2016/10
No.134
1. 巻頭言 2. inter-noise2016 3. 古 筝 4. 軟骨伝導補聴器の開発
 

      <会議報告>      
 inter-noise 2016


山 本  貢 平、廣 江  正 明、
牧 野  康 一、土 肥  哲 也、横 山  栄

 inter-noise 2016(第45 回国際騒音制御工学会議)は8月21 日(日)〜24 日(水)の間、ドイツ連邦共和国のハンブルクで開催された。会場は外アルスター湖の南端西側にあるダムトーア駅に隣接するハンブルク国際会議場(CCH)であった。小林理研からは山本の他に、廣江、牧野、土肥、横山の合計5名が出席した。
 山本は、開催前日の8月20日(土)の午前8時から開かれたCSC(Congress Selection Committee)に出席した。今回は、2019年の会議開催地を選定するためのプレゼンと討議が行われた。候補として、ヨーロッパ・アフリカ地域のマドリッドとグラスゴーがプレゼンを行った。さまざまな意見が交わされた後、投票によりマドリッドを理事会に推薦することにした。このあと2020年会議の候補地選定に移り、2都市が立候補した。これらは、ソウル、福岡である。簡単なプレゼンが行われた結果、両都市を来年の最終選考の候補として推薦することとなった。

図1 会場のCCH(Congress Center Hamburg)

 午後は13時から18時半までI-INCEの理事会が開かれた。アジア・パシフィック地域のDirector-at-largeとして今年は2回目の出席であった。この理事会では、I-INCE 総会に諮る議案の検討が行われた。内容的には、I-INCE の活動状況と財務状況の報告である。今回はI-INCEの理事構成に大きな変更があった。2017年からの体制として、会長(President)はMarion Burgess、次期会長(Presidentelect)にはRobert Bernhard、前会長(immediate Past President)がJoachim Scheuren となることが承認された。この他、inter-noise2011 の時に会長であったGilles Daigle は理事会から引退する。
 8月21 日(日)は、午前中はホテル(会議場に隣接するラジソン・ブル・ホテル)で休み、午後1時から開催されるI-INCE 総会に出席した。総会では、前述の理事会からの報告の他に、CSC メンバーの選定が行われた。 アメリカ地区の1議席が投票による選定であったが、結果はブラジルのDavi Akkerman に決まった。アジアとヨーロッパ地域の候補は無投票で継続となった。
 I-INCE 総会の後、16 時より開会式が開かれた。まず4人の女性サックス奏者による歓迎の音楽が奏でられ、続いて実行委員長Otto von Estorffによる歓迎の挨拶があった。次に、ハンブルク州の環境行政についてJens Kerstan が紹介するとともにドイツ音響学会(DEGA)の副会長Jesko Verheyの挨拶もあった。この後、I-INCE 会長Joachim Scheuren が開会宣言を行った。
 続いて、副実行委員長のBrigitte Schulte-Fortkamp 女史により、Plenary Lectureの演者Sieglinde Geisel女 史の紹介が行われた。演題は「The Noise in Our Head」であり、騒音は人の頭の中で作られるという社会心理学的な説には、興味深いものがあった。18時からWelcome Reception が開かれ、海外の友人たちと再会を喜び合った。エルベ川近くのホテルでは、座長ミーティングが行われ、会議の進行についてのインストラクションが座長に与えられた。

図2 開会式の模様

 翌8月22 日(月)から3日間、15 の会場に分かれて分野ごとの研究発表が行われた。今回の会議テーマは「Towards a Quieter Future」である。いつものように交通騒音関係(航空機、鉄道、道路)のほか、建築音響、機械騒音、環境騒音、騒音地図関係の他、バラエティに富んだ内容であった。一方機器展示は8月22日(月)の夕方から、同じ会場フロアの広いスペースで始まった。展示には56 社余りが参加し、大賑わいであった。
 8月23 日(火)の夕刻には、バンケットが開かれた。今回は船に乗ってのクルーズかと思いきや、岸壁につながれた、退役大型貨物船キャップ・サン・ディエゴ号の貨物室で食事と音楽を楽しんだ。

図3 バンケット会場のキャップ・サン・ディエゴ号

 最終日、24 日(水)の15 時45 分から閉会式が行われた。今回も実行委員会より最終的な参加人数の発表はなかったが、開会前の発表では参加登録者数1500 人。国別ではドイツがトップで約310 人。2位は日本で約140 人、3位が中国で約130 人、4位が韓国で約80 人。日本は再び2位の座を取り戻したが、中国に追われる位置にある。論文数は909 件と報告されている。この公式日程のあと、8月25 日(木)〜 26 日(金)にベルリンの DIN にてサテライトシンポジウムが開催されている。 テーマは建築音響、欧州騒音政策(END)、Sound Scape and Psychoacoustics である。
(理事長  山本 貢平)

騒音と健康
 今回のインターノイズでは、2014 年に成田国際空港の周辺住民を対象に行った航空機騒音による健康影響調査の背景・方法・結果を、成田空港株式会社の尾形氏とともに報告した。これまでの海外発表は、数値解析や模型実験を用いた防音壁の遮蔽効果や音源同定の計測手法などについて報告することが多く、『人の健康と騒音の関連』を扱う分野での発表は初めてで、全くの手さぐり状態であった。自分たちの報告に対する質問が少なかったことが残念であったが、海外、特に欧州における健康影響に関する研究の現状を知ることができたのはとても貴重であった。
 「騒音と健康」に関するセッションには以下の7つがあり、3日間で計50 件の発表があった。
 1.欧州の環境騒音のガイドライン
 2.アノイアンスへの影響
 3.心臓血管系疾患への影響
 4.睡眠・メンタルヘルス・子供の発育への影響
 5.環境騒音の介入や変動の影響
 6.騒音指標と曝露評価
 7.空港周辺における交通騒音の影響(ドイツ:NORAH study)
 我々の発表を含めて日本からの参加は6件で、すべて「2.アノイアンスへの影響(9件)」のセッションである。3日間の会議期間中、2日目は防音壁や数値解析の発表会場を巡回していた為、「騒音と健康」のセッション5.と6.は聴講できなかったが、それ以外のセッションを中心に幾つかの印象深い発表を紹介する。
 「1.欧州の環境騒音のガイドライン」のセッションが最も印象に残ったが、それは騒音と疾病(健康影響)の因果関係を示す確証を得る為、もっと多くのコホート研究や症例対照研究の実施を求めていたからである。 影響要因と疾病の発生状況の関係を、時間を追いながら(遡りながら)調査するのは大変な作業量でそう容易くはないが、信頼できる結果を得る為に正論を掲げているのである。そして、WHO欧州事務局からのこうした要求に応えるように、「3.心臓血管系疾患への影響」では、H. Heritier(スイス)は心不全や心筋梗塞、 M. Sorensen(デンマーク)は不整脈の調査結果にコックス・ハザード・モデルを適用して分析した結果を、「4.睡眠・メンタルヘルス・子供の発育への影響」では、J. S. Christensenが妊娠及び幼児期における交通騒音による曝露と子供の太り過ぎとの関係を調査・報告している。
 今回の研究発表から、とくに因果関係を証明する結果が得られた訳ではないが、こうした研究が可能な環境、即ち、疾病(健康影響)に関するデータベースや曝露推計が可能な予測手法が既に用意できている点が、我が国における研究環境との大きな違いだと感じた。
 (騒音振動研究室 廣江 正明)

低周波音
 私は、超低周波音が原因で生じる窓振動の固有振動数を対象として、当所のインパルス音源と模擬家屋を用いて実施したフィールド実験結果についてポスター発表した。ソニックブームの研究者と、音圧と窓振動の線形性について議論できたことが有意義であった。また、インパクトハンマーを使用せずに非接触で窓のインパルス応答を計測した実験方法についての質問が多く、この音源の有用性が再認識できた。
 近年の国際会議における低周波音の発表は、風車関連の件数が多く、風車と直接関連がない「低周波音」の件数は少ない。今回の会議では、その「低周波音」のセッションはオーガナイズされず、約20 件弱の発表がさまざまなセッションに分散されていた。その大半の内訳は建築音響関連であり、低域における家屋の遮音・吸音性能を計測・評価するニーズが増えている感触を得た。幾つかある建築音響セッションの一つでは低周波音が特集されており、例えば、スウェーデンのGlebe らは実際の家屋を対象にした32 Hzまでの低域の室内音圧レベル分布を計算と実験で求めていた。低周波音の室内分布は、全ての窓や壁を固定端とする通常の室内音響理論では説明できない場合があり、そのため室内のどこで音を計測するべきかという議論が今後も続くと思われる。Glebe らが発表した室内音圧分布は、私が模擬家屋で計測した結果と傾向が似ており、今後もこのような実験データが必要とされていることを知ることができた。その他は、低域の吸音率を求めるための残響時間に関する研究や、フランキングの影響、壁や板等の建築材料の透過損失、ヘリコプターや航空機から発生する音などについての発表があった。20 Hz以下のインフラサウンドを対象とした研究としては、アメリカのWaxler の発表が興味深かった。風などの気象条件によるインフラサウンドの長距離伝搬について数値計算で検討したり、100 t火薬の爆発実験で発生したインフラサウンドの長距離伝搬事例を紹介したりしていた。
鉄道騒音・振動
 鉄道関連は、「鉄道騒音・振動」のセッションを中心として合計30 件程度の発表があった。近年の発表は、レール表面の細かな凹凸に起因して発生する走行音を対象としたモニタリングやレール表面切削に関するものが多く、今回の会議でも、日本の東海道新幹線の事例をはじめとして、ドイツ、オランダ、ベルギー、ラトビアなどから多数の報告がなされていた。その他には、レール近傍に設置した数十cm 高さの壁の騒音対策事例や、切土区間の新幹線騒音についての実測と予測の比較結果などの発表が印象に残った。
その他
 VR(Virtual Reality:仮想現実)のゴーグルを使用した研究、高速度カメラを使用した計測、ドローンの飛行音に関する研究など、inter-noiseに参加する度に研究対象や実験装置が変化していることを実感する。街中の教会でパイプオルガンの低音を体感できたこととともに、このことも私にとって収穫であった。
(騒音振動研究室 土肥 哲也)

図4 世界遺産の赤レンガ倉庫街

 私は2013 年以来3年ぶりのインターノイズ参加で、航空機騒音予測時の側方減衰と気象の関係を分析した結果をAirport community noise のセッションで報告した。練習では毎回時間超過していたが、本番では奇跡的に時間内に収まった。質疑もなんとか答えた(と思っている)が、全体的にはうまく発表できたかどうかは疑問であった。まだまだ英語の精進が必要と感じた。
 Airport community noiseのセッションは月曜の8時 40 分から15 時まで行われ、講演件数は欧州8件、日本4件で、航空機騒音の音源、予測、空港周辺の環境管理などに関する講演であった。私が印象に残ったのは Trow(英国)の空港周辺の騒音をLden などの平均値の 指標でなく、event-based の種々の指標でマッピングして示す試みの講演であった。騒音曝露の数と頻度を表す指標でのノイズマップ作成などは空港周辺の曝露状況をうまく表現できており、非常に有効だと感じた。国内の空港でも試算し、有効性を検討したい。
 水曜の閉会式の後には翌日から開催されるサテライトシンポジウム参加のためにICE(高速列車)でベルリンに移動した。ICEは日本の新幹線と特急の中間のような車両で、車内ではwi-fi も利用でき、乗り心地は大変快適だった。

図5 サテライトシンポジウム会場のDIN(Deutsches Institut für Normung)

 シンポジウムは木曜の午後と金曜の午前にベルリンの DIN(ドイツ規格協会)で開催された。建築音響、欧州ノイズポリシー、サウンドスケープの3セッションに分かれていて、私はノイズポリシーに参加した。ノイズポリシーの参加者は23名(日本からは5人)で、他会場に比べて少人数だったようで、講演中に講演者と聴講者とのやり取りができるような和気あいあいとした雰囲気であった。最初の講演はドイツの騒音アクションプランの事例紹介で、その後、ベルリン市内の道路騒音の対策事例の現地見学が行われた。バスで移動し、速度制限の変更や道路構造の変更、騒音対策用の舗装などの5 か所の事例を見学した。日本では都市計画にあたるような対策が騒音対策のために行われていることに驚き、実際に現地を見ることができたので、貴重な体験であった。金曜は午前中に騒音の影響、ベルリンの交通施策と騒音対策、鉄道騒音対策の3件の講演があった。交通施策の講演では、ベルリンでは持続可能な交通(Sustainable mobility)ということで、鉄道やバスなどの公共交通機関の利用促進を進めて2025年までに自動車の利用率を 25%に下げる目標を掲げていると紹介があった。これは交通量を抑制することになり、騒音曝露が減ることに相当する。また、ドイツでは貨物列車の騒音が問題となっていて、その音源対策に力を入れていることも紹介された。今回のシンポジウムではベルリン市内の現地見学など貴重な体験をすることができた。日欧の違いも実感することができたので、今後の研究業務に活かしていきたい。
(騒音振動研究室 牧野 康一)

図6 ベルリン市内の現地見学の模様

 私の発表は風車騒音の心理的影響に関する内容であったが、「風車騒音」ではなく、「騒音と健康」の中の「アノイアンス」のセッションにプログラムされた。当該セッションは社会調査による検討事例が多く、私が発表した実験室実験による検討内容は若干、ミスマッチであったが、イギリスで風車騒音の研究をされている方がコメントを下さったり、初日最後の発表にも関わらず、多くの方に聞いて頂けたことは幸いであった。
風車騒音
 口頭発表14 件の他、ポスターでも2件の発表があった。16 件中、ドイツ、イギリス、日本から各3件、デンマーク、ポーランドから各2件、イタリア、オランダ、フィンランドから各1件であった。どの発表でも活発な議論が交わされ、全体的に非常に盛況で、関心の高さが伺えた。日本からは環境省の行木氏、名城大学の岡田先生、ニューズ環境設計の福島氏の発表があった。環境省からは、発表当日、「風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会報告書(案)」に対するパブリックコメントが実施され、ようやく日本でも評価手法が制定されようとしている状況も紹介された。今回、デンマークから、風力発電施設周辺の居住者について、居住地、風車騒音の曝露量(Nord2000 による予測値)の他、職歴や収入、病歴等のビッグデータを解析して、風車と健康影響の関連性を検討したという発表があり、現時点では検討を始めたという段階ではあったものの、非常に興味深く、会場からも多くの質問が寄せられていた。また、事前にWTN2015(Wind Turbine Noise 2015)での発表データ引用の問い合わせがあったイギリスの M. Lotinga 氏からは、AM(Amplitude Modulation)音に対するペナルティに関する発表があり、イギリスが提案する評価手法の妥当性を裏付ける根拠の一つとして、我々の研究成果が肯定的に紹介されたことは嬉しかった。会場では、INCE Europe のJ. Tourret 氏から来年度開催のWTN2017にもお誘い頂き、国際学会や英文誌でも研究成果を公表することの重要さを改めて感じた。
サテライトシンポジウム(建築音響)
 建築音響は参加者が多く50 名ほどの参加があり、日本からは4名の参加があった。シンポジウムでは1件の講演が約1時間で、2日間で7件の講演が行われ、内容は床衝撃音、設備騒音、心理評価、数値解析、低周波音など多岐にわたった。各講演に15 分程度の質疑応答時間が設けられていたが、議論は尽きず、休憩時間ごとにほぼ全員が席を立って活発な議論を続ける様子が印象的であった。
 今回、訪れたドイツのハンブルクとベルリンはいずれも世界遺産を含む歴史を色濃く残すエリアと近代的に造られたエリアがうまく融合した街並みが美しく、また、ベルリン大聖堂でのパイプオルガンの演奏やベルリンフィルハーモニーのコンサート等の文化に触れることができたことも大変貴重な経験であった。
(騒音振動研究室 横山 栄)

図7 ベルリン大聖堂

 

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