1,874 人(2023 年:43 ヵ国/ 地域から1,272 人)で、一般参加1,415 人(857 人)、学生422 人(415 人)、展示会参加者35 人の非常に大規模な会議となったことが報告された。地域別ではヨーロッパ地域が1,209 人(220 人)、アジア太平洋地域が446 人(988 人)、アメリカ地域は82 人(64 人)であった。続いて、フランス音響学会会長Jean-Dominique Polack 氏が母国開催を歓迎する挨拶を行った後、I-INCE 会長Luigi Maffei 氏がinter-noise 2024 の開会を宣言した。最後に、組織副委員長Judicaël Picaut 氏から、オンライン会議アプリの説明、Young Acousticians 担当のMathieu Gaborit 氏からYoung Professionals 企画(YP 関連のSocial Event, Flash Talk Challenge など)やOther Event 企画(Women in noise control lunch など)の説明があった。
開会式後のPlenary Lecture は、Marion Burgess 氏が司会を務め、Christine Erbe 氏(Curtin University)が“Ocean Noise and its Effects on Marine Mammals”を講演した。実際の海中での収録音や海洋哺乳動物(Marine Mammals)の歌声の試聴、水中マイクや分散型音響センシング技術(DAS)を用いた測定技術など、非常に興味深い話題であった。続けて楽器の発音機構をコントや実演を交えて紹介する約1時間の演奏パフォーマンスがあったが、「ザ・ドリフターズ」のコント劇を見ているようで少し懐かしかった。その後、Welcome Reception を楽しんで、初日は終了した。
2日目から5日目午前まで、ポスター会場を含む16 の会場で研究発表が行われた。Technical Sessionは5つの領域(Vibration & Acoustical Engineering Science、Industrial & Transportation Applications、Material, Architectural & Environmental Applications、Human Factors、From Jules Verne to Multi-Disciplinary Approaches)と21 の分野で構成された。対面及びオンラインの参加による口頭やポスターの発表者数が1,100 件を超えたため、発表を早朝8時~夕方18 時20 分の長時間スケジュールとし、かつ、ポスター発表を毎日2~4セッションも組み込んだ上に、残るもう一つの Plenary Lecture(Advanced Characterization of Urban Sound Environments, Arnaud Can 氏 (Ghent University))を4日目の昼に開催し、4つのKeynote Lecture は2件ずつ並行で開催するなど、2023 年以上の超過密スケジュールであった。また、すべての会場への動線である1階の吹き抜け空間に設けられた機器展示場(72 ブース)は多くの参加者で大変盛況であったが、2F Lobby の Poster Session会場は機器展示と比べると参加者が少なく感じた。最終日の5日目は12 時までにすべてのTechnical Session が終了し、12 時30 分からクロージングセレモニーが始まった。まず、司会の事務局長 Julien Cesbron 氏から会議の様子をまとめた短いビデオ紹介があった。つづけて、組織委員長Adrien Pelat 氏が組織委員を紹介しながら壇上に呼び寄せ、5日間にわたる会議を陰で支えた組織委員全員と一緒に最後の挨拶を行うという派手なパフォーマンスでセレモニーを盛り上げた。そして最後に、I-INCE 会長のLuigi Maffei 氏が挨拶に立ち、inter-noise 2024 の閉会を宣言して会議は幕を下ろした。
今回のinter-noise 2024 は、会議前後にパリで開催されたOlympic Paralympic 2024 に刺激されたのか、近年稀にみる参加者数、発表者数、展示企業数を記録した「華やかな国際会議」であった。次回のinter-noise 2025 はBrazil のSão Paulo で8月24 日(日)~ 27 日(水)の日程で開催される。どの様な inter-noise になるのか。その成功に期待したい。
(理事 廣江正明)
会場のNantes Congress Centre
2024 年のinter-noise は、2019 年以来、コロナ禍を経て、5年ぶりに海外での国際学会オンサイトでの参加となった。ロシア上空を飛行できない国際情勢の中、グリーンランド上空を飛行し、日本から約14 時間半をかけて開催地フランスに降り立った。2024 年夏、パリではオリンピックに続き、数日後にパラリンピックが開会される日程で、往路は(その数日後に見事、悲願の金メダルを獲得した)パラリンピック車椅子ラグビー選手団と乗り合わせた。大会を前にした選手達のいきいきとした笑顔、力強さは、私の心を躍らせた。会場は、パリからさらにTGV で2時間半ほどのフランス西部に位置するNantes の国際会議場で、2023 年に千葉・幕張メッセで開催されたinter-noise 2023 の約1.5 倍、1,800名を超える参加者が集い、オープニング、発表会場、コーヒーブレイク、バンケット、クロージング、どの場面も活気に満ち溢れていた。私は、2021 年以降、最近の日本ではあまり馴染みのない騒音レベルの高い工場や作業場を対象とした職場騒音(Occupational noise)のセッションで発表しているが、この分野の海外オンサイトでの発表は初めてで、日本からの発表は他になく、会場には見知らぬ顔が多かった。当該セッションでは主に欧州から19 件もの発表があり、関心の高さが伺えた。今年は、2023 年に約30 年ぶりに改訂された日本の騒音障害防止のためのガイドラインの概要と日本における騒音性難聴防止のための動向について、報告した。日本の法令は日本語だけで公布されているものが多く、国際労働機関(International Labour Organization;ILO)が公表しているデータに日本の法令に関する情報は含まれていない。今回、ガイドラインが改訂されたタイミングで報告する機会を得られたことは幸いであった。会場から、ガイドライン改訂で国際整合化をはかり新たに取り入れられた個人の騒音曝露量を測定するための騒音曝露計や、騒音測定や健康診断の実施時期について、質問やコメントを頂いた。同セッションでは、韓国からの報告もあったが、公表されている資料では世界的に主流である個人曝露を測定する規定であったが、発表では日本の旧ガイドラインと同様、空間の音圧レベル分布を測定する「場の測定」について報告されていた。文献調査ではわからない実情であった。また、2020 年に聴覚保護具の遮音性能測定法に関する現行JIS 規格(ISO 規格を国際対応規格とする)が制定されて以降、当所でも取り組んでいるReal Ear Attenuation at Threshold(REAT)法については実験実施に膨大な労力を要するため近年はAcoustical Test Fixture(ATF)やシミュレーションによる検討が主流で、16 名の被験者を用いるREAT 法は実施していないといった報告もあり、試験機関では実施しているものの、研究機関ではあまり実施されていない実情にも納得した。また、日本ではまだ実施例がない衝撃音に対する聴覚保護具の遮音性能評価についても欧州での取り組みが紹介された。会期中、15 もの講演会場でパラレルに発表が進行する中、主にCommunity Noise & Health のセッションを聴講した。欧州からの発表では、交通騒音・振動、風車騒音による心理的影響や健康影響調査の他、子どもを取り巻く騒音環境の影響調査、パーソナル機器による聴取状況調査、また、騒音感受性の評価方法に関する研究も報告された。世界中の都市が不気味に静寂であったコロナ禍を経て、経済活動も研究活動も騒音環境も従前の日常を取り戻しつつある事を改めて肌で感じた。
オンサイトで参加できたinter-noise 2024 は、久しぶりに心地よい緊張に包まれ、多くの刺激を受けることができた5 日間であった。
(騒音振動研究室 横山 栄)
2024 年のinter-noise が開催されたフランス西部の都市・ナントは、開催期間中の外気温が最大で28℃程度で、湿度も高くなく、昼間は非常に過ごしやすい気候であった。一方、朝夕の最低気温は10℃付近まで落ちる日もあり、半袖だけで渡仏してしまった他の参加者はあまりの寒暖差に震えていた。日本に帰ってきて空港施設から屋外に出た途端、多湿で暴力的な空気の固まりに襲われて、一気に疲れが出てきた。まだその疲れが癒えないまま、この参加報告をしたためている。
今回、私が発表した内容は、2023 年の幕張で発表したJAXA・東京大学・成田国際空港振興協会との共同研究の成果であるJ-FRAIN に関する発表の続きであり、2022 年に成田国際空港で実施した大型マイクロホンアレイ計測の報告を行った。J-FRAIN は着陸経路周辺の騒音予測を行うためのフレームワークであるが、騒音予測のための音源モデルをマイクロホンアレイによる実測データから作成する点が特徴であり、少しずつ対応機種を増やしていく必要があるため、今後も継続的な開発を行っていきたい。私の発表に対しては、DLR(Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt:ドイツ航空宇宙センター)の方が興味を持って下さり、J-FRAIN の音源モデル検証として、より複雑な音源モデルを有するNASA のANOPP や、JAXA のAiNEST との比較をしてはどうかと提案してくださった。これまで実測値こそが真値であるとして検証を実施してきたので、新しい視点からのアドバイスに感謝したい。
自身の発表以外の点では、講演発表数が非常に多く、種々の詳細なテーマについてセッションが成立していたことが印象的であった。騒音測定手法、マイクロホンアレイ技術、音源モデル化とシミュレーション技術、流力騒音、航空機騒音、空飛ぶクルマ(Urban Air Mobility)、タイヤ・路面騒音、道路騒音、鉄道騒音、屋外伝搬、遮音壁、インフラサウンド、職場騒音、音質評価、可聴化技術、風車騒音、衝撃音など、聴講したいセッションが山盛りであった。発表が最終日まで設けられており、日程的に余裕があってこれらのテーマを聴講できるかと思いきや、セッションの時間が重複していることが多々あり、せっかく現地参加しているにも関わらず生で講演が聴けず残念に思ったことが何回もあった。一方、全ての講演発表は録画されており、会期終了後も暫くは閲覧可能とのことであるので、このあとゆっくり録画データで聴講したいと思う。帰国後もまだ、私のinter-noise 2024 は終わっていないようだ。
(騒音振動研究室 小林知尋)
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