2024/ 7
No.1651. 巻頭言 2. 補聴器の性能評価方法に関する研究 3. 最近の騒音計のネットワークやクラウドベースのモニタリングシステム
潜在的な音の生理的影響
理 事 廣 江 正 明先月、春の「騒音入門研修講座」が無事に終了した。この講座は、秋の「圧電物性・デバイス講座」、「音響科学博物館」(音に係る計測機器や楽器等の展示品の無料見学)と共に当所の研修事業の一つである。私自身、20 年ほど前に先輩から講師の役目を引継ぎ、15 ~ 16 年にわたっていくつかの講師を務め、数年前に若手にその役目を引き継いだばかりである。
春の講座は、毎年2日間にわたって開催し、期間中に音・騒音、現場測定、低周波音、吸音・遮音など、音(騒音)に係る各分野の基礎を学ぶと同時に、所内の音響施設や実験装置の見学、測定機材を用いた実習を行っている。この見学や実習で、日頃、滅多に体感できないような非常に大きな衝撃的な音や低周波音を体感・測定できることが春の講座の一つの特徴である。とくに、大砲のような大きな衝撃音を聞いた時の迫力感に驚く参加者が多い。
「音」は、ヒトが外界の状態を知るために持つ五感の一つである「聴覚」で感じ取る感覚で、非常に身近な「空気のような」存在である。人によって毎日聞いている「音」の大きさに違いはあるが、「音」を全く聞かない日はない。自動車通勤者は加減速の際のエンジン音や周囲を走行する車やバイクの通過音を聞きながら運転しているし、公共交通機関の利用者は駅や車内の案内放送、改札通過のサイン音を聞いて、乗り降りやタッチ操作の良否を判断している。「音」(聴覚)は日常の行動を支える非常に重要な感覚である。
ところで、最近、イヤホンを耳に挿してスマホやタブレットで再生した音楽等をずっと聞いている方をよく見かける。サブスク式の音楽配信サービスの拡大やBluetooth 機能付きのワイヤレスイヤホンの普及で、混み合う場所でも他人に迷惑をかけず、自由に音楽等を聴くことができるようになったためかもしれない。ただ、時間や場所を気にすることなく、長時間にわたって「音」を聴き続ける行為は、実は耳にとっては危ない習慣である。子どもは1週間当たり75 dB で40 時間以上、成人は80 dB で40 時間以上のペースで聞き続けると、難聴の危険があると指摘されている(WHO 資料:(1) 1.1billion people at risk of hearing loss, (2) Safe Listening Devices and Systems 参照のこと)。
「音」を聞き続ける累積的影響による耳の悪化は徐々に進行するため、著しい大音量に伴う即時的な影響と異なって聴力低下に気付きにくい点が恐ろしい。新型コロナウイルス感染症の拡大でオンライン会議が広く普及し、普段からヘッドセットを利用するようになったためか、音楽等をヘッドセットで聞きながらパソコンで作業をする時間が長くなった。若い頃よりもボリュームが上がったように思うのは気のせいだと願いたい。