1983/12 No.3
1. 騒音の評価と等価騒音レベル

2. 軽量遮音パネルの開発

3. 合わせガラスのダンピング特性とコインシデンス 4. 透明強誘電体セラミックの特性と応用 5. 騒音・振動解析装置 SA-73
       <研究紹介>
 軽量遮音パネルの開発

騒音振動研究室 加 来 治 郎

 近年、都市における住宅事情の悪化やピアノ・ステレオなどの広範な普及によって、住宅内で発生する音が騒音問題として取上げられるようになってきました。対策方法のひとつとして室と室の間仕切り壁の性能向上をあげることができますが、遮音上の問題点として扉や引き戸などの開口部の弱さが指摘されます。
  また、三世代同居のような生活様式の変化に対応して、生活空間を自由に可変できる可動間仕切り壁が一部の住宅に導入されつつあります。
  操作性の点で軽量であることを要求される扉や可動間仕切り壁は、軽くてしかも遮音性に優れるという相反する条件を満足しなければなりません。ここでは、当研究所で開発をすすめてきた軽量遮音パネルについて、これまでの開発状況とともに軽量化に伴って生じる問題点を以下にご報告します。
  軽量であることを要求されるこの種の材料については、透過損失の値が質量法則で決定される単一構造壁では遮音性能に限界を生じるため、一般に複合壁構造が採用されます。今回の研究でも遮音パネルの基本仕様は、合板を表面材に用いた中空二重壁構造としました。
  中空二重壁の遮音性能は、パネルの重さに対応して得られる質量則に比べれば定性的には図1に示すような傾向になります。透過損失の値そのものは表面材自身の音響性能、中空層の厚さと吸音条件、および表面材の連結方法等によって決定されます。中空二重壁の遮音性能を低下させる要因として、表面材のコインシデンス効果と低音域における共鳴透過の2つの現象をあげることができます。図中の , はそれぞれの限界周波数を示すものですが、とくに表面材が軽くて空気層厚の薄い二重壁の場合は、 が低音域から中音域へ移行して大きな遮音欠損を招くことがあります。
図 1

 表面材に3o厚と5.5o厚の合板を用いて製作した遮音パネルの透過損失の値を吸音材の有無と下地材の条件で整理して図2,3に示します。いずれの遮音パネルも低音域での共鳴透過現象による透過損失の落ち込みが顕著です。日本建築学会の提示したD-30以下の遮音等級曲線と比べた場合では、中空層にグラスウールを挿入した5.5oの表面材の遮音パネルがかろうじてD-25を満足してるにすぎません。

図 2
 
図 3

  中空層への吸音材の挿入は、 付近での透過損失の落ち込みを小さくし、 以上の周波数領域での大幅な遮音性能の向上を実現しています。軽量な中空二重壁では共鳴透過現象による遮音欠損が大きいため、その影響を小さくする上でも吸音材の使用は必要条件といえるでしょう。
  表面材を結合する下地材の影響については、吸音材の有無によって異なる傾向が認められます。吸音材を挿入したパネルでは、 付近では2本の間柱のある下地材の方が枠だけの下地材よりも性能が良く、逆に 以上の中高音域では枠だけの下地材の方が良いという傾向をわずかに認めることができます。一方、吸音材の挿入されていないパネルでは、ほぼ全周波数帯域にわたって間桂のある下地材が枠だけの下地材を遮音性能の上で上回っています。
  通常、間柱等の下地材は“音の橋”として振動伝搬による性能低下をもたらすとされるものですが、今回の中空二重壁の測定ではこれとは逆の結果が得られた結果になります。合板以外の材料として6o厚のケイカル板を表面材に使用した中空二重壁の透過損失の値を図4に示します。この場合も間柱の数が増えて下地材が密になるほど 以上の周波数で透過損失は一様に増加しており、遮音性能の向上を間柱の効果として評価することができます。具体的な間柱の効果としては、
(1) 共鳴透過現象の抑制
(2) 垂直入射方向成分の寄与の助長
(3) 表面材と平行な面内に生じるモードの抑制
(4) 表面材と下地材の間でのエネルギーロス
などをあけることができます。
  周知のように中空二重壁の共鳴透過周波数は次式で与えられます。

 ここで、 は壁面への音の入射角、 は空気の固有音響抵抗です。  の増加とともに は高域へ移行し、入射角が84°のときに垂直入射の音の (下限値)の10倍の周波数になります。このことは、間柱で表面材を連結して共鳴透過現象を防ぐことによって 以上の周波数領域で遮音性能の改善が期待できるわけです。

図 4

 (2)については、高域の周波数で効果を生じるものですが、空気層厚40oの3×6寸法のパネルでは2本の間柱が音の入射方向にまで影響を及ぼすとは考えられません。
 (3)の効果は、中空層を間柱で分割することによって中空層内に生じるモードを制限し、モードの影響による遮音性能の低下を防ぐものです。モードが制限される低音域はともかく、分割の影響を受けない中高音域については性能向上の説明が難しいようです。
 (4)の現象は表面材に対する制振効果とも関連するものですが、表面材の板振動が透過損失に直接影響しない 以下の周波数領域では大きな効果は期待できません。
  なお、間柱の効果は吸音材を挿入していない中空二重壁の場合に期待できるもので、図3に示されるように吸音材を挿入した遮音パネルでは、間柱を介した振動伝搬の影響による性能低下を生じることになります。
  以上、軽量遮音パネルの開発を目的とした研究の結果の一部をご報告しました。表面材が軽量な中空二重壁では 付近の性能低下を避けることが難しく、所要の遮音性能を得ようとすればどうしても表面材を重くするか空気層厚を増す必要があります。下地材については振動の伝達というマイナスの効果の他に共鳴現象の抑制というプラスの効果をもつことが判明しました。一般の複合構造壁への応用も含めてこの問題については今後とも検討をつづけていく予定です。

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