2024/ 4
No.1641. 巻頭言 2. 接着方法によるせっこうボード二重壁の遮音性能の変化 3. ヒアラブルウェア「ASMOLA」
未知の人工知能
理事長 山 本 貢 平旧約聖書は次のように語った。「神はご自分に似せて人を創造された(創世記、1-27)」と。あれから長い時間が過ぎた今、「人は自らに似せて人工知能(AI:Artifi cial Intelligence)を造り始めた」と語れるかもしれない。
半世紀以上前、「知能を持つ機械」には未知の憧れがあった。漫画には「鉄腕アトム」(手塚治虫、1950 年~ 60 年代)が登場し、映画「2001 年宇宙の旅」(1968 年)には、HAL9000 というコンピュータが現れた。鉄腕アトムは、物事の善悪を理解して世界の貧困や差別と闘うロボットである。一方のHAL は宇宙船のナビゲータであるにも関わらず、殺人を犯して人間の支配から逃れようとする悪意あるコンピュータであった。フィクションであっても、知能を持ち、人間と会話する自律型機械の存在が、我々に強烈な印象を与えたのは事実である。
ギリシャ神話の時代、人々は神々と共存していた(ギリシャ神話、高津春繁訳)。その神々は人と同じように愛憎や怒りの感情を持つが、能力が人より優れた存在として描かれている。すなわち、「より早く、より高く、より遠く、より強く」という、オリンピック精神に価値を持つ勝者の存在であった。この神の能力に憧れて、人は自動車や鉄道、航空機、重機のような、人間の身体能力をはるかに超える機械を実現してきたのかもしれない。また、神々は「不死」であり、人間にはない「予知」という能力を持つ。予知により未来の出来事を知り、戦争や災害から人々を守ることもできた。予知能力を持ちたいという願望もコンピュータによる高精度予測技術として進歩を続けている。
神のような高い能力を持ちたいという願望は、知覚や運動機能を含むロボット技術の研究と、人工知能という人間の思考機能の実現に広がってきたのではないか。すでにコンピュータと会話できる音声認識装置、顔や画を認証する画像認証装置は普及している。今年、打ち上げに成功したH3 ロケットは、位置や姿勢の観測と自動制御アルゴリズムの総合的制御機能がなければ目的軌道へ到達できなかったであろう。また、近い将来に実現すると思われる無人飛行機、無人高速鉄道、無人自動車も、乗客の生命維持と安全な操縦制御を行う人工知能を有しなければ成立しない。
一方、最近の人工知能は人間の生物的機能である学習という行為を始めた。人間の記憶容量を超える大量の学習情報を、思考機能を模したアルゴリズムで分析し、行動の評価と選択まで行えるようになってきた。その成果なのか、2022 年の後半に現れた生成AI(Generative AI)とは一体何者なのだろう? 人のように文章、音楽、絵画など著作物を生成できる存在だという。いずれ医療や司法に関わる知的存在になるかもしれない。しかし、それに留まらないであろう。物事の善悪や愛憎といった感情のアルゴリズムを持ち、運動機能との総合制御が可能になれば、かつての鉄腕アトムやコンピュータHAL が再現できるのではないか。はたして自律した生成AI は人間の能力を超えた存在になるのだろうか? まさか、「人は自らを超える神を創造しようとしている」ではあるまい。