1983/12 No.31. 騒音の評価と等価騒音レベル 3. 合わせガラスのダンピング特性とコインシデンス 4. 透明強誘電体セラミックの特性と応用 5. 騒音・振動解析装置 SA-73
透明強誘電体セラミックの特性と応用
圧電材料研究室 横 須 賀 勝
1. はじめに
米国のHeartlingらのグループにより発明された透明強誘電体セラミックはPLZTと呼ばれ、日本を含む世界の多くの国々で活発な開発研究が今日まで進められて来た。PLZTとはPbZrO3とPbTiO3との固溶体にLa2O3を数モル%加えホットプレス焼結したものであり、多結晶体であるにもかかわらず高い透光性を有しているのが特徴である。このため、従来の圧電セラミックでは到底考えも及ばなかった電気と光との相互作用(electrooptic effect)を利用した新光学ディバイスの開発が可能なものとなった。
当研究室においても数年来、タングステンブロンズ構造を持つPbBaNb2O6系、およびPbZrO3-PbTiO3固溶体を母体とする三成分系新透明セラミックの材料開発、さらにそれらを用いた応用製品開発を行っており、材料に関する特許だけでも申請中を含めて5件以上ある。透明セラミックを用いた電気光学機器(electrooptical device)は数多く発表され、すでに一部実用化されている。発表されたもののなかから主なものを挙げると、画像蓄積装置、電子・光スイッチ行列、光変調器、眼球保護用ゴーグル、立体テレビ、透明圧電発音体などがある。
以下、著者らが開発した透明セラミックの製造方法および電気光学特性、さらに透明圧電体についても簡単に述べたいと思う。
2. 透光性セラミックの作製
透明化を阻害する主な要因として下記の左側の〜
が考えられ、それに対する解決策を右側に示す。
結晶(光学)異方性 → 立方晶、擬似立方晶
空孔 → ホットプレス 不純物 → 高純度出発原料 (大気中の)窒素→ 酸素雰囲気 結晶の異方性が大きいとき、セラミックを構成する微結晶の配列の不規則性のため、光入射方向に対しそれぞれの結晶の屈折率が異なり内部散乱が起る。又空孔が存在すると結晶と空孔との屈折率の違いのためその境界で多重反射が起る。これらはいずれも透光性を激減させる原因となる。さらに不純物の混在はセラミックの異色化茶褐色化をもたらす。窒素は焼結中のセラミック内部からの拡散速度が遅く、セラミック中に局在すると透明度を悪化させるため雰囲気を酸素に置換することが重要である。通常、透光性セラミックはホットプレスによって1200〜1300℃の温度範囲で100〜150s/cm2の圧力を加え酸素雰囲気中で5〜20時間保持し焼結される。焼結後の密度は理論密度の99.8%以上でないと期待するような透明度は得られない。焼結後のブロックを使用目的に応じて0.5〜5o厚に切断し、光学研磨で仕上げる。一例として図1には、0.25o厚薄板の透光率(%)波長特性が示してある。吸収端は380nm前後であり、透光率は長波長側に向って漸次増大する。ここで600nmにおける透光率は68%と一見低い印象を与えるが、このセラミックの屈折率は2.5と大きく、薄板両面での反射損失を屈折率を用いて計算すると31%となる。このことはセラミック自体の透光率は100%に極めて近いということである。このため実用上は、反射防止膜をセラミック板上に形成し、表面反射を極力少なくし見かけ上の透光率を高める工夫が必要である。
図1 透光率波長依存性
図2 偏光光学系
光ビーム
偏光子
透光性セラミック板
検光子
図3 複屈折率電場特性
(a)一次電気光学効果 (b)二次電気光学効果3. 電気光学効果
電気光学効果とは外部電界により屈折率の変化する現象をいい、通常、図2のような構成で用いられる。偏光子と検光子とは互に直角とし、これらの間に薄いセラミック板を置き、電圧印加方向は偏光子、検光子と45°角度になるようにセットする。電圧を加える前は焼結体であるため等方体と見なせるが、電圧を印加すると分極(P)がその方向(Y軸)に配列し、それと直角方向(X軸)との間に屈折率の差、つまり複屈折率()を生じる。ここで
は分極前の屈折率(
)、印加電圧(
)と次の関係式で与えられる。
、
はそれぞれ一次、二次電気光学定数と呼ばれるものであり、セラミックの組成を変えることによりそれらの値をある程度任意に選ぶことは可能である。図3はある素材の
特性を示すグラフの一例であり、通常
=3〜7×10-10m/V、
=4〜9×10-16m2/V2の範囲の値を示す。動作電圧の点からいえば、
、
はできるだけ大きい方が有利であるが、そのときは同時に誘電率も大きくなり、よって履歴、時定数等考慮せねばならない問題もでてくる。一次電気光学効果を使用する場合の組成は強誘電相でなければならず、さらに分極処理してから用いる必要がある。このため二次光学効果を示す反強誘電相、あるいは常誘電相の組成に比べ透光率はかなり低下する。このことから一般的使用はほとんど二次効果に限定される。
4. 透明圧電体
これは透光性に加え圧電性を積極的に利用し、音を発生させようとするものである。ここで一番問題となるのは圧電性を向上させようとすると結晶異方性も大きくなり、よって透光性は逆に低下するという現象である。圧電性を利用するためには当然、強誘電領域に属する組成を用いねばならない。しかし圧電性の大きい菱面体晶、あるいは斜方晶の組成は分極すると透光性が著しく低下する傾向にある。この点からいえば正方晶の組成は分極前後での透光率変化は2〜4%と比較的少なく有利であると言える。さらに相境界近傍の組成を選び圧電性を向上させ、キューリ点(Tc)は影響のないかぎり低くし、透光性の向上を計る必要がある。表1はこの目的のために開発した素材の定数一覧である。透明電圧ブザー、発音体として使用するときの構成は光学研磨した薄板(0.1〜0.3o厚)の両面にSn-Ig系導電性透明電極をスパッタリングにより形成する。さらにこの膜厚を制御することにより表面反射防止膜も兼ねるようにする。そしてセラミック面に垂直に分極し圧電的に活性化する。セラミック板とガラス板(あるいは透明プラスチック板等)を透明接着剤により接合すると透明圧電ブザーが出来上る。たとえば、液晶表示板との併用等、幾多の用途が考えられている。
表1 透明圧電体諸特性 ![]()
5. おわりに
従来、強誘電体セラミックと言えば圧電着火、振動子ブザー、フィルターおよびコンデンサーなどの使用で古くから知られ、光とは全く無縁な分野であった。しかし透光性セラミックの出現によりその応用範囲は光学の分野へまで急速に拡大しつつある。これらの透明セラミックの大きな特徴は、単結晶にくらべ比較的作製が容易で、かつ大型(直径80)のものが作りやすく、さらに加工がしやすい等々量産に最適な材料と言えることである。歴史はまだ浅く、実用化されたものは二、三例にすぎない。オプトエレクトロニクス時代の最先端を担うアクティブな材料として今後の発展が期待されている。