2011/1
No.111
1. 巻頭言 2. ICA 2010 3. IWRN10に参加して 4. カンカン石(サヌカイト)
  5. 医薬業界向けパーティクルカウンタKL-04A

    <会議報告>
 IWRN10に参加して


騒音振動研究室  廣 江 正 明

 アジアで初めての開催となる第10回国際鉄道騒音ワークショップ(The 10th International Workshop on Railway Noise:IWRN10)は、(財)鉄道総合技術研究所(Railway Technical Research Institute:RTRI)の主催で、琵琶湖畔の街・長浜の長浜ロイヤルホテルにおいて、2010年10月18日(月)〜22日(金)の5日間に亘って開催された。IWRNは、騒音、振動、低周波など鉄道の環境問題に特化した国際ワークショップで、1995年の第5回大会までは不定期開催であったが、1998年の第6回以降は3年に1回のペースで開催されている。IWRN10の参加登録者数は128人、うち45人が日本からの参加者であったが、昨今の政治情勢の影響等で直前のキャンセルがあり、実際の参加者は110〜120人ほどであった。ちなみに、日本における開催の地に長浜が選ばれたのは、長浜が湖畔の静かな街で、古都・京都やRTRIが世界に誇る大型低騒音風洞施設(米原)に近いことが理由のようである。

 さて今回、IWRN10には75件の投稿論文があり、それらを1. 展望・法規制・知覚(音・振動に対する応答)、2. 転動音、3. 構造物音・軋み音、4. 地盤振動、5. 高速鉄道(空力音・微気圧波を含む)、6. 車内音・防音壁、7. 予測・計測・監視の7つのカテゴリーと、口頭・ポスターの2つの発表形式に分けたプログラムが組まれていた。口頭発表はカテゴリー順で10/19〜22午前に(10/19:カテゴリー1&2、10/20:カテゴリー3&4、10/21:カテゴリー5&6、10/22午前:カテゴリー7)、ポスターセッションは10/19〜21の口頭発表後に行われた。IWRNはInter-Noiseと異なり、パラレルセッションを設けず、一つの発表会場で鉄道の環境問題を総合的に討議するスタイルをとっているため、すべての口頭発表とポスターセッションを見聞きできたのは非常に有意義だった(実際は非常に辛かった・・・)。また、10/22午後は大型低騒音風洞施設の見学ツアーがあり、菱形とシングルアームの2種類のパンタグラフに走行速度200〜300 km/h相当の風を当てた時の空力音を交互に聞かせて貰った。送風時の暗騒音レベルは想像以上に低く、見学者の傍らで説明する所長の声が驚くほどよく聞こえた。素晴らしい施設で貴重な体験をさせて頂いた。


写真1 発表会場の長浜ロイヤルホテル

 

 ところで、私の発表“Numerical simulations of propagation of bogie noise in 3D field by Duhamel’s transformation using transient solutions calculated by 2D-FDTD method”は、カテゴリー7の口頭発表であったため、最終日のその瞬間までずっと「針の筵」のような状況が続くこととなったが、本番は何とか制限時間内で無事に発表を終えることができた。拙い英語の発表で研究内容をどこまで理解して貰えたか分からないが、一応、3つの質問があり、何とか回答もできた(拙い英語なので回答した気になっているのが真実だろうが)。

 さいごに、今回参加したIWRN10の中でとくに記憶に残っている(少しは理解できた/興味を覚えた)発表の概要をカテゴリー毎に列挙する。一口に鉄道の環境問題と言っても取り扱われている範囲は非常に幅広く、全てをフォローすることはできないが、何かの参考になれば幸いである。なお、次回、3年後の2013年開催予定のIWRN11は時期も場所共に未定である。

展望・法規制・知覚
・口頭発表“Human response to ground-borne noise and vibration in buildings caused by rail transit: Summary of the TCRP D-12 study”Jeffrey A. Zapfe (USA):列車の走行に起因して建物で発生する騒音・振動の許容レベルを提案するプロジェクト、TCRP D-12(Transit Cooperative Research Program D-12)に関する研究報告。北米の5都市での調査結果として、振動速度レベル(基準:1 μin/s)に対するアノイアンス、量−反応関係(Dose-Response)が報告されている。非常に興味深い研究結果で、今後の研究成果に期待が寄せられていた。
・ポスター“How does noise annoyance relate to traffic intensity?”T. Jerson (Sweden):鉄道による騒音と建物振動による影響を調査するプロジェクト、TVANEの一環として実施されたアンケート調査の結果報告。運行本数の異なる路線間における鉄道騒音のアノイアンス、量−反応(Dose-Response)を比較。運行本数が多い路線の方が鉄道騒音LAeq,24h に対するアノイアンスが高くなるという結果が得られていた。

転動音
・ポスター“Railway noise reduction technology using a damping material”Gunther Koller (Austria):高性能なダンピング材料を利用した2つの騒音低減技術とその適用事例の報告。ダンピング材料を用いた制振材でレール自体を覆うレール放射音の低減対策、鉄橋等の鋼材に設置する構造物音対策を既存の鉄橋に適用。個別対策効果と複合対策の効果が報告されていて、構造物音対策よりもレール放射音対策の方が大きな対策効果になっていたが、これは評価地点(沿線住宅)が鉄橋より少し高い位置にあり、鋼桁等の見通しが少ないためと考えられる。

構造物音・軋み音
・口頭発表“An investigation on vibratory and acoustical characteristics of concrete bridge for Shinkansen”Y. Kozuma (Japan):新幹線のコンクリート高架橋の振動特性および振動に伴う放射音に関する研究報告。インパクトハンマーによる打撃試験からコンクリート高架橋の下面と側壁の振動特性を把握し、その振動データをもとに高架橋下や近傍における振動放射音を境界要素法で推定。315 Hz以下の周波数帯域で予測と実測を比較した結果、両者は高架橋下の地点で良く一致した。

地盤振動
・口頭発表“Ground vibration on high-speed railway tunnel”T. Watanabe (Japan):列車、軌道およびトンネル構造を含む鉄道システムと地面をモデル化できる3次元のdynamic interaction analysis methodを用いて高速鉄道のトンネル上の地盤振動を解析。地面からトンネル上部まで9.2 m、底部まで19 mの条件で200〜250 km/hの列車走行時の地盤振動を計算。トンネル中心の真上から距離10〜20 mで測定した地盤振動と比較し、4〜80 Hzの周波数帯域で計算値と実測値が良く一致することを確認した。更に、本手法を用いて地盤の減衰定数や軌道の締結方法による地盤振動の低減効果を予測した。
・口頭発表“The effect of a second tunnel on the propagation of ground-borne vibration from an underground railway”K. A. Kuo (UK):地下鉄からの地盤振動の伝搬に対する隣接トンネルの影響に関する研究報告。2つのトンネルによる振動応答を1つのトンネルによる変位場(直接場)と2つのトンネルの相互作用による変位場(散乱場)の和で表す理論モデルを用いて計算。トンネル間の相互作用によって地盤振動レベルが20 dBほど変化することが分かった。

高速鉄道
・口頭発表“Application of a component-based approach to modeling the aerodynamic noise from high-speed trains”D. J. Thompson (UK):航空機の着陸装置から発生する空力騒音の解析に適用されている“A component-based model”を用いて、高速列車、とくに台車部とパンタグラフからの空力騒音を予測。様々な速度域における実測値と比較した結果、高速域ほど500 Hz〜1k Hzの周波数帯で予測と実測が良く一致することが確認された。

車内音・防音壁
・口頭発表“Development of a system using the Piezoelectric material to reduce the interior noise of the railway vehicle”K. Yamamoto (Japan):圧電材料を用いた車内騒音低減システムの研究報告。パンタグラフ下の新幹線車内で顕著な200 Hz付近の周波数成分の音を低減するため、共振周波数を調整した制御回路を付けた騒音低減パネルを製作。新幹線車両の天井部に設置し、制御時の低減効果を把握するための走行試験を実施した。その結果、200 Hz付近のピーク周波数が4〜5 dB低減することが分かった。

予測・計測・監視
・口頭発表“Stationary noise monitoring for high speed trains with single or multiple microphones”Koji Watanabe (Japan):JR東海で開発された自動騒音測定システムとその測定事例の報告。航空機騒音の監視システムで使用されているB&Kの計測機器を利用して沿線騒音と気象データを自動で計測するシステムで、静岡県菊川市、岐阜県不破郡垂井町の2箇所に設置されている。測定データはインターネットを経由してJR東海の小牧研究所に転送され、騒音測定結果のデータベースとして蓄積されている。

−先頭へ戻る−