2023/10
No.162
1. 巻頭言 2. inter-noise 2023 3. 普通騒音計 NL-43 / 精密騒音計 NL-53 / 精密騒音計(低周波音測定機能付)NL-63

       <会議報告>
  inter-noise 2023


 廣 江 正 明、杉 江 聡、牧 野 康 一、横 田 考 俊、
豊 田 恵 美、横 山 栄、岩永 景一郎、小 林 知 尋

 52回目となる国際騒音制御工学会inter-noise 2023 - Quieter Society with Diversity & Inclusion -が、8月20 日(日)~ 23 日(水)の4日間、首都圏・千葉の幕張メッセで開かれた。2011 年の大阪から数えて12年振りの日本開催であると同時に、多くの日本人参加者にとって久々の対面会議であった。小林理研からは、発表者として杉江、牧野、横田、横山、豊田、岩永、小林の7名が参加した。今回のinter-noiseのため、坂本実行委員長の下、30数名から成る実行委員会が組織され、山本理事長は名誉顧問、廣江は技術プログラム委員、土肥はソーシャルイベント委員として会議に参加し、その準備・運営・開催に携わった。
 8月20 日(日)の16 時、定刻どおりに始まった開会式では、楽書家の今泉岐葉氏による書道パフォーマンスの後、坂本実行委員長、熊谷千葉県知事、羽田音響学会会長の順に、歓迎の挨拶があった。続いて、I-INCE会長のLuigi Maffei氏が挨拶し、inter-noise 2023 の開会が宣言された。最後に、システム・アプリ担当の山内委員から、オンライン会議プラットフォーム“Confit”の説明があった。Confit は論文PDF のダウンロードや発表動画の視聴が可能なオンラインシステムで、会議後3ヶ月間(11 月23 日まで)アクセス可能となっている。
 開会式直後のOpening Plenary Lecture は、佐久間氏の司会で産総研の佐藤 洋氏が行った。演題は「Sound in Life and Acoustic for Society」で、今回のinter-noise のテーマに関連した非常に興味深い話題であった。講演の後、1時間ほどのWelcome Reception が行われ、初日は終了した。
 2日目からは16の会場で研究発表が行われた。Technical Sessionは4つの領域(Engineering Science、Transportation & Industry、Space & Material、Human & Society)、18の分野に分類されていて、最終的に、口頭・事前録画・ポスターを合わせて計883 の発表が集まり、77 のセッション・プログラムが構成された。880超の発表に2つのPlenary Lectureと4つのKeynote Lectureが加わったため、早朝の講演や発表を8時20分から始めても、最も遅いセッションの終わりが18 時20 分になる時間割となった。まさに超過密スケジュールであったが、座長を始めとした全スタッフの協力のお蔭で、最後まで大きなトラブルもなく無事に研究発表が行われた。また、2階LobbyのPoster SessionやConvention Hallの機器展示(31ブース)にも多くの参加者が訪れ、いずれも大盛況であった。
 最終日は15時にすべてのTechnical Sessionが終了し、その20分後、Judith L. Rochat氏 による Closing Plenary Lecture「Committing to Full-Spectrum Noise Equity」が行われた。続いて16時20分から閉会式が始まり、まず、坂本委員長から会議報告があった。今回のinter-noiseの参加登録者総数は1,272 人(43ヵ国/ 地域)で、一般参加が857人(67%)、学生が415人(33%)であった。国別の上位3位は日本(514人)、中国(164人)、韓国(142人)で、地域別ではアジア太平洋地域が988人(78%)、ヨーロッパ・アフリカ地域が220 人(17%)、アメリカ地域は64 人(5%)であった。最後に、開催状況の写真アルバムをスクリーンに映しながら、委員長が組織委員の活動を労うようにメンバーを一人一人紹介し、4日間にわたるinter-noise 2023 を総括した。続いて、I-INCE 会長のLuigi Maffei氏が再び挨拶に立ち、組織委員会の活動を労った後、inter-noise 2023 の閉会を宣言して長い4日間に幕を下ろした。
 今回のinter-noise 2023 を振り返ると、まさに日本の組織力が光った国際会議であった。次回のinter-noise 2024はFrance のNantesで8月25日(日)~29日(木)の日程で開催されるが、その成功を期待したい。
(理事 廣江正明)

開会式の模様

 日本中記録的な猛暑が続く中、12 年ぶりの日本開催となるinter-noise 2023 幕張が開催された。私にとってはinter-noise 2019 マドリードから4年ぶりの対面開催の国際会議となり、少し興奮気味に会議に臨んだ。2件の発表と座長という大役もその興奮に拍車をかけていた。会議はその興奮状態そのままに始まった。開会式での書道のパフォーマンスでは、躍動感のある筆さばきから凛とした富士山に見立てた「響」という文字が浮かび上がり、会場の感動をさらっていた。その後の佐藤 洋氏の基調講演は、ユーモアたっぷりで会場を飽きさせず、あっという間の1時間であった。
 私は、1件の発表と座長も含めて、音響材料と建築音響のセッションを中心に聴講した。音響材料の分野での特徴は、音響メタマテリアル(例えば、ヘルムホルツレゾネータ等の共鳴機構を組み合わせて低い周波数領域の吸音を実現)関連の発表が多いことである。「音響メタマテリアル」では、8/21(月)と22(火)のそれぞれ午後に11 件ずつ(合計:22 件)の発表があった。実は、私が座長を務めた「音響材料一般」でも音響ブラックホールの発表があり、その際に聴講者が1.5 倍ほど増え、議論が活発であった。
 建築音響分野では、私が聴講した範囲という条件付きであるが、持続可能性に関連したテーマの発表が多くなってきた印象を受けた。「木造建築物の遮音性能」(発表8件)はその最たるものである。国内からの発表が当然最も多いが、韓国、スウェーデン、カナダ及びフランスから発表があった。Jean-Luc Kouyoumji 氏(仏)は、“Basajaun”という持続可能な木造建物に関するヨーロッパのプロジェクトの一環として、木造壁の遮音性能を機械学習で予測し、設計するという試みを発表していた。実測結果とよく対応した予測結果が得られていたようである。しかし、Jean-Luc氏とこの発表の前日に夕食を共にしたが、やはりコインシデンス限界周波数領域等の共振現象の予測は難しいようである。
 「床衝撃音・固体音」(11 件)も聴講した。国内でも注目されている分野である。この中でも、Carl Hopkins氏(英)が、崩落した建物から固体音を用いて生存者を探す方法に関して、数値解析を用いて検討していたのが印象に残っている。地震等の多い我が国にとって重要な検討のひとつといえるのではないだろうか。
 最後に。実をいうと、3日目は体調を崩し出席しなかった。熱がやっと下がった数日後、ふと窓の外をみると、夏の入道雲の上に秋のすじ雲が見えた。秋の訪れとともに、あの熱気に満ちたinter-noise 2023 も終わったのだなと数日遅れで実感した。
(理事/建築音響研究室長 杉江 聡)

会場ロビーのinter-noise 看板
右は開会式で披露された今泉岐葉氏の書道パフォーマンス作品「響」

 対面でのinter-noise参加は2019年のマドリッド以来となった。会期中の幕張は残暑が厳しく、また会場内は冷房がよく効いていて、まるで海外での開催のような雰囲気(?)を味わうことができた。
 自分の発表は航空機騒音のAdvanced Monitoring & Measurement というセッションで、国内外の航空機騒音モニタリングについてのインターネット調査結果の報告だった。所内の練習では5分オーバーだったが、何とか削って、許容範囲の時間でおさめることができた。海外の方にも興味をもってもらい、2件の質問があったが、うまく答えることができず、連名の篠原さんに代わりに答えていただく、という始末であった。次回に向けて精進したい。
 私は主に航空機騒音関連のAirport Noise、Airport Noise Modeling & Mapping、Advanced Monitoring & Measurement、屋外伝搬のOutdoor Noise Propagation、騒音政策に関するNoise Policy & Management を聴講した。航空機騒音のセッションに興味深い発表が多く、多くの時間を同じ会場で聴講し、なかなか他のセッションに行くことはできなかった。ただし、今回はConfit というシステムが使われて、すべての講演の録画を後から視聴することができ、大変便利だった。従来どおりの対面での研究会ではあったが、このようなオンラインも併用できるようなシステムを導入することによって、参加者の利便性が高くなり非常に有意義だったと思う。全講演の録画など、運用上は大変な労力だったと想像する。大きなトラブルもなくシステムを動かしていただいた、実行委員の諸先生に感謝です。ありがとうございました。
 最後にバンケットについて触れておく。「夏祭り」ということで、屋台での食事提供と盆踊り会場が用意され、海外からの参加者も大盛り上がりで、喜ばれていたと思う。事前の準備から当日の進行役まで奔走していた土肥さん、お疲れさまでした。
 私は会期終了後2日で体調を崩してしまった。今にして思えば、エアコン効きすぎてたとか、お弁当食べるときすごい密だったとか、かなり疲れた状態で参加してたとか、思い当たる気もする。まだまだ気を緩めるのは早かったかな、と反省。Stay safe and healthy !
(騒音振動研究室 牧野康一)

 開催国の国内Area Organizer(AO)として、初めて航空機騒音エリア(Area07)全体の運営に関わった。国内AO の仕事は、まず海外AO を指名し、その後、エリア内のセッション構成を検討、各セッションに国内および海外から各1名のSession Organizer(SO)を指名するというものであった。その上で、各SO にセッション内の構成の検討と、座長として当日の進行を依頼した。海外SOの中には現地参加が困難な方もおり、SOの代わりに座長を務めてくれる方を選任する必要のあるセッションもあった。
 航空機騒音エリアは、7つのセッション、62件の口頭発表、3件のポスター発表と活発なエリアの1つとして盛況に研究発表が行われた。発表件数の多さから、いくつかのセッションが同時間帯に並行して進行することとなり、航空機騒音関係者が発表会場で分散してしまうという事態も生じ、セッション運営の難しさも感じた。
 今回、航空機騒音に関してセッションをまたいで話題になっていたと感じるのは、「航空機騒音の新たな(適切な)評価方法」に関してである。旅客機については、現在の評価体系が検討された頃の旅客機と最新の旅客機の音質の変化や運航便数の違いによる新たな評価の必要性、Drone やUAM(Urban Air Mobility)等の新たな航空機については、発生騒音の特徴の解明と新たな音質を有する航空機騒音に対する評価の必要性、超音速機については低減されたソニックブームを含めた超音速機の発する騒音の評価方法など、航空機騒音分野全体にわたって新たな評価方法に関する議論が始まりつつあることを感じた。新たな(未知な)音質の評価を検討するために、シミュレーションに基づき航空機騒音を忠実に可聴化しようとする検討が見られたのも非常に興味深かった。
 2日目のKeynote Lecture でSchuchardt 氏は、1日目にNAA の武田氏が示した「Airport development is regional community development」という考え方に賛同され、UAM に関するVertidrome についても同様だと発言された。航空機騒音の適切な評価方法(指標)が、地域コミュニティとの対話のための共通言語となるものと考えられる。
 私自身の発表は屋外音響伝搬のセッションで行った。そのため、航空機騒音エリアで知り合った研究者は私の発表を聞いていない人が多く、会話の際に共通の話題を持つことがなかなか難しかった。今後、座長等を行う機会があれば、今度は関連のセッションで発表しようと思った。
(騒音振動研究室 横田考俊)

 大学時代、千葉ロッテマリーンズの試合に足繁く通っていたため、幕張は懐かしい思い出の地だ。私にとって、海浜幕張駅といえば完全に遊び気分で行く所だったので、まさか国際学会で降り立つことになろうとは学生当時は思ってもみなかった。開会式当日は日曜日で、幕張メッセとマリンスタジアムでサマーソニックという音楽イベントが開催されており、駅周辺はそれこそ遊び気分の若者で溢れていた。駅から国際会議場までの道中、メッセに向かうイベントTシャツ軍団に紛れていたせいで、うっかり自分の本来の目的を忘れてしまいそうであったが、入り口のinter-noiseの看板を見た瞬間、気が引き締まると同時にものすごい緊張に襲われた。それもそのはず、私は対面形式での学会発表はかなり久しぶりで、しかもそれが国際学会である。更に運の悪いことに、自分の発表は最終日午後。そこまで心臓が持つだろうか、と不安になりながら会場に入った。
 基本的には自分のメインの分野である音響材料と建築音響のエリアを聴講していた。杉江の報告にもあったが、吸音材料のセッションでも、持続可能性を意識した潮流があるように感じた。例えば、環境保全の観点から、植物系の天然資源を活用してMPP(Microperforated Panel)を製造する試みや、農業廃棄物である稲わらを使った吸音材等の発表があった。こういった材料は、建築材料として用いる場合には、耐火性能を有しているかが今後の課題となるであろう。また私は、学校や保育施設等の音環境に関するセッションで発表した。近年、建築音響分野では非常に注目されているテーマのひとつである。今回は特に、教師の発する声と聞き取りやすさの関係、また教師の喉の負担等に着目した発表が多く見られた。私が発表した内容は、気泡緩衝材(梱包に用いられる、いわゆるプチプチ)の吸音性能に関する検討で、実は音響材料のセッションで発表する方が良いか、ギリギリまで悩んだのだが、元々は保育園の音環境を改善する目的で、誰でも簡単に手作りできる吸音体を製作するためにプチプチに着目したので、本セッションを選択することにした。他の発表と少し毛色が違うこともあり、どんな質問がくるか不安であったが、恥ずかしながら、英語での口頭発表4回目にして初めて、質問の意味を理解して回答することができた。これまでの国際会議では、英語力以前に会場の明瞭度が低くて質問が聞き取れないことも多かったが、今回は発表が録画されているためか、質問はマイクロホンを通して行われ、適切に拡声されていて非常に聞き取りやすかった。このセッションで議論されていたように、コミュニケーションを主体とする空間での明瞭度の向上は必要不可欠なのだと、改めて実感した。
(建築音響研究室 豊田恵美)

 2021 年、2022 年とコロナ禍でのオンライン参加が続き、2019 年以来4年ぶりに対面での国際学会参加が叶った。会場では、相手の表情が見え、限られた質疑応答時間の後でも意見を交わす時間があり、2022 年度に調査した欧州WHO 環境騒音ガイドライン2018 関連の論文の著者らに挨拶する機会もあり、また、機器展示では最新の計測器を実際に手に取ってみる事ができ、オンライン参加では得られない非常に有益な時間であった。
 今回、inter-noise では初めてOccupational Noise & Hearing Lossのセッションで9件のChairを担当し、私自身も2021 年、2022 年に続きこのセッションで発表した。これまで日本ではこの分野の研究者は少なかったが、今回は日本から私を含め4件の発表があった。日本では、4月に関連ガイドラインが改定され、これに先立ち聴覚保護具の遮音性能測定法に関する規格も制定されており、関心が高まりつつある。Noise Policy & Managementのセッションでは環境省による「日本における騒音に関する法令」の発表があったが、海外の参加者から非常に高い関心を持たれており、特に日本の事情が海外に知られていない事を痛感した。Occupational Noiseの日本の法令についても、関連機器を紹介している機器展示の海外担当者も把握しておらず、この分野ではまだ国内に対する情報発信も必要であるが、海外からの情報収集と同時に、日本の情報を発信することも今後の発展に不可欠であると感じた。今回、日本人の若手の発表が非常に多く、英語での発表や質疑応答もしっかり準備して臨んでいたことは、将来を考えると非常に頼もしい。
 最後に、過去の日本開催のinter-noiseを振り返ってみると、1975年仙台、1994年横浜、2011年大阪に続き、今回の幕張は4回目であった。その間、プロシーディングスは、1994年の2,244ページにおよぶ3分冊の冊子から、2011年にはCD-Rになり、今回は遂にメディアによる配布はなくなり、サイトからダウンロードする形式となった。発表形式も、1975年はスライド映写、1994年はOHP、2011 年に現在のパワーポイントになり、今回は現地参加せず、プレレコーディングの動画を再生する形式も採用された。次に日本が主催国となる頃には、国際学会はどのようになっているだろう。現地会場はあるだろうか?参加者は共通言語(英語)でなく同時通訳によって互いに母国語で話しているだろうか?
(騒音振動研究室 横山 栄)

 私は、2日目のLow-frequency Soundのセッションで、超低周波音によって引き起こされる窓のガタつきを低減するために、窓に加振器を設置してアクティブ振動制御を試みた内容を報告した。2015 年に初めてのinter-noise を経験してから実に8年経過したものの、国際学会の経験は今回で2回目であったため、英語力は拙いままであったように思う。ただそれがオーディエンスに伝わったのか、質疑応答ではゆっくりと丁寧な質問をしてもらえ、なんとかコミュニケーションを取ることができた。本セッションでは、他にもドローンを用いた低周波音の計測方法などが報告され,気球などに比べてより自由に上空などから低周波音を計測できる可能性が示された。Wind Turbine Noise のセッションでは、陸上だけでなく洋上風力から発せられる騒音と水中音について数件の報告があった。陸上のものと比べて大きさや台数が異なる洋上風力の予測方法を各国の手法と比較する方法について活発に議論された。日本では、今後洋上風力の建設が多く計画されていることもあり、会場に入れない人がいるくらいの盛況で注目度の高さが伺えた。Active Control に関しては、合計4つのセッションが用意され、信号処理アルゴリズムやシミュレーション、実際の適用例など30 件以上の発表があり、今もなお研究が盛んに行われている様子が伺えた。例えば、骨伝導技術において頭部の内部を伝搬する振動を制御するなど、新たな適用例への技術発展も試みられていた。同時に目を引いたのはAcoustic Materials であった。こちらは計6つのセッションで50件以上の発表があり、タイトルにLow-frequency がつくものも多く見られた。波長の長い低周波音に対してパッシブな対策は大型化しがちであり、アクティブコントロールなどが有効と考えられている。しかし、近年のトレンドである音響メタマテリアルにより、パッシブな低周波音対策の小型化が実現すれば非常に頼もしく、今後のさらなる研究が大いに期待される。
 今回のinter-noiseは日本で開催されたこともあり、普段は発表者として参加されている各先輩方がスタッフシャツを着て裏方として走り回っておられた。トラブルが起きればすぐに駆けつけ、バンケットでは先頭に立って豪快に盆踊りを踊られており、本会議が大成功のうちに終われたのは皆様のご活躍が大きかったことは間違いないだろう。“inter-noise 2023”と書かれたその背中は大きく頼もしい一方で、まだまだ遠いところにあることも痛感した。ただ、「10年後は君たちの番だよ」と何回か言われたのは皆様のご活躍を間近で見ていた分、荷が重い。人生100年時代、世代交代などと言わずこれからも皆様の第一線でのご活躍をお祈りしております。
(騒音振動研究室 岩永景一郎)

バンケットでの盆踊り

 日本開催という歴史的な今回、私が小林理研に入所してから2018年以来2回目のinter-noiseへの参加となった。今回は自身の発表とは別に共著の発表が5件あり、日本というホーム開催にも関わらず3日間の開催期間中ずっと緊張していたように思う。
 私自身は、7年間コツコツと実施してきたJAXA・東京大学・成田国際空港振興協会との共同研究の成果について、Aircraft Noise エリアのAirport Noise Modeling & Mapping セッションで発表を行った。研究内容は、直径 30 mにもおよぶ大型マイクロホンアレイを用いて計測した航空機の音源分布図から各騒音源の音響パワーを推定し、地上で観測される騒音を騒音源毎に予測可能な騒音予測手法の構築であるが、共同研究者の尽力のおかげで対気速度(空気に対する航空機の移動速度)やエンジン回転数などの飛行パラメータに追従可能、すなわち、様々な飛行条件の予測計算が可能となったため、J-FRAIN(Japan-FRamework for AIrcraft Noise simulation)と命名して今回のinter-noiseで公表した。その結果、ぜひ使いたいと興味を持って下さった方や、J-FRAIN の特徴を利用した応用例について興味を示して下さった方が声を掛けてくれた。多くのことを伝えることはできなかったが、今回公表した技術が広く使われて、世の中のより良い音環境の構築に繋がれば幸いである。
 共著の発表のうち2件は航空機騒音の音質に関するもので、激甚騒音と呼ばれた1960 年頃の航空機と現代の航空機を比較すると、A特性音圧レベルは当然大きく低減しているが、それ以外にも音質も大きく変化しているように感じるという経験を基に、音質評価指標の算出および聴感評価実験を行った結果を公表した。聴感印象という共感しやすい内容であったため、沢山の質問を頂戴した。その中でも印象に残っているのは「電気飛行機の飛行音はどうなるか?」という質問である。私自身が電気飛行機を見たこともないのでその飛行音を想像することは非常に難しかったが、未来の交通システムが直ぐそこまで迫ってきていることを痛感した。
 最後に、本紙2019 年1月号に掲載された私の会議報告を振り返ってみると「意思疎通がはかれない状況に苦い表情をする彼の顔が、帰国した今でも頭の中から離れない」と記していたが、今回少しは改善できただろうか…。今後も世界に向けて研究成果を公表するために、初心を忘れずに励んでいきたい。
(騒音振動研究室 小林知尋)

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