2014/7
No.125
1. 巻頭言 2. 屋外で超低周波音を放射できる可搬型装置の開発 3. バリコン 4. フッ酸対応液中パーティクルセンサ KS-19F
   

      <研究紹介>
 屋外で超低周波音を放射できる可搬型装置の開発


騒音振動研究室  岩 永 景 一 郎

1.はじめに
 山岳トンネルの工事における発破、高速道路の高架裏面、ダムの放流等で生じる音には低周波成分が含まれており、周辺家屋の建具をガタつかせたり、身体に圧迫感を与えたりする環境問題を引き起こすことがある[1]。特に20 Hz以下の超低周波音は建具のガタつきを引き起こしやすいと考えられているが、依然として未解明な部分が多い。超低周波音はスピーカ等で人工的に再生することが難しく、そのことが実験的な研究を制限しているためである。
 当所では超低周波音における試験設備として、評価実験を行うための低周波音実験室や建具のガタつきを再現するための低周波音発生装置[2]を所有しているが、その使用は屋内に限定されていた。
 今回、実際の家屋を対象とした建具のガタつき調査を目的として、屋外で20 Hz以下の超低周波音を放射できる可搬型の装置を2種類開発したので報告する。一つは 4 t トラックに積載して移動可能な装置、もう一つはワンボックスカーの車室内をスピーカボックスとして利用した装置である。

2 . 開発した2種類の超低周波音発生装置
(1)トラック積載型装置[3]
 トラック積載型装置の概要を図1に示す。超低周波音の発生部は1辺が約1 mの立方体で、向かい合う2面に 1 m×1 mのアルミハニカム板がそれぞれ設置されている。この2枚の板に空圧サーボアクチュエータを取り付け、互いに振動させて超低周波音を発生させる。また、板を逆位相で振動させ、アクチュエータにかかる反力を 相殺することで板の振動による躯体への負荷を低減している。スピーカボックスの容積は、内部に発生する圧力変化を緩和させるため26 m3備えており、振動板の最大変位は± 70 mm である。
 5〜20 Hzの超低周波音における最大出力性能は、装置開口部から3 m離れた点で110 dB以上である。5〜20 Hz の周波数帯域では建具が揺れ易く、ガタつき始める音圧 レベルは70 〜 110 dB である[4]。このことから本装置は屋外で建具ガタツキの実験を行うに十分な音響出力を有していると考えられる。本装置は4 t トラックの荷台に積載して運搬可能であり、例えば、本装置を建具のガタつきが問題となっている家屋の近くに運搬し、超低周波音を発生させることで、対象建具のガタつき閾値を求めることが可能である。また、本装置は20 m 以上離れると無指向性点音源とみなせる。無風条件下における20 Hz 以下の暗騒音が40 dB程度であれば、数百m 〜数km遠方までの伝搬実験にも成功している。



図1 トラック積載型の超低周波音発生装置

(2)ワンボックスカー設置型装置[5]
 ワンボックスカー設置型装置の概要を図2に示す。音の放射機構は前述のトラック積載型装置と同様で、1 m ×1 mのアルミハニカム板を空圧サーボアクチュエータ で振動させる。振動板はバックドアを開けた車体後端に1枚設置し、約9 m3 の容積を持つワンボックスカーの車室内をスピーカボックスとして利用している。板の振動に伴う反力は、板と同程度の質量のおもりを逆位相で振動させることで、前述のトラック積載型装置と同様に相殺することができる。この装置は着脱可能で、音源として使用する時に設置する。所要時間は設置に約2時間、撤去が30 分程度である。また、装置を設置する際の車体への穴あけ等の加工を避けるために、後部座席を固定するフックを利用してアクチュエータを固定している。


図2 ワンボックスカー設置型の超低周波音発生装置


 5 〜 20 Hz の超低周波音における最大出力性能は、装置開口部から3 m 離れた点で100 dB 以上である。一例として図3に10 Hzの正弦波を放射した時に計測した音圧の時間波形を実線で、理想的な10 Hzの正弦波を点線で示す。正弦波とみなせる波形が得られており、変位フィードバックを用いた空圧サーボシステムによって、 振動板を適正に制御できていることがわかる。
 車内設置型装置は、トラック積載型と比較すると振動板が1枚で、スピーカボックスの容積も1/3程度と小さいため放射音圧が10 dB程度低いが、小型で自走できるため可搬性に優れている。

図3 装置放射音の実測波形と正弦波の比較(10 Hz)

 

3.今後の発展
 今回、可搬型の超低周波音発生装置を2種類報告した。現在は開発装置を活用し、冒頭で述べたような超低周波音に由来する環境問題に関する研究を試みている。
いくつか例を挙げると、
(1) 建具ガタつきの発生原理の解明、
(2) 家屋内外における超低周波音の音圧分布調査[6]
(3) 吸音や遮音による対策が難しい超低周波領域におけるアクティブ制御[7]
等である。今後、これらの成果についても逐次報告する予定である。

参考文献
[1] 日本騒音制御工学会低周波音分科会:発破による音と振動、山海堂、東京、1996
[2] 土肥他:油圧サーボアクチュエータを用いた低周波音実験装置の開発、日本音響学会講演論文集、pp.827-828、2002
[3] 土肥他:可搬型低周波音発生装置の開発、日本音響学会講演論文集、pp.955-956、2010
[4] 落合他:低周波音による建具のがたつき始める音圧レベルについて、騒音制御:Vol26、No.2 pp.120-128、2002
[5] 岩永他:可搬型超低周波音源の開発、日本機械学会環境工学シンポジウム講演論文集、pp.28-30、2013
[6] 土肥他:家屋内外における低周波音の音圧レベル分布、日本音響学会 騒音・振動研究会資料、N-2012-26
[7] 岩永他:超低周波音を対象としたアクティブ制御の試み、日本騒音制御工学会 秋季研究発表会講演論文集、pp.221-224、2013

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