2023/ 1
No.159
1. 巻頭言 2. ICA2022 3. BA-S型振動子の計測への応用

 
  遅い航空機と速い航空機  


  理 事 長  山 本  貢 平

 新しい年、2023 年を迎えました。年明け早々ではありますが、皆様に残念なニュースをお伝えしなければなりません。病気療養中であった前理事長山下充康氏が、昨年10 月24 日に他界されました。享年84 歳でした。山下氏は昭和39年より50年以上の長きにわたり小林理研で活躍され、研究面からも運営面からも当所を指導・牽引されてきました。小林理研が音響分野において社会貢献を続けることができているのは山下氏のお陰と思っています。ここに私たちは感謝の気持ちを捧げるとともに、心よりご冥福をお祈りしたいと思います(合掌)。

 さて、止むことのないコロナ感染に加え、昨年2月からはロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。社会不安が漂う中ではありましたがコロナによる移動制限も緩和され、昨夏8月、国際会議Inter-Noise 2022(Glasgow)が3年ぶりに対面で開催されました。この会議から新年に明るい期待を持てそうな情報を拾い挙げてみました。

 まずドローンです。ドローンの活躍は近年目覚ましく、新たな輸送手段としても期待されています。ドローンはUAVs(Unmanned Air Vehicles)やUASs(Unmanned Aircraft Systems)と呼ばれ、遠隔・自動操縦できる無人小型航空機のことです。手のひらサイズの娯楽用から、やや大きめの産業用(撮影、宅配、農薬散布など)まであります。またUAM(Urban Air Mobility)と呼ばれるものには、人を運ぶことのできるエアタクシー(six-passenger quadcopter)も開発されつつあります。すでにINCE/Europe は2019 年にQuiet Drones をテーマに取りあげ、Inter-NoiseもDrone Noise をセッションに加えました。回転翼を持つドローンは、名前の由来(ミツバチ:Drone)が示すように羽音のようなブーンという音がします。この音には低音域に強い純音性の高調波成分、高音域には広帯域雑音が含まれており、聴感上は道路騒音と同じ音量でもアノイアンスが高いとされています。それゆえに騒音制御の研究が活発です(例えばF. Simon [NASA])。低空をゆっくり飛ぶドローンは、地上交通が未整備な遠隔地や、交通渋滞の人口密集地での輸送手段として有望視されています。そのため騒音の基準や飛行路に関する法的制限の整備に関心が高まっています。

 ドローンと対照的なのが超音速で飛行する航空機です。かつてコンコルドがその激しい騒音により、多くの国で飛行禁止となりました。しかしNASAを中心に低騒音の超音速機(Supersonic Commercial Aircraft)が開発されてきました。音速を超えると必ずSupersonic Boom が発生しますが、機体の形状設計によって強い衝撃波を緩和することができます。つまり、強いドンドン音がソフトなトントン音(Soft Thump)に低減できたのです(V. Sparrow談話)。NASAは2023 年より超音速機X-59 の音を使ってSoft Sonic Boom の社会反応(暴露反応関係)を詳細に調べます。さらに超音速機に許容できる騒音の国際基準をICAO のCAEP-14 会議(2028 年)に提案する計画です(P. Coen [NASA])。遅い航空機と速い航空機が様々な条件をクリアして、日本の上空に現れる日はそう遠くないことでしょう。

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