2016/7
No.133
1. 巻頭言 2. 誘電法による圧電率・弾性率の測定 3. カメラ 4. ローノイズマイクロホン UC-35P
 

      <技術報告>
 ローノイズマイクロホン UC-35P


リオン株式会社 環境機器事業部 開発部  鈴 木  綾 子

1.はじめに
  環境への社会の関心が高まり、そしてより快適な生活環境への社会的欲求が高まるにつれ、環境騒音、建築音響、産業など多くの分野で音響計測の必要性が高 まっています。その中でも、家電、自動車、製品品質管理など、製品開発や生産・品質チェックにおいて、より低い音圧レベルの計測が必要とされています。 UC-35P は、低い音圧レベルをより簡易なシステムで計測することを可能とする目的で設計されたローノイズマイクロホンです。
 弊社ではこれまでローノイズマイクロホンとしてバイアス電圧型のコンデンサマイクロホンとプリアンプを組み合わせた製品であるUC-34P を販売してきました。UC-34P はバイアス電圧が必要であるため、接続する計測器は弊社の一部製品に限られ、また太い専用ケーブルが必要でした。そこで、UC-35P ではマイクロホンをエレクトレット化してバイアス電圧を不要とするとともに、プリアンプをCCLD 対応とすることで、より小型・汎用的な計測器にもBNC ケーブルでより容易に接続できるようにしました(図1)。

図1 UC-35P の外観

2.概要
 UC-35P は自己雑音レベルを低く設計しており、最大で4 dB(A特性)となっています。表1に示すように、弊社の他マイクロホンと比較すると同じUC-34P以外の1インチで8 dB以上、1/2インチのマイクロホンで9〜14 dB自己雑音等価音圧レベルが低くなっています。そのため一般的な計測用マイクロホンでは不可能であった10 dB(A特性)を下回る低い音圧の測定が可能となっています。
 UC-35P は、1インチエレクトレットマイクロホンUC-35と、CCLD対応プリアンプNH-35のセットで構成されています。UC-35は、ローノイズのエレクトレットマイクロホンで、NH-35は自由音場レスポンスを平坦に補正するためのフィルタを内蔵したプリアンプです。また、増幅アンプも内蔵されており低レベル音を計測する場合に有効です。BNC ケーブルを使用した同軸ケーブルで測定器や分析器に接続し、各種音響計測に利用できます。

表1 計測用マイクロホンUC シリーズ

型式
UC-35P
UC-34P
UC-27
UC-32P
UC-30
UC-31
UC-33
UC-52
UC-59
UC-57
口径
1 インチ
1/2 インチ
感度レベル
(dB at 1 kHz)
0
-21
-26.5
-27
-25.5
-37
-38
-33
-27
-22
自己雑音レベル
(dB)
4
2
12
13
20
26
28
24
18
13

3.UC-35P の特徴
3.1 ローノイズ
 UC-35は自己雑音等価音圧レベルを低く設計したマイクロホンです。自己雑音等価音圧レベルとは、マイクロホンに音が入力されていない状態において出力される信号(雑音)の大きさであり、この雑音となる信号が音としてマイクロホンに加わっていると仮定して音圧に換算した値で表されます。このとき、
 自己雑音等価音圧レベル= 94 − SN 比(dB)
 の関係となります。94 dBはマイクロホンの感度表示の基準音圧1 Pa です。
 自己雑音はマイクロホンの構造に起因する音響機械系雑音やプリアンプとの接続などに起因する電気系で発生する電気系雑音で構成されます。
 UC-35は音響機械系雑音の原因となる振動膜と背極の間の空気抵抗を極力小さくするように、背極に複数の穴を開けています。振動膜‐背極間の空気抵抗 を小さくすると、自己雑音が小さくなる一方で、自由音場レスポンスに大きなピークを持つようになってしまいます。UC-35Pでは、NH-35でこのピー クに対して逆特性を持ったフィルタをかけることで、自由音場レスポンスが平坦になるように調整しています。

3.2 エレクトレット
 計測に使用されるマイクロホンはバイアス電圧を必要とするタイプと必要としないタイプの2種類があります。バイアス電圧を必要としないマイクロホンは、振動膜側の背極表面にエレクトレット層となる帯電した高分子フィルムを貼りつけた構造をしており、エレクトレットマイクロホンとして知られています。
 弊社で以前から販売しているUC-34Pはバイアス電圧として200 V を必要としています。一方、UC-35P はバイアス電圧が不要のエレクトレットマイクロホンで、バイアス電圧用の電源が必要ありません。
 図2にマイクロホンの構造を示します。マイクロホンの内部には振動膜と背極の絶縁物が組み込まれています。バイアス電圧を加えて使用するマイクロホンは、水分や汚れの付着で絶縁物の表面抵抗が低下すると、バイアス電圧の漏えいが起こり雑音の原因となることがあります。エレクトレットマイクロホンの場合はこういった現象は発生しません。

図2 マイクロホンの構造

3.3 CCLD 対応
 NH-35はCCLD対応をしたプリアンプです。CCLDとはConstant Current Line Drive:定電流駆動のことで、一定の電流を外部回路(プリアンプなど)に供給し、供給元の電圧変化を入力信号として取り出す方式です。 UC-35P では、24 V 4 mA の供給能力を持つ機器と接続することができます。また、BNC コネクタを採用しており、一般的なBNC ケーブルを使用することができます。
 弊社の製品では多チャンネル分析処理器SA-02、多機能計測システムSA-A1(4 mA 改造)、騒音計ユニットUN-14、4チャンネルデータレコーダDA-21に直接接続することが可能です。

4. 仕様

周波数レスポンス

自由音場型
公称外形 1インチ
音場感度 0 dB ± 2 dB (re. 1 V/Pa at 1 kHz)
周波数範囲(図3) 10 Hz 〜 12500 Hz
自己雑音等価音圧レベル     A 特性 Typ. 2 dB Max. 4 dB
  C 特性 Typ. 6 dB Max. 8 dB
  Z 特性 Typ. 23 dB Max. 25 dB
最大入力音圧レベル 96 dB
電源定格 24 V 4 mA
寸法・質量 φ 23.8 mm × 132.7 mm  約135g
使用温湿度範囲 − 10 ℃〜 50 ℃、90 %RH(結露時を除く)

図3 代表周波数特性

5. 代表的な測定例
 UC-35P の低い自己雑音レベルを活かし、無響室での低い音圧レベルの測定が可能です。
 図4は無響室におけるUC-35Pを使用した測定の一例です。使用しているのはUC-35Pと弊社の多チャンネル分析処理器SA-02です。このようなシステムを用いることで静かなモータ音等の測定・分析が可能になります。

図4 無響室での微少音測定例

6. おわりに
 近年のより低い音圧レベル計測のニーズにこたえるため、新規に開発したローノイズマイクロホンUC-35Pの紹介をしました。UC-34P と比べ、システムの簡素化が可能になっており、様々な現場で活用して頂ける製品となっています。
 これからも、お客様の声を大切にし、ご満足いただける製品開発を進めていけるように努力いたします。


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