2014/4
No.1241. 巻頭言 2. シリコンエレクトレットマイクロホンの温度特性 3. 鈴 4. パワータイプの防水型補聴器HB-W1RA
<技術報告>
パワータイプの防水型補聴器HB-W1RA
リオン株式会社 医療機器事業部 開発部 添 田 晃 弘1. はじめに
補聴器は難聴者にとって聴覚器官の一部と捉えることもできます。重度難聴の方ほど片時も補聴器を外したくないご要望が強く、洗顔や入浴等といった水に濡れる可 能性のある環境でも使用できるような機器の耐久性が重要になります。また、日本には雨の多い気候風土があることに加えて夏場には高温・多湿となるため、水に対す る耐久性の重要度はとても高いと言えます。
世界市場を見ても、各社から防水型と謳われる製品が相次いで発売され、防水型に対する消費者のニーズの高さが窺い知れます。
今回発売されたハイパワータイプの防水型補聴器HBW1RA は、これまでのリオンの防水型補聴器のノウハウを結集させ、重度難聴の方まで対応できる出力・利得を 持ちつつ、汗や水などを気にせずに使用できる補聴器として開発されました。2. 概要
HB-W1RA(図1)は、国際保護等級IP57 の防じん防水性能を有したRITE タイプの耳かけ型補聴器です。
RITE とは「Receiver In The Ear」の略で、イヤホンを耳かけ型補聴器の本体内部ではなく、耳介に配置した補聴器になります。HB-W1RA は、「ミディアムイヤホン」「EXパワーイヤホン」の2種類のイヤホンを選ぶことが出来、「ミディアムイヤホン」では、聴力レベル 25 〜 85 dB の軽度〜高度難聴に、「EX パワーイヤホン」では50〜100 dBの中等度〜重度難聴に適応することが可能です。
RITE タイプとしたことで、従来の防水型補聴器と比較し、本体の大幅な小型化が実現できました。
リオンとして、1986 年に世界初の防水型補聴器HB-35PTを発売して以来、HB-54シリーズ、HI-G4Wシリーズに続く、4代目の防水型補聴器になります。
図1 防水型補聴器HB-W1RA 外観及び装用の様子3. 特徴
(ア) 防じん防水性能
HB-W1RA は、IP57 の防じん防水性能を有しています。防じん性能を示すIP5X は、直径75 μ m の粒子が舞うチャンバー内に8時間放置しても有害な影響がない ことを、防水性能を示すIPX7 は、水深1 m に30 分間放置しても水による有害な影響が無いことを表しています。それぞれの試験を行った結果、補聴器本体の内部に 粉じん・液体の浸入が一切無いことを確認できました。
防水性能を担う部品は、主にシーリングするための部品とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔質膜から成ります。
図2 にHB-W1A の断面図を示します。シーリング部品は、電池ホルダ・メモリ切替スイッチ・イヤホンコネクタの各部とケース本体の間に使用し、液体が補聴器本体内に浸入することを防いでいます。特に電池ホルダは、電池交換の際に開閉する部位であるためシーリング部品の耐久性が求められます。さまざまな材料を検討し、実用に耐える強度を持った材料を選定しています。
図2 断面図(赤部は防水用部品)PTFE多孔質膜は、マイク音孔部及び電池ホルダの空気取入孔に使用しています。
マイク音孔部にはPTFE 多孔質の薄膜から成るマイクフィルタを取り付け、マイクへの液体の浸入を防いでいます。マイクフィルタは、音響抵抗を小さくする必要があるため、非常に薄い膜となっており、指や髪の毛が直接当たることで容易に破損してしまいます。そこで、装用時やお手入れ時に不意に破損することを防ぐため、 マイクフィルタをマイクカバーで覆い保護しています。
補聴器では、エネルギー密度が高いという理由から、空気亜鉛電池が用いられています。空気亜鉛電池は、起電力を発生させるために酸素と反応する必要があり、補聴器では大気中に含まれる酸素を用いています。防水性 を確保するために筐体を完全に密閉してしまうと、酸素が空気亜鉛電池に供給されず、補聴器の動作に必要な電圧を発生させることが出来ません。そこで、液体は通過せず空気は通過するPTFE 多孔質膜を電池ホルダの空気取入孔に配置し、防水性を確保しつつ空気亜鉛電池による駆動を可能としています。
従来の防水型補聴器では、空気取入孔は電池ホルダ部に一か所のみ配置されていました。この取入孔に液体等が付着した場合、筐体内に水が浸入することはありませ んが、空気亜鉛電池に酸素を供給することが出来なくなり補聴器の動作が止まってしまうという課題を抱えていました。HB-W1RA では、マイクカバーに隠れる位置にもう一か所空気取入孔を設けることで、電池ホルダ空気取入孔に液体が付着した際の動作停止のリスクを低減させています。(イ)小型化とデザイン
補聴器の小型化は、常に市場から求められる要求の一つです。HB-W1RAでは、従来製品である防水耳かけ型補聴器HB-54 やハイパワータイプの耳かけ型補聴器 HB-G7と比較し、体積及び投影面積がおよそ半分となる小型化を実現しました(図3)。
図3 補聴器筐体サイズの比較
(a) HB-W1RA (b) HB-54 (c) HB-G7小型化のカギとなったのは、イヤホンを補聴器本体内に納めないRITE タイプの補聴器とした点です。
RITEタイプとしたことで、補聴器本体からイヤホン分の体積を減らすことが可能となった他、イヤホンからの音響的・電磁気的影響を受ける種々のデバイスの配置 (マイク、テレホンコイル、ワイヤレス通信用アンテナ等)の自由度が増し、従来では為し得なかった配置が可能となりました。更に、最適な配置となるよう予備実験を重ね従来の防水耳かけ型補聴器と比較し大幅な小型化 が可能となりました。
また、電池ホルダのシーリング部品をインサート成形で作成することで、Oリングでは不可能な複雑なシーリング形状を最小限のスペースで実現している点も、小型化を可能とした要因の一つです。
筐体のデザインは、従来のリオネット補聴器のデザインイメージを残しつつ、防水型としての新たなデザインを目指しました。全体を上部・下部の二部構成に分け、 上部のマイクカバーをメインのデザインとし、マイクカバー以外の部分を柔らかく控えめな形状としボリューム感を軽減しています。側面から後面にかけて緩やかなく びれを設けており、本体を指でつまむ際のつまみやすさを向上させています。
筐体色は、上部のマイクカバーを9色、下部の本体を3色として、好みに合わせた柔軟な組み合わせが可能となっています。マイクカバーは販売店様での交換が容易 になっており、これまでの補聴器と比較して、より色を楽しむことが出来る構造となっています。
HB-W1RAは、パワータイプの耳かけ型補聴器でありながら筐体の小型化に成功し、機能的かつ魅力ある製品となっています。(ウ)出力
従来機種である防水耳かけ型補聴器HB-54と比較して本体サイズは小さい一方、最大出力は同程度(図4)、規準周波数(1600 Hz)における最大音響利得は約18 dB 高くなっております(図5)。HB-G7PA と比較すると、最大出力・最大音響利得ともに及びませんが、規準周波数付近や3 kHz以降における最大音響利得では近接した 特性を持っています。
図4 90dB 最大出力音圧レベル周波数レスポンスの比較
図5 最大音響利得周波数レスポンスの比較高利得の防水型補聴器を実現する際の障壁として、イヤホンからの振動帰還がありました。通常の補聴器でも 振動帰還の影響低減は課題の一つですが、マイク音孔を膜で保護する防水型補聴器では、イヤホンの振動がマイ クへ伝搬するほかに保護膜へも伝搬し、保護膜の機械振動を経て音響信号としてマイクに入力されることで帰還量が増加するという課題がありました。HB-W1RA では、RITEタイプとしたことでイヤホンからの振動の影響を最小限にすることが出来、防水型補聴器に特有なマイクの保護膜経由による帰還の課題を解決し、高利得を 実現させることが可能となりました。
防水型補聴器として余裕のある利得特性のおかげで、HB-54シリーズでは音響利得が不足し装用が叶わなかったお客様に対しても適用できる可能性が高まりました。(エ)使い勝手の向上
HB-W1RAは、電池の極性を気にすること無く使用できる「おまかせ回路」はもとより、使いやすい防水型補聴器とするための種々の特徴を備えています。
従来機種のHB-54シリーズでは防水機能ゆえの特殊な電池ホルダ構造を取っており、人によっては「開閉しにくい・電池を交換しにくい」という意見がありました。 HB-W1RAでは、電池ホルダ開閉用の爪のサイズを十分確保することで、電池ホルダ部のシーリングがありながらも電池ホルダの開けやすさはHB-54から大きく改善し ています。電池の取り出しについては、電池ホルダ開口部を下に向けるだけで電池が取り出せる構造としており、近年発売されている耳かけ型補聴器HB-A1、HB-J1、 HB-G6 らと操作感の統一が図られています。
電池ホルダの開閉用爪部にはストラップホールを設け、落下防止のためのストラップなどを取り付けることが可能となっています。
メモリ切替ボタンは視覚的にも触覚的にも十分なサイズを有しています。表面には滑り止めのための複数の凸形状を設けられ、操作のために指で補聴器をつまんだ時 の違和感が小さいよう補聴器背面の後方に位置するなど、操作性に関して従来機種からの改善を図られています。
RITEタイプの補聴器は、本体とイヤホンが細く目立たないワイヤーで繋がれています。耳介の形状によっては、このワイヤーが耳介上部に食い込み痛みを感じるこ とがありますので、HB-W1RAではシリコンゴム製のワイヤーカバーを同梱し、ワイヤーによる耳介上部へ負担が低減するよう配慮しています。4. おわりに
HB-W1RA はIP57 の防じん防水性能を持つパワータイプの耳かけ型補聴器であり、さまざまなシーンで補聴器を使用することが可能です。またHB-54と比較し、より難聴度が重い方への適応も可能となりました。
様々な聴力に対して十分に対応できるのはもちろん、多様な環境下でも安心して装用できることが、お客様の QOLの向上を図るうえで重要な事項と考えております。 世界初の防水型補聴器メーカーとして、使用シーンを選ばず、文字通り体の一部のように扱える補聴器の開発を目指し、これからも製品開発を行って参ります。