2014/7
No.125
1. 巻頭言 2. 屋外で超低周波音を放射できる可搬型装置の開発 3. バリコン 4. フッ酸対応液中パーティクルセンサ KS-19F
   

 
  旅日記 travel diary


建築音響研究室 室長  吉 村 純 一

  筆者は、入所後数年して音響材料研究室(現建築音響研究室)に配属され、吸音・遮音の測定業務に携わることで、JIS やISO で規定される測定方法の要件(室形、音源・受音点配置など)が如何なる根拠のもとに規定されているかに興味をもつようになった。1984年ハワイのinter-noise 84では、合わせガラスを試験体とすることにより、面 密度だけでなく、測定温度と共に変化する曲げ剛性と総合損失係数を把握することにより、音響透過損失の温度変化が予測できることを示した。1990年のスウェーデンのカルマー工科大学を会場として開催されたinter-noise 90では、板ガラス測定用開口部の形状が音響透過損失の結果に大きく影響することを報告した。

 その学会のtechnical tour では、大学の実験施設及びSP (Swedish national testing institute)の試験施設を山下理事長と共に見学することができ、今から考えるとこれが一つの転機であったかもしれない。百聞は一見にしかず というけれど、それまで不整形残響室しか見たことのない筆者にとって、文献等からは想像すらできない矩形の小さな試験室の形や色彩は隔世の感があった。その後、1996 年のリバプールでのinter-noise 96 の後にシュトゥットガルトのFraunhofer IBP を訪ねたり、1999 年に完成間もないパリCSTB のLABE を見学することができ、2001 年 にはドイツBraunshweig のPTB、2002 年はカナダのオタワにあるNRC (National Research Council Canada)など機会のある度に各地の施設を訪問している。

 施設見学にあたっては事前に訪問先と連絡がとれた場合もあったが、会議中に渡された小さなメモ書きを頼りに訪ねたり、出発当日の空港で訪問許諾の連絡を受けとったこともある。2003 年のマドリッドでのISO 会議の後、 Basque 地方にあるLabein を訪ねた際は、バスで1時間かかる道のりをビルバオに到着してから知る始末である。この様な綱渡り、珍道中の旅を重ねる内に、いつしか旅日記をつける習慣ができた。出発前の準備や空港までの 交通経路、何を食べて誰と会ったか、思い出したくもない学会での発表の様子、訪問先の試験施設の性能や対応してくれた人の印象など、旅日記は記憶を補うまさしくメモリーとなっている。

 学会や会議を通じて知り合った人とは、会う度に親しく挨拶を交わし、気に入らない相手とは互いに目を背け、学会誌に執筆依頼をしたことも、自宅を訪問したことも、お嬢ちゃんの写真が欲しいとせがんだことも、次から次へと思い出される。これまでほとんど読み返すことのなかった旅日記だが、この機会に読みふけってしまい、ついつい本稿の締め切り期日を大幅に過ぎてしまった。

 以前は帰りの機内や乗り継ぎ便を待つ間に、多少まとめることができたが、最近はそれまでの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡るだけで、ついつい無駄に時を過ごしてしまう。これも安価に記録を残せるデジカメのせいなのか。頭に不揮発性メモリーが装着できるとよいのだが。

 

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