2022/10
No.1581. 巻頭言 2. 時田先生を偲ぶ 3. inter-noise2022
4. 軟骨伝導補聴器の開発(第2報) <会議報告>
inter-noise 2022
山 本 貢 平、廣 江 正 明、横 田 考 俊、横 山 栄
inter-noiseは今回で51回目を迎えた。開催期間は、8月21日(日)~24日(水)の4日間、開催都市は英国スコットランドのグラスゴーであった。日本ではCOVID-19の新規感染者が連日25 万人を超える異常な事態となっていたが、同時期のグラスゴーでは対照的に対面で会議が行われた。ただし、オンラインとのハイブリッド方式も一部採用されている。小林理研からは山本のほか、発表者として横田と横山、聴講者として廣江と土肥がそれぞれ参加登録を行った。今回もコロナ感染リスクと移動の安全性を考えて全員オンラインでの参加とした。
開会式は8月21 日(日)の現地時間16:00(日本時間は翌22日の0時)に始まり、同時にライブ配信も始まった。最初に実行委員長の Barry Gibbs が歓迎の挨拶を行った。次にI-INCE 会長の Robert Bernhard が挨拶を行い、3年ぶりに参加者と対面で話せることの喜びを述べた。そして、今年6月9日に George Maling が亡くなったことを伝え、I-INCE および INCE-USA に於ける彼の功績を称えた。これで inter-noise 創始者の主要メンバー全員がこの世を去ったことになる。続いてinter-noise 2022 の開会を宣言した。
次に、共催団体であるIOA(Institute of Acoustics)の会長 Stephen Turner の挨拶があり、続いてUKAN(The UK Acoustics Network)の役員である Kirill V. Horoshenkov が、この組織の活動状況を紹介した。さらに Marion Burgess が ICA を中心として実施している IYS(International Year of Sound 2020-2021)の実施状況を報告し、社会における音響学の重要性を啓蒙する活動と、世界の子供たち向けに身の回りの大事な音についての絵画コンペの実施状況を報告した。最後にプログラム委員長の Chris Barlow が、発表会場の配置や、発表と質問時間等の必要事項を説明した。この時、ライブストリーム方式の配信は4会場のみであり、他の11会場では配信されないことが説明された。
開会式に続いて、Keith Attenborough の司会で Plenary Keynote Lecture が行われた。演題を「Sustainable Combustion Technologies Need Acoustic Research」としてキール大学の Maria Heckl が講演を行った。これ は珍しく熱音響分野であった。この後、現地ではウェルカムリセプションが行われた。
2日目からは15の会場で研究発表が行われた。発表形式は、発表者が会場で実際に口頭発表する方式と、発表者は会場にはいないが、本人が作成したビデオクリップを会場の画面で再生する方式がとられた。オンライン参加者はライブストリーム配信の4会場で聴講ができ、会場の空気を体験できた。しかし、前述のとおり他の10会場には入室手段がなく、発表を聞くことができないため不満が残った。
今回の会議テーマは「Noise Control in a More Sustainable Future」である。発表セッションは20の分野に分類され、さらに140を超える小セッションに細分化されていた。いつもの交通騒音(航空機、鉄道、道路)、環境騒音、工場・機械騒音、流体騒音、心理・健康、サウンドスケープ、音響材料、建築音響、音響教育が含まれている。音の計測や分析には、IOT や AI の技術が取り入れらえるようになった。このほかポスターセッション、機器展示(17 社)も実施されている。
最終日8月24 日(水)は、16:00 から Bridget Shield MBE による Closing Plenary Keynote Lecture が行われた。演題は「A sound Environment for Schools: Sixty years of Research into the Impact of the Acoustic Design of Schools - A Review」であった。教育施設の音響と教育効果などが話された。続いて17:00 から閉会式が行なわれた。今回の論文総数には言及がなかったが、参加登録者の総数は1,283人であったと報告された。このうち、対面参加者数は978人(76%)、オンライン参加者数は305人(24%)であり、その比は3対1であった。学生参加者数は427人であり全体の1/3を占めることが報告された。この他、国別では参加者数は示されなかったが、地域別としてヨーロッパ・アフリカ地域が全体の72%、アジア・パシフィック地域が26%、アメリカ地域は3%以下であったことがスライドで示された。最後に、日本が開催国となる来年のinter-noise 2023(幕張メッセ、2023年8月20 ~ 23 日)の概要が、実行委員長の坂本慎一氏によって紹介された。幕張メッセと美しい日本の紹介ビデオの小気味よさに聴衆から拍手が起こった。
今回は対面とオンラインのソフト・ハイブリッド開催であった。オンライン配信の良さも生かされたが、スタッフの数や予算を考えるとギリギリの選択であったと思われる。次回の幕張は対面を中心として開催される予定であるが、その成功を期待したい。
(理事長 山本貢平)オンラインによる参加ではあったが、来年のinternoise 2023の日本開催に向けた準備の一環として、internoise 2022の開催状況を見て回る機会をいただいた。直近のinter-noise の動向として、公開プログラムに掲載 の口頭発表件数を領域・分野・セッションごとに整理し、今回の研究発表の傾向を概観した。
inter-noise 2022 の Technical Program は、Engineering Science 領域(物理音響、モデリング・シミュレーション、信号処理など)、Transportation & Industrial 領域(交通騒音・振動、工業騒音、建設騒音、騒音伝搬、防音壁等の対策、建築音響など)、Control Systems and Treatments 領域(能動制御と材料)、Human Factors 領域(人の知覚・反応と健康影響、サウンドスケープなど)の4つで構成される。4つの領域は20 の分野に、20 の分野は140を超えるセッションに分かれるが、分野ごとの発表件数を見ると、発表件数が60 件を超える分野が6つある。最多件数の分野“11. Building Noise Control and Architectural Acoustics”と“12. Transportation Noise and Vibration”、“9. Environmental Noise”の3つを有する Transportation & Industrial が最も発表件数が多い領域で、全件数の約4割を占めた(ただし、“10. Industrial Noise”は0件であった)。次いで “5. Vibro-acoustics and Structure-borne Noise”と“7. Thermo- and Aero-acoustics”の2つの分野を有するEngineering Science の発表件数が多く全体の約3割を占め、上位2つの領域で全件数の約3/4に達した。残る分野は、騒音の健康影響に関するセッションを含む “17. Human Perception, Response and Health Impact” であるが、この分野を含む領域 Human Factors の発表件数は全体の2割ほどに留まった。我が国では新型コロナウィルス感染防止の観点から人を対象とした研究の実施が困難で、Human Factors 領域の研究発表が少ない状況が続いている。はっきりしたことは分からないが、今回の inter-noise 2022 の発表件数の傾向は、同様な社会的背景に依るものかもしれない。来年の投稿勧誘に向けて、分野別の発表傾向について少し留意しておく必要があるだろう。
ちなみに、セッション別の発表件数のベスト5は、“8.3 Airport Community Noise”(23件)、“12.10 Tyre/Road Noise”(19 件)、“3.2 Computer Simulation and Room Acoustics”(17 件)、“11.1 The Future of Requirements, Classification Schemes and Standards in Building Acoustics”(17 件)、“11.4 Acoustics of Education Spaces”(16 件)である。空港周辺の騒音問題やタイヤ・路面騒音、建築音響の今後の基準・体系や教育施設の音響問題が近年の大きな関心事のようである。
深夜、パソコン画面の向こうで、inter-noise 2022 のClosing Ceremony が滞りなく終了し、そして、internoise 2023(会議テーマ:“Quieter Society with Diversity& Inclusion”)へのカウントダウンが始まった。12 年振りの国内開催となる来年の inter-noise 2023 は、今回以上の素晴らしい国際学会にしたいものである。
(騒音振動研究室長 廣江正明)ライブストリームでは、限られたセッションにしか参加することはできず、私の発表も含め「Airport Community Noise」の多くは聴講できず、また事前に興味を持っていた「Outdoor Noise Propagation」も聴講することができず残念であった。その一方で、半強制的(?)ではあるが、普段はあまり参加することのないセッションに参加できる良い機会を得られた。
「Smart Cities and Noise Monitoring」では、MEMSマイクロホンとシングルボードコンピュータを用いた環境モニタリングシステムの発表が多く見られた。いずれの発表も「安価」というキーワードが前面に出されており、安価なモニタリングシステムへのニーズの高さを感じた。その実現のために、MEMSマイクロホンの音響特性把握や校正方法について検討され、環境騒音モニタリングシ ステムとしての音響特性を満足するものが提案できたという発表が多かった。課題の1つとして、ISO20906(航空機騒音のモニタリングシステム)で必要とされるシステムの自動校正について、MEMSマイクロホンのシステムでどのように実現するか検討が必要であることが示された。安価なシステムであっても実用化の段階では、ISO 規格に準拠することが求められる点は興味深かった。
騒音計の機能をスマートフォンのアプリとして実装し、位置情報とともに騒音データをクラウドに上げるシステムに関して、得られたデータのグループ化方法に関する発表があった。以前、移動しながら1秒毎に収集した騒音データをGPS の位置情報とともに地図上にプロットするシステムを構築した。その際、収集したデータを基にそのエリアの音環境を評価する処理として、半径200 m毎にデータを平均するという単純な集計を行ったが、発表では Density-Based Spatial Clustering(DBSCAN)という手法により、時間的・空間的な関係性に基づき騒音データをグループ化する方法が提案され、大変興味深かった。
フランスで実施されているNEMO プロジェクトに関連した発表も興味深かった。リモートセンシングによりリアルタイムに個別の車および列車から排出される騒音と大気汚染物質を計測するシステムの開発が行われていることが紹介された。2023 年12 月までに、提案する計測システムを用いて実際の道路において爆音車を特定して135ユーロの罰則を科すという実証実験が計画されており、複数車両が混在する実際の道路状況において爆音車を特定し、その騒音レベルを他の車両からの騒音の影響を取り除き評価するシステムについて検討が進められていることが紹介された。
「Supersonic Aircraft Noise, Sonic Boom」では、キャンセルになった発表の空き時間に、座長のペンシルベニア州立大学の Victor Sparrow 教授より、超音速機分野における近年の研究動向が紹介された。「海上を飛行ルートにとることで居住地域にソニックブームが到達しないようにする研究が進められているとともに、新たな機体デザインにより、もはやソニックブームとは呼べないほど小さい音に抑えることができる研究が進められている。海上ルートの超音速機の飛行については早々に商業飛行が実施されることが予想され、新たなデザインの機体の sonic sound についてもここ数年で聞くことができるようになる。ここ数年は超音速機研究にとって非常に exciting な期間となる。」来年のインターノイズ幕張でも超音速機の研究成果をぜひ聴講したいと思った。
アレイ技術に関する「Keynote」では、計測対象の音源によってマイクロホン本数と配置には最適な条件があり、多数のマイクロホンであらかじめ取得したデータから適応的にマイクロホンを削除してくことで最適なマイクロホン数と配置を推定し、音源の分離性能を高めるという内容は非常に興味深かった。
「Tyre/Road Noise」では、各国における低騒音舗装の検討事例やCPX 車による検討について情報を得ることができた。CPX法で使用する大型車の標準タイヤが、騒音規制によりEUでは販売が禁止され、別のタイヤを使用した試験方法について検討が進められていることを知った。
自身の発表について、ビデオが無事に再生されたかも分からない不安なまま会期終了を迎えた。グラスゴーは「ブレンデットウィスキーの首都」ということをネットで発見し、閉会式後、一人ひっそりとウィスキーで不安を紛らわしつつ、inter-noise 2022 を終了した。
(騒音振動研究室 横田考俊)初めてハイブリッドで開催された第51 回のinter-noise に、オンラインで参加した。定刻を少し過ぎた日本時間の深夜24 時、日本との時差8時間のグラスゴーで、バーチャル参加者にとってはパソコン画面の中で、inter-noise 2022 は幕を開けた。3年ぶりに対面開催となったオープニングは、コロナ禍であることを忘れさせるほど、マスク姿の参加者は見当たらず、コロナ前のような景色が広がっていた。
私は、昨年に続き、今年もOccupational noise(職場騒音)のセッションで、“Occupational noise legislation in Asia-Pacific region”という発表を予定していたが、私が割り当てられた会場はライブ配信されず、かつ学会期間中には配信されない事が開会後に判明した。事前に投稿したプレゼン動画が問題なく再生されたかは原稿を書いている今もわからず、録画映像の公開を待っている。
学会期間中は、ライブ配信された4会場の講演を聴講した。「Environmental Noise Legislation and Policy」では、主に英国を中心とした欧州における環境騒音の測定・評価手法、低周波音評価、WHO ガイドラインに関連した政策、ISO規格の歴史的変遷等に関する発表があり、騒音分野における国際的な法規制の動向を知ることができた。「Long-term Health Effects of Noise in Adults and Children」では、大規模なコホート研究やレビュー研究、メタ解析、NORAH プロジェクト等の発表があり、特に欧州では、予測計算した暴露レベルや、病歴、年齢、性別等の個人属性を用いた広範囲に及ぶ地域における暴露反応関係を解析した研究が多く、興味深く拝聴した。また、「Aural diversity」では、これまでの正常な聴力を有する若年成人を対象とした平均的反応だけではなく、聴覚的な多様性を考慮したデザインの必要性が示され、難聴や耳鳴り、聴覚過敏等の聴覚障害、自閉症の方、あるいは人以外の生物も対象とする研究が紹介された。研究を遂行する際、分野横断的に多様性を考慮し、個人を尊重することを心に留めておきたい。
クロージングでは、来年のホスト国代表として坂本慎一先生が“See you in person, in Chiba!”と挨拶された数秒後に現地からの映像が途切れ、深夜1時を過ぎた部屋に静寂が訪れて、inter-noise 2022 は静かに終了した。来年は、ぜひ対面で開催できる状況となっている事を願っている。
(騒音振動研究室 横山 栄)