1983/12 No.31. 騒音の評価と等価騒音レベル 3. 合わせガラスのダンピング特性とコインシデンス 4. 透明強誘電体セラミックの特性と応用 5. 騒音・振動解析装置 SA-73 <技術報告>
騒音・振動解析装置 SA-73
リオン渇ケ測技術部 曲 木 征 郎
1. はじめに
最近急速に発展してきた音、振動の解析装置としてFFT方式のアナライザがあげられます。ここでは今回新らたに開発された騒音、振動解析装置SA-73型についてご紹介します。
本器はデュアルチャネルのFFTアナライザであり、音や振動の信号解析に必要とされる伝達関数、コヒーレント関数、クロススペクトル、過渡現象の分析、1/3オクターブ分析などの機能に加え、専用のマイクロホンを使用してサウンドインテンシティの計測ができます。また、インパルスハンマなどを用いて機械的構造物のモーダル解析も可能です。ここではSA-73の特長でもあるサウンドインテンシティ計測及びモーダル解析についての概要を述べることにします。
図1 騒音、振動解析装置SA-73 2. サウンドインテンシティ(Sound Intensity)計測
サウンドインテンシティ(以下S・Iと呼ぶ)とは音場中の任意の点において単位面積当りの「音のエネルギー流」を表わしW/m2の単位が用いられます。S・I計測の原理はS・Iマイクロホンにより2点間の音圧差を求め(1)式により近似的に方向の粒子速度
を求めることができます。
ここで、,
![]()
:2個のマイクロホンで受ける音圧 ![]()
:マイクロホン間隔 ![]()
:空気の密度 また、S・Iの
方向での成分
は音圧
(
、
の平均値)と粒子速度
の積の時間平均で表わされ(2)式のようになります。
この(2)式について周波数ドメインで演算すると(3)式のようになります。
ここで、
は
、
の複素スペクトラム、ωは角周波数
すなわちS・Iマイクロホンにより2点間の音圧
、
を求めSA-73により(3)について演算処理することによりS・Iが求められます。なお、この
が測定面に対して垂直な成分であれば、その面の面積Aを通過する音響パワーWは(4)式で表わされます。
また、S・Iマイクロホンの指向特性を利用して多点音源中の音源位置探査にも応用できます。これはマイクロホン軸に対して音がθ角度から入射した場合の音の強さを
とし、マイクロホンの正面(0°)感度を
とすると、
で表わされます。S・Iマイクロホンの指向性パターンを図-2に示しますが(5)式からもわかるように感度は
に比例した指向特性となり音の入射角度が±90°で感度
は最小となります。この方向では入射角度が若干変化しても感度は大幅に変動しますが、正面(又は背面)方向に対しては入射角度を60°ずらしても3dB程度しか低下しないことがわかります。それ故、音源探査にはマイクロホンの±90°方向を利用してS・Iの最小値を探すようにします。本器に使用されるS・Iマイクロホンの測定周波数範囲は組込まれている2個のコンデンサマイクロホンユニット間隔で決まり周波数と感度の関係から表-1に示すような4種類のマイクロホンが用意されています。次にSI-21型マイクロホンを使用してS・I測定した一例を示します。
![]()
図2 S・Iマイクロホンの指向特性 表1 S・Iマイクロホンの種類 ![]()
図-3に示すような2個のスピーカを試験音源としX、Y、Z軸三面につき10p間隔のメッシュで測定ポイント95点につきインテンシティレベルを測定しコンピュータ(HP9836)で演算処理した結果を図-4、図-5に示します。図-4は正面(Y軸に平行)に対しZ軸方向に30°、Y軸方向に23°隔てた方向から見たS・Iレベルの三次元表示です。この図は最大レベルが92.3dBとなり、下限レベルを71dBに設定し作図した例です。また、X、Y、Z軸に平行な三面の等インテンシティ線図を示したものが図-5となります。この図からX軸に平行な面でS・Iレベルが最大となっていることがわかります。
図3 試験音源 ![]()
図4 三次元表示 ![]()
図5 三面の等インテンシティ線図 3. モーダル解析
機械的構造物が共振状態にあるとき、構造物全体がどのような振動をしているかを調べ振動源、振動伝搬経路などが明らかになれば保守対策面においても有効な手掛りが得られることになります。構造物を加振させる方法には、数台の加振器を構造物に取付けて行いますが試験自体が難かしく試験費用もかなり必要となります。これに対し比較的小型の構造物については最近一般化してきた伝達関数法があります。この方法はインパルスハンマを用いて人為的に構造物を加振して行いますので前者の方法に比べ誰にでも容易に行うことができます。次にモーダル解析のシステムを図-6に示します。
図6 モーダル解析システム これは供試体に加速度センサを取付けてインパルスハンマで供試体を叩き、得られた力信号と応答加速度信号を電荷増幅器を介してSA-73に入力しますとリアルタイムで伝達関数や機械インピーダンスが得られます。またコンピュータ(HP200シリーズ)、米国ENTEK社のモーダル解析ソフトを用いて「実験的モーダル解析手法」に基づいて演算及びアニメーション表示を行います。モーダル解析では1点を加振し、多点の加速度応答を取込む場合と加振を多点で行い任意の1点の加速度応答を入力する場合がありますが加振位置と応答位置については検討を要します。最後に本器のオプションであるインパルスハンマーキット(PH-61)は力(Force)検出部には水晶を用いており、先端パッド類、イクステンダー、及び圧電型加速度ピックアップ等から構成されています。なおハンマー部の性能の概要を表-2に示します。
表2 ハンマー部の仕様 4. おわりに
通常の騒音計にて計測される音圧に対し、サウンドインテンシティは音のベクトル量が計測されます。
この性質を利用して音の流れ、音源探査、現場での音源の放射パワーなどが容易に計測できます。また構造物の各部分の振動姿態などを解明するために伝達関数法によるモーダル解析がここ数年間に普及しはじめました。これらは本器とコンピュータを併用することによりインテンシティマップ、振動モードのアニメーション表示など目的に応じたソフトウェアを用いることにより容易に行えるようになりました。今後、各分野での利用が期待できるものと思われます。