2009/1
No.1031. 巻頭言 2. inter-noise 2008 3. カナダの圧電材料国際会議 4. 拍子木 柝
5. 普通騒音計 NL-27 <会議報告>
カナダの圧電材料国際会議 CANSMART
深 田 栄 一、児 玉 秀 和
2008年7月30日に東京青山のカナダ大使館で、複合材料のセミナーが行なわれた。カナダの大学や研究所から種々の分野での研究が紹介されて、日本の研究者との交流を深めたいというのが開催の趣旨であった。小林理研にも案内があり、深田と児玉が出席した。このとき、Royal Military College の Prof. G. Akhras から、カナダのCansmart Workshop に参加するよう勧誘された。圧電材料を音響振動に利用するわれわれの研究をカナダに紹介する絶好の機会に恵まれた。
1997年にthe Canadian Smart Materials and Structures Group がProf. Akhras を会長として発足し、毎年CANSMARTと呼ばれる国際ワークショップ がカナダの各地で開催され、その都度Proceedings が刊行されている。今年は第11回目の会議がMontreal で開催された。会議の趣旨によれば、Smart Materialsの研究はStructural Health Monitoring(建築構造の常時監視)やNon Destructive Evaluation(非破壊検査)など広い分野にまたがり、土木、機械、航空、宇宙、海洋の工学から物理、化学の基礎科学 にも関連している。したがって、種々の分野の交流と協力が必要である。
CANSMART 2008
CANSMART 2008 はMontreal の近郊Boucherville にあるIndustrial Materials Instituteで開かれた。この研究所は、カナダのNational Research Council (NRC) に所属している。会議は10月23日,24日の二日間であったが、三つのキーノート講演と34題の研究発表があった。そのうち5題はポスターであったが5分の発表時間もあり、口頭発表と同等に取り扱われた。コーヒータイムやディナーの時間が十分にあり、多くの人と知り合う機会が作られていた。
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図1 Industrial Materials Institute
(左:外観 右:エントランス)キーノート講演において、Janet Slater (Institute for Defense Analyses, VA, USA) Plants and Mechanical Motionでは、植物のつるがらせんを巻きながら成長するビデオから始めて、植物の運動のメカニズムと最近の高度な機械のメカニズムとを対比した。また、D. M. Pitt (The Boeing Co. St. Louis, MO,USA) によるAn Overview of Adaptive Structure Research and Development at the Boeing Companyでは、順応構造として、Shape Memory Alloy や圧電Actuatorが用いられ、航空機やヘリコプターの風洞テストや離着陸のときの騒音低減対策などの解説があった。Wolfgang Luber (Military Air Systems MFG, Germany) は、最近の航空機構造の進歩に関連して、圧電アクチュエーターによる振動制御と弾性ダンピングによる制御を比較して議論した。
研究発表の内容は多岐にわたるが、キーワードをあげると、Shape Memory Alloys, MEMS Sensors, Piezoelectric Ceramics, Magneto -Rheological Dampers, Sound Shielding, Thermopiezoelectric Response, Smart Material, Conductive Polymer Actuators, Piezoelectric Beam, Energy Harvesting, Smart Control Devices, Composite Platesなどなどである。Smart Materials の定義は難しいが、圧電材料を主とした、複合機能材料といえるであろうか。
講演者の国別は、カナダ19、アメリカ5、フランス2、イタリー2、日本2、ドイツ1、イギリス1、ブラジル1、台湾1であった。こういう小さい国際会議の利点は、新しい研究者と知り合って、知己となれることである。興味を持った講演の発表者に、コーヒーブレイクのときに声をかけて質問をすれば、すぐに紙を取り出して議論になり、名刺を交換すれば帰国してからも交流を続けることができる。今回はディナーのテーブルで偶々、会議主催者のProf. Akhras, NRCの幹部のDr. Zimcik, 組織委員のDr. Prasad などと同席して話すことが出来たのは幸運であった。カナダの研究者が日本の研究者との交流や協力を希望していることが分かった。
会議場となったIndustrial Materials Institute にあるDr. C. K. Jenの研究室から、Sol-Gel 法で作ったPZT圧電膜によるEnergy Harvestという興味深い研究発表があった。研究室に所属する日本人の研究者、小林牧子博士の案内で実験室を見学することができた。ここではPZT粉末を含む懸濁液を基盤上に噴霧し、ヒートガンで低温焼結するSol-Gel 法が用いられていた。この手法によって作成された超音波トランスデューサを見せて頂いた。近年、ゾル−ゲル法は色々な無機圧電膜を容易に得られることから注目を集めている。しかし通常の焼結法に比べて圧電定数などが低いなどの課題も多い。両方の興味が一致したので、IMIのDr. Jen の研究室と小林理研圧電研究室との共同研究の可能性が生まれた。
圧電材料による遮音防振の研究
CANSMART2008 では口頭発表とポスターで上記の内容の研究発表を行なった。小林理研の圧電研究室での過去数年の研究の成果であるので、その要点を述べる。圧電材料の固さ(正しくは弾性率)を硬くしたり、軟らかくしたりできる電気回路を、小林理研の伊達宗宏博士が発明したのが始まりである。実用的な圧電材料として、PVDF圧電フィルム、PZT圧電セラミック、MFC(PZTと高分子の複合材料)の三種類を用いた。PVDFフィルムに圧電材料を軟らかくする回路を結合すると、音の遮断ができる。軟らかい圧電フィルムに音が当たると、回路のフィードバック作用でフィルムが硬くなり、金属板のように変わる。そのため音は反射されて通らなくなる。
二つの金属棒の中間にPZTセラミック板が固定された系を考える。一方の棒の端から振動が伝わると、回路のフィードバック作用で硬いPZT圧電板が液体のように軟らかくなる。そのため振動は隣の棒に伝わらなくなる。
回路のフィードバック作用は圧電体の電気機械結合係数kが大きいほど有効になる。PVDFよりもkが大きいMFC板を用いると遮音効果の能率が飛躍的に向上する。これらの研究はまだ基礎研究の段階であり、実用的な課題への応用はこれからである。CANSMARTの学会では、例えばエンジン、機械、建築、ロボット、航空機などのダンピング、ヘルスモニター、非破壊テストなどの工学的課題の研究が多い。今後カナダと日本の研究協力が進むことを願っている。CANSMARTのURLを付記する。 http://www.cansmart.com/
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図2 ポスター発表会場にて Torontoでの研究交流
Montrealでの会議の後Toronto を訪れたが、その際Grayhound Busで約3時間のCollingwood にあるSensor Technology Ltd.を訪れた。Dr. Prasadが社長をしている会社である。圧電セラミックPZTの材料及びHydrophone を初めとするsensor や actuator など多くの機器を生産していた。技術の高い設備の整った工場を見学することが出来た。またMontrealで知り合ったトロント大学工学部のProf. Mrad の研究室を訪ねて、PZTで作られた nm スケールのXY移動装置を見学した。Mr. Price の研究室では、導電性高分子を用いるアクチュエーターの実験を見学した。人工筋肉を目標とする研究であった。
文献
Proceedings of Cansmart 2008−International Workshop on Smart Materials and Structures