2010/7
No.109
1. 巻頭言 2. 強誘電ポリマーの話 3. マレット:撞木 4. 159th ASA MEETING
  5. 多チャンネル分析処理器
 4チャンネル分析処理器

     <技術報告>
 多チャンネル分析処理器SA-02M
     4チャンネル分析処理器SA-02A4

リオン株式会社 環境機器事業部 開発部  植 田 敏 弘

はじめに
 弊社では、多チャンネル分析処理器の最上位機種としてSA-01を販売し約8年が経過した。このたび、後継機種として、多チャンネル分析処理器 SA-02M、4チャンネル分析処理器 SA-02A4を開発したのでここに紹介する(図1)。

図1 SA-02M/A4の外観

左:SA-02M本体部、右:SA-02A4本体部、中央:コンピュータ部(画面はSA-02 BASEソフトウェア)

 SA-02シリーズは、信号処理をおこなう本体部と、アプリケーションソフトウェアによる分析処理をおこなうコンピュータ部からなり、SA-01から更なる分析処理能力の向上を目的とし、機能・性能の拡張と簡便な操作性を両立させて開発をおこなった。また、より多くの音響振動に関する計測ニーズに対応するため、さまざまな計測目的に従ったアプリケーションソフトを順次提供していくと共に、ソフトウェアのカスタマイズ対応が可能な多チャンネル分析処理システムとなっている。

1. 計測システムの構成
 SA-02はチャンネル数の拡張性と小型化、双方の要求に対応するため、多チャンネル分析処理器 SA-02M、4チャンネル分析処理器 SA-02A4の2種類をラインナップする。SA-02Mは4チャンネルを基本構成として、4チャンネル毎に16chまで拡張可能である。また、2台を連結することにより、最大32チャンネルまで拡張可能である。一方、SA-02A4は4チャンネル固定であるが、筐体サイズを小型とした。
 また、SA-02A4/SA-02M共に信号出力ユニットSA-02SGをオプション取り付け可能である。SA-02SGは、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、正弦波、スエプトサイン波などの信号出力が可能であり、主に建築音響の分野での信号出力用途に対応する。
 コンピュータ部との接続は、従来機種のSA-01ではUSBで行っていたが、SA-02ではLANでおこなう。LANでの接続を行うことにより、データ転送速度の高速化が図られるとともに、コンピュータ部と本体部間のケーブル延長が可能となった。

2. 処理能力の大幅な向上
(1) オクターブバンド分析処理性能の向上
 SA-02の最大の特徴は、最大 32 チャンネルまでの構成が可能であることと、チャンネル拡張に応じて追加搭載されるDSP(Digital Signal Processor)により、チャンネル拡張時でも分析処理能力が劣化しない演算能力を有している点である。SA-01では、1/3オクターブバンドの実時間分析性能が、20 kHzバンドでは最大4チャンネル、5 kHzバンドでは16チャンネルが上限であった。SA-02では、1/3オクターブのリアルタイム分析において最大チャンネル数(32チャンネル)まで20 kHzバンドまでの分析処理性能を維持する。

(2) 時間波形収録性能の向上
 SA-01における連続した時間波形をコンピュータ上のメモリに収録する性能は、20 kHzレンジで1チャンネルであった。SA-02は20 kHzにおいて32チャンネルの時間波形データをコンピュータ上のメモリに収録可能である。また、オプションソフトウェアのスループットディスク(CAT-SA02-TH)を使用した場合長時間の波形収録が可能であり、収録波形を基に詳細な分析を行うことができる。

3. ハードウェア機能の拡充
(1) 回転パルス入力端子
 SA-01では、回転計のパルス出力を信号処理部の入力チャンネルに接続する方式のため、サンプリング周波数の上限が96 kHzであった。そのため高回転数領域での計測に制限があり、また1回転あたりのパルス数を増やした場合のより細かな分析ニーズに対応することは難しかった。そのため、SA-02は回転計のパルス信号を入力する専用端子を備え、サンプリング周波数12.5 MHzでの周期測定を可能にした。トリガソースとして利用される他、汎用入力端子のサンプリング毎に測定結果が保存され種々な分析に用いることが出来る。

(2) TEDSセンサ対応
 SA-02はTEDS(Transducer Electronic Data Sheet)方式のマイクロホンや加速度ピックアップのセンサに対応しており、センサから感度情報を読み出して簡便に感度校正を行うことができる(加速度ピックアップ PV-90Tについては、小林理研ニュース No.108参照)。特に、多チャンネルの構成になった場合、センサの誤接続など人為的なミスの防止や、感度校正の手間を省く効果が期待できる。

(3) オートストア用メモリの搭載
 信号処理部本体内部に備えた大容量のメモリは、オクターブ分析結果を1チャンネルにつき36000個まで記録可能となっている。データの保存間隔は最短で1ミリ秒の性能を持ち、分析結果をオートストア用メモリに一時的に保存して、オフラインで再分析を行うことにより詳細な分析が可能である。


図2 SA-02 BASEの画面例



図3 AS-20PC5の測定イメージと画面例


図4 AS-31PA5の測定イメージ



図5 CAT-SA02-Orderの画面例

4. 標準ソフトウェア SA-02 BASE
 SA-02の標準ソフトウェアであるSA-02 BASEは、FFT分析およびオクターブ分析の基本分析を行うソフトウェアである。簡単な操作と分かりやすい表示が特徴で、ExcelやMATLAB、モード解析ソフトとの連携にも優れている(図2)。
 FFT分析モードにおいては、スペクトル、スペクトルマップ、クロススペクトル、伝達関数、コヒーレンス、自己相関、相互相関、確率密度、累積度数を表示する。
 1/Nオクターブモードにおいては、指数平均値、リニア平均値、最大値を表示可能であり、マニュアルストアまたはオートストアによってメモリ保存したデータを元にリコール演算(パワー平均、パワー合計、最大値、最小値、時間率レベル)をすることができる。

5. オプションソフトウェア
 SA-02シリーズには、オプションソフトウェアが多数用意されており、多彩な計測に対応することが可能である。ここでは、数点について内容を簡単に紹介すると共に、その他の一部について名称のみ紹介する。

○ 空気音・床衝撃音遮断性能測定ソフト AS-20PC5
 建築物、建築部材の床衝撃音の遮断性能/低減量、空気音の遮断性能、残響室法吸音率について、JISに基づいた測定、評価を簡単な操作で行うことが可能である(図3)。

○ 音響パワーレベル測定ソフト
 音響パワーレベル測定ソフトには、半無響室法音響パワーレベル測定ソフト(AS-30PA5)と残響室法音響パワーレベル測定ソフト(AS-31PA5)がある。
 AS-31PA5は比較法および直接法での測定が可能であり、マイクロホンローテータ方式と多チャンネル方式(最大10チャンネル)の選択が可能である(図4)。

○ トラッキング分析ソフト CAT-SA02-Order
 車や船舶のエンジン、モータ、コンプレッサ等、回転構造を持つ機器に関する、振動・音の回転次数比を分析するソフトウェアであり、3次元表示やRPMトラッキングの表示を行うことができる(図5)。

○ その他のオプションソフトウェア
・損失係数測定ソフト AS-14PA5
・音響インテンシティ測定ソフト AS-15PA5
・音源探査ソフト AS-16PA5
・モード解析ソフト ME’Scope VES
・音質評価ソフト CAT-SA02-SQ
・アレイ式可視化ソフト CAT-SA02-AR
・表面インテンシティソフト CAT-SA02-CMP03
・手腕系振動計測ソフト CAT-SA02-HT
・建機音響  パワーレベル計測システム CAT-SA02-CPWL
・エンベロープ分析ソフト CAT-SA02-ENV

6. おわりに
 弊社の分析処理器の最上位機種となるSA-02を紹介した。分析処理器はその性質上、専門性が高く、操作が複雑な印象になりがちである。 SA-02の特徴である簡単な操作と高い分析処理能力によって、分析処理器が身近なものとなるとともに、音や振動の分析に関し、基礎研究から応用、開発業務の効率化、生産ラインの検査等、様々な計測分野で役立てれば幸いである。

 

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