2023/10
No.162
1. 巻頭言 2. inter-noise 2023 3. 普通騒音計 NL-43 / 精密騒音計 NL-53 / 精密騒音計(低周波音測定機能付)NL-63

 
  メディアの情報と風評  


  理事長  山 本  貢 平

 幕張メッセで開かれたinter-noise 2023 は成功裡に終了した。不安を抱えてのスタートであったが、海外から多くの参加者を迎えることができた。COVID-19 による「失われた3年間」がようやく立ち去ったとの感がある。

 隣国の武漢市で「奇妙な病気が発生した」とメディアが伝えたのはおよそ4年前のことである。当時「重篤な肺炎を併発して急速に死に至る原因不明の病気」と伝えられた。連日、多くの人々がメディアに食い入って情報を求めたが、やがて科学者から「新型コロナウィルスが原因であり、飛沫や接触で感染が広がる」と伝えられた。このとき病気の実像を知り、感染を回避する方法の情報獲得にメディアは重要な役割を果たした。

 メディアの語源は英語のメディアム(medium)であり、その複数形がメディア(media)である。メディアムには霊媒という意味がある。「あの世」と「この世」の「中間」にいて、情報を伝達してくれる存在であり、英国のミステリ・ドラマにはしばしば登場する。霊媒から伝えられる死者からの情報が確かなものかどうかは誰にも分からない。また確かめようもない。霊媒を信じるかどうかに依存する。同様に我々もメディアが伝える情報が確かなものかどうかを確かめることは難しく、情報を流すメディアを信頼するしかない。実際、メディアが悪意を持って偽情報(デマやフェイク)を流したならば国民は間違った判断をするであろう。いや情報操作は世界の政治戦略なのかもしれない。我々にとって複数の信頼できるメディアを自ら選択することが最低限の安全保障となるのではないか。

 社会全体に不安が広がっているときには、どこからか風評が流れてくる。例えば新規開発のワクチン接種が始まった頃、「ワクチンとして遺伝子情報を人体に接種することは、将来の身体への影響や子供への影響がある」、「ワクチン接種で不妊になる」などの風評が出た。これらは厚生労働省サイト「Q & A」の「Q」の中で確認できた。人々が風評に困惑している様子がよく理解できる。またワクチン接種を妨げる有害な風評と言ってもよい。

 風評はテレビや新聞のような報道機関としてのメディアが流す公衆への情報ではなく、ネットメディアなどを通じて個人から複数の個人へ伝わる偽情報であって、意図的に作られる場合もある。福島原発事故の処理水海洋放出が、海洋生物を汚染するなどという風評も、化学の「希釈」という概念が分からない無知が作り出す有害な迷信である。一般に「見えないもの、聞こえないもの、香りのないもの、味のないもの、触れることができないもの」など、五感でとらえられない存在で、人体に影響を及ぼすと信じられるものには風評や迷信が発生しやすい。科学の時代であってもそうである。迷信のことを「old wives’tale」という。年配の女性から若い世代に伝えられる根拠のない俗信である。子供のころ、祖母から教わった迷信がいくつかある。しかし、私はおばあちゃんの事は信頼していたので、非科学的と分かっていても今でも迷信から抜けられない。メディアを信頼しても有害な情報には十分に気を付けたい。

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