2009/1
No.103
1. 巻頭言 2. inter-noise 2008 3. カナダの圧電材料国際会議 4. 拍子木 柝
  5. 普通騒音計 NL-27

    <会議報告>
 inter-noise 2008

山 本 貢 平、杉 江 聡、大久保 朝 直

 今年のinter-noise 2008は、上海市にある国際会議場に於いて、10月26日〜29日の4日間にわたって開催された。小林理研からは私のほか吉村,杉江,大久保の4名が参加した。私は各種会議に出席するためにその2日前の10月24日に上海入りした。上海は、中国の中でも特に近代化が進んでいると聞いたが,それでも想像を越えるような繁栄に驚いた次第である。東京の高層ビルが立ち並ぶ新宿副都心やお台場、いや、それ以上の規模を持つ一大都市が上海にあった。

 さて、上海に到着して早々に、空港環境整備協会の山田一郎所長と合流し、25日の朝に開かれるCSC会議(Congress Selection Committee)の打ち合わせを行った。inter-noise 2011を大阪に招致するためのプレゼンを2人で行うことになっていたのだ。その対抗馬が観光都市香港であったので、こちらは大阪らしい真面目さとユーモアを交えて、選定委員会によい印象を与えようと画策した。翌日の早朝からCSC会議が開かれた。我々は会議室の外で香港のプレゼンが終了するのを待ち、10時から会議室に入って、およそ30分のプレゼンを行った。少々意地悪な質問も受けたが、概ね好意的に受け取ってもらえて首尾上々であった。その後、CSC会議では候補地のランク付けが行われ、午後に開かれる理事会で候補の選定が行われるとのことであった。

 次の日の26日はTSG#7会議(Technical Study Group)が9時より開かれた。日本からは私と橘 秀樹教授が出席した。参加者は10名と非常に少なかった。議長はUSAのBill Lang氏であり、約2時間にわたって今後のTSG#7の活動について討議した。討議内容は,I-INCE /TSG#5がまとめた報告書“A Global Approach to Noise Control Policy”(国際的な騒音制御政策)を、今後どのようにして実施に移すかであった。提案としてはCAETS (International Council of Academies of Engineering and Technological Sciences) という科学技術の国際組織に、世界的な騒音制御の重要性をアピールすることであった。そのために今後1年半をかけて、CAETS向けレポートを作成することになった。

 同じ日の午後1時からI-INCEの総会が開かれそれを傍聴した。日本代表として山田一郎(ASJ)さんと今泉博之さん(INCE/J)が出席した。橘I-INCE会長の采配で、およそ15項目の審議事項の検討と採決を行った。審議の一つとして前出のCSCメンバーの改選が行われ、日本からは桑野先生が再選された。このほか、I-INCEの活動状況報告や財政報告が行われた。

 総会終了後の4時から、オープニングセレモニーが開かれ、ここで小林理研の他の3名と合流した。このセレモニーでは、中国楽器の演奏に引き続いて、ホスト役である中国のJing Tian氏の歓迎の挨拶、橘会長の開会宣言を経て、閉会式までの3日間にわたる研究発表が開始された。なお、今回の参加者総数は907名で、論文数は636件、企業展示は36社と発表されている。国別の参加者は,多い順に中国(183名)、日本(130名)、韓国(55名)であり、ヨーロッパはいつもより少ないという印象であった。 (所長 山本貢平)
inter-noise2008の開かれた上海国際会議中心

 教室で漫画三国志を回し読みしていた高校生の頃に、中国の歴史小説にはまり、今でも書店にいくとついつい手が出てしまう。中国の春秋時代や戦国時代という混沌とした時代に登場する人物たちはたいへん魅力的で、いつも感動してしまう。そんなイメージをもって上海に出発した。しかし、小説とはまったく違う世界が広がっていた(当然!)。会議場の近くは、お台場(日本)のようで、テレビ塔に代表される近代的な建築物が林立しているではないか。しかし、そこに住む人々は、日本人とは違い、切符の順番待ちは意味がなく我先にと販売機に殺到するかと思えば、地下鉄の駅がどこかと迷っている私たちに見ず知らずのおばさんが身振り手振りで道を教えてくれる。そんな雑多でちょっぴり温かい上海のinter-noise2008が始まった。

 私は、主に音響材料関係のセッションをまわった。中国ということもあり、Dah-you Maa 氏の業績を称えるスペシャルセッションまで開催され、MPP(Micro Perforated Panel:微細穿孔板、Maa氏の取り組んだ研究のひとつ)に関しては他のセッションを含め10件以上の発表があった。MPPとは直径1 mm以下、開口率数%の有孔板である。特徴は、グラスウール等の多孔質材料を必要とせずに十分な音響抵抗をもち、素材を選ばず、プラスチック、木材や金属などに適用可能であるという点である。吸音周波数領域が通常のヘルムホルツ型レゾネータに比べると広い点が特徴である。素材としての吸音性能についてはやりつくされた感があり、MPPの応用例の発表が多かった。例えば、素材を選ばないという利点を生かし、透明なMPPを二重窓内に設置し遮音性能を向上させようとした報告や圧電素子と組み合わせることによって、広帯域化を図った報告などがあった。特に興味を惹いたのは、MPPの非線形性についてである。穴内の粒子速度に依存するために、大音圧場では音圧レベルの大きさに従い吸音性能が変化し、定常流下では流速によっても吸音特性が変化する。一見、音圧レベルが変化するたびに吸音性能が変わっていますと使いづらいような気もするが、この効果を最適化することによって、自動車のマフラーに上手く適用した例はたいへん興味深かった。

 最後に、戦後時代の人で田文(孟嘗君)をご存知でしょうか。彼は多くの食客を抱えており、学者のような知識人はもちろんのこと、泥棒などの無法者も養っていました。そんな食客の中から、「鶏鳴狗盗」という故事が生まれました。つまり、一見、役に立たないようなものでも、使いようによっては役に立つという例えです。私たちの周りには無駄なものはなく、よく目を凝らしてみると、道端の石もダイヤモンドなのかもしれません。そんな柔軟な頭を持った研究者になりたいものです。(建築音響研究室 杉江 聡)

 

 世界に広がるチャイナフリーの波に逆らい、上海に乗り込んだ。空港から「磁浮」(リニアモーターカーの現地語表記)で中心街まで移動した。車窓には、遠景に新興住宅地という雰囲気の高層住居がちらほらと見える一方、沿線の目隠し壁の隙間からは放置された廃屋が立ち並んでいるのが見える。リニア終点に接続する地下鉄駅は、利用客が通る1階は立派だが、2階はガラス窓があちこち割れっぱなしという有様。急成長をアピール(偽装?)するなら、隠すところをちゃんと隠せばもっと効果的なのに。地下鉄を降り地上出口への階段を登ると、子供向けのおもちゃやアイドルのブロマイドを売る露天商が大勢いる。露天商自体は日本でも見かけるが、駅の階段の踊り場で床に売り物を並べる人はいないだろう。

 道中の風景は雑然としていたが、学会会場の建物、設備、ボランティアスタッフは普通だったのでひとまず安心した。ただ、プログラム編成のセッションの分類は雑然そのものであった。「適応フィルタを用いた騒音源分離」の発表がサウンドスケープのセッション、などの不可解な分類がかなり多くあった。聴衆は一コマ単位で移動しなければ興味ある発表にたどり着けないし、座長にとっても専門外の話に対して当たり障りのないコメントを捻り出すことになり、質疑の盛り上がりは全体にいまひとつだったように思う。

 会期の最終日に、先端改良型遮音壁の性能評価法について発表した。先端改良型遮音壁の利用が広まりつつある東アジア圏での開催ということもあり、質疑ではそれなりの議論を期待していたが、本質的な質問はないままに終了した。こういう逆境のなかでも質疑が盛り上がるような発表技術を身につけなければ、などと無理に反省したものの、やはり残念であった。休憩時間中に、私をinvite してくれた座長をつかまえて、同様の目的を持つ欧州規格との関係も含めて意見交換した。心中を察してくれたのか、丁寧に議論にお付き合いいただいた。私の発表の論旨についてはおおむね了解していただいたようで、溜飲を下げた。

 実は中華料理が好きなので、滞在中の食事は楽しめた。日本円換算するとかなり安価で、満足ゆく食事だった。渡航前はいろいろ不安だったが、体調を崩すこともなく無事帰還できて本当によかった。本当に。(騒音振動第一研究室 大久保朝直)

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