2023/ 7
No.161
1. 巻頭言 2. 多孔質プロピレン(C-PP)エレクトレットの圧電性と振動検出デバイス 3. 肩掛式録音再生機
4. 小型低周波マイクロホン

     <技術報告>
 小型低周波マイクロホン

リオン株式会社 技術開発センター  伊 藤   平

1.はじめに
 地震、津波、火山の噴火などが発生すると、1 Hz 以下の超低周波音(インフラサウンド)が生じることが知られている[1]。この超低周波音は数百~千 km伝搬することから、地球環境モニタリングにおいて重要な情報源となり、多数の地点で観測することが望まれる。低周波音計測用センサとして微気圧計、1/2インチ径の計測用インフラサウンドマイクロホンなどが知られているが、高価であることや、専用の電源、アンプなどを必要とすることから、多数の観測点に設置するのに不向きである。これらの問題を解決するため、安価、低消費電力、設置が容易な小型低周波マイクロホンを開発した。
 他方で、自動車走行時の騒音源となるボディ表面で発生する風切り音、乱流などの測定をするために、測定対象の気流を乱さない、小型・薄型のセンサが望まれていることから、マイクロホンの薄型化も併せて行った。

2.小型低周波マイクロホンの仕様
 小型低周波マイクロホンXE-1Lは、補聴器用に開発した小型のエレクトレットコンデンサマイクロホンEU-81を応用して作製したものである。プリアンプ一体型で、一般的な計測用マイクロホンと比較して部品点数が少なく、構造が簡単なため量産性に優れ、安価にすることが期待できる。測定音圧レベルに応じて使い分けることを想定し、感度レベルが異なる高感度型、低感度型(以降それぞれXE-1L(H)、XE-1L(L)と呼ぶ)の2種を開発した。また、消費電流は1.0 mA と低く、サイズは約12 × 8 × 4.7 mm と小型である。主な仕様を表1に、外観を図1に示す。

表1 XE-1L の仕様
仕様XE-1L(H)XE-1L(L)
感度レベル(250 Hz)-41 dBV/Pa-69 dBV/Pa
自己雑音レベル33 dB(A)53 dB(A)
最大入力音圧124 dB SPL 140 dB SPL
電源電圧3.0 V
消費電流1.0 mA
サイズ約12 × 8 × 4.7 mm

図1 XE-1L の外観

3.周波数特性の評価
3.1. 方法
 音圧レベルの国家標準は1 Hz以上であり、1 Hz未満の周波数においては日本国内でのトレーサビリティ体系が確立されていない[2]。そのため、超低周波領域のXE-1Lの特性評価は特定二次標準器となる標準マイクロホンを用いた比較校正ではなく、図2に示すような低周波音カプラ[3]を介した計測用インフラサウンドマイクロホンとの特性比較により行った。カプラ内を密閉し、内蔵ピストンによる圧力の変化によってカプラ内に各周波数で114 dB SPL の音圧が発生するよう調整後、インフラサウンド測定で広く用いられている Brüel & Kjær 製の1/2 インチ径マイクロホン Type 4964 のマイクロホンカートリッジ単体(プリアンプなどの周波数特性を除した) の0.1 ~ 1 Hz における周波数特性を平坦とみなし比較評価した。
 0.1~31.5 Hz未満は前述の通り低周波音カプラ、31.5 Hz以上はIEC 61094-8に準拠し無響室にてXE-1Lの周波数特性を評価した。

図2 低周波音カプラ 断面イメージ図
3.2. 結果
 図3に絶対感度レスポンス、図4に250 Hz 基準の相対感度レスポンスを示す。
図3 絶対感度レスポンス

図4 250 Hz 基準の相対感度レスポンス

 XE-1L(H)は- 41 dBV/Pa と感度が高いため、自己雑音が低く小音圧の測定に適する。対してXE-1L(L)は-69 dBV/Paと感度が低いため、最大入力音圧が高く大音圧の測定に適する。また、図4に示すように、XE-1L の特性は0.1 Hz ~ 4 kHz で平坦な特性であった。以上より、開発したXE-1Lは低周波音計測用マイクロホンとして十分な性能を有していることが示唆された。また、量産性が高く、低消費電力、小型で設置が容易であるため、広範囲にわたる多数の観測点設置や低周波音の長期監視に適している。

4.小型低周波マイクロホンの構造
4.1. 気圧調整口
 マイクロホンのカットオフ周波数を低周波領域まで伸ばすためには、気圧調整口(背気室と外部との間に形成される通気路)を狭く、長くし、音響インピーダンスを大きくする必要がある。
 計測用に開発した1/2 インチ径マイクロホンUC-59Lでは、リング状のスペーサの円周に沿って狭く、長いスリット状の気圧調整口を設けたが[4]、XE-1Lは小型であるため同様の構造にした場合、気圧調整口の長さを十分に確保することができない。また、補聴器などに用いられる小型マイクロホンでは振動膜に小さな穴を開けて気圧調整口とするのが一般的だが、その穴をより微小にすることは加工上の限界がある。そこで、振動膜を貼り付けている振動膜枠の底部に、図5のような背気室と外部をつなぐトンネル状の気圧調整口(青矢印部)を設けた。

図5 XE-1L マイクロホン部の概念図

 振動膜枠は薄い金属板でできており、内部には図6のような渦巻き状のトンネル構造が形成されている。トンネル部の断面積を小さく、また渦巻き状とすることで小型マイクロホンにおいても、十分に大きい音響インピーダンスを持つ気圧調整口を形成することができた。この構造を用いることで、XE-1Lの低域カットオフ周波数の設計値を0.1 Hz とし、かつ個体間ばらつきを小さくすることができた。
図6 振動膜枠にある渦巻き状のトンネル(気圧調整口)

4.2. 薄型化
 XE-1Lはケーブル断線防止のため、マイクロホン部を図1のように厚さ4.7 mm のケースに収納しているが、内蔵しているマイクロホン部のみでも薄型マイクロホンとして使用することができる。サイズは原型となったEU-81 が3.55 × 2.8 × 1.3 mm なのに対し、端子部を除くと8.3 × 2.8 × 1.0 mm である。EU-81 とXE-1L マイクロホン部の同尺の断面図を図7に示す。
図7 EU-81 とXE-1L マイクロホン部の断面図

 EU-81では振動膜- 固定電極部とプリアンプ部を縦に積み上げているのに対し、薄型マイクロホンは振動膜-固定電極部とプリアンプ部を平置きにすることで薄型化を実現した。平置きしたことと、外来ノイズ対策のために回路を追加したことでフットプリントは大きくなっているが、厚さを1.3 mm から1.0 mm へ薄型化することができた。
 図8の比較写真から、薄型マイクロホンは1/2インチ径計測用マイクロホンと比較すると小型・薄型になっていることがわかる。また、薄型マイクロホンの周囲にフェアリングと呼ばれる流線形の部品を取り付けることで、自動車のボディ表面などに取り付けて測定する際の気流の乱れを最小限に抑えることができる。
図8 フェアリングを取り付けた薄型マイクロホンと計測用マイクロホン

5.おわりに
 今回、補聴器用マイクロホンを応用した小型・薄型の低周波マイクロホンを紹介した。
 地球環境モニタリングの分野においては、量産性の高さ、低消費電力である利点を活かし、広範囲、多数の設置をすることで、地震、津波、火山の噴火などの発生をとらえ、防災技術の発展に貢献できればと期待している。また、自動車など移動体の計測分野においては、圧力変動・分布などをとらえることで、性能向上のための一助になることを期待している。
 今後もお客様の声を確実にとらえ、様々な分野でこのマイクロホンの性能を発揮できれば幸いである。

参考文献

  1. N. Arai, et al., Geophysical Research Letters, vol. 38, L00G18, (2011).
  2. 高橋弘宜他, 音響技術/ 日本音響材料協会, 45-1 (2016).
  3. 足立大, 小林理研ニュース, 148-3 (2020).
  4. 尾崎徹哉, 小林理研ニュース, 118-4 (2012).

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