2008/1
No.99
1. 巻頭言 2. ICA 2007 3. 超大型低音用ハーモニカ

4. 第30回ピエゾサロン

  5. 環境騒音観測装置 NA-37
 
  環境騒音観測装置 NA-37

リオン株式会社 計測器技術部  廻 田 恵 司

 航空機騒音の評価指標を現在のWECPNLから国際的に多く用いられているLden(時間帯補正等価騒音レベル)へ、それに伴う環境基準値も昭和48年に策定以来、34年ぶりの変更が環境省では行われようとしています。

 当社はこれまでの我が国における航空機騒音測定の歴史と共に、評価するための自動監視装置の開発を行い販売してきました。ここで紹介する新型の環境騒音観測装置NA-37は航空機騒音自動監視におけるトータルソリューションとして、これまで好評を頂いているNA-36の後継器の位置付けとなる製品です。EMC(電磁環境適合性)の性能の強化が要求される騒音計の新しい日本工業規格であるJIS C 1509-1 (IEC 61672-1)や最新の航空機騒音自動監視に係るISO/DIS 20906国際規格への対応を可能とする等、これまで以上の高機能化、小型化をコンセプトに開発を行いました。

 自動監視として重要な航空機音の識別機能は歴史と共に変遷し、直近の10数年の機種では表1に示すように型式と共に進化してきました。NA-37型では従来の3軸マイクロホンを用いた相関法による音響式識別に、新たに航空機の応答電波信号情報による識別方法を加え機能アップしました。これらのNA-37型騒音監視システムの内容に関して、この紙面をお借りし説明します。
表1 航空機騒音識別方式の変遷
開発年度  型式 航空機騒音識別方式
1993 NA-35型  相関法1軸マイクロホン、音到来方向(仰角)
1999 NA-36型 3軸マイクロホン、音到来方向(仰角、方位角)
2007 NA-37型 3軸マイクロホン、音到来方向(仰角、方位角)+航空機の電波信号 
図1 環境騒音観測装置NA-37

 

■ NA-37型システムの特徴
 今回開発しましたNA-37は航空機騒音モニタリングの専用システムとして必要な機能の強化を図りました。精密騒音計の新JIS対応、デジタル回線やLANに対応した通信機能の強化、USBフラッシュメモリによるデータ回収や外付USBプリンタの利用、主要な機能である航空機騒音識別装置には航空機が発する二次監視レーダへの応答電波信号を利用した識別を加え、識別精度向上を図っております。これらの特徴を持っており、その内容を含め、本製品が持つ特徴を以下に説明します。
図2 NA-37のシステム構成図

・小型軽量化
 モニタリング装置は常時設置型が多く利用されていますが、短期測定における利用も促進するために移動時の可搬性、即応性に対応させるべく本体サイズの小型化を図りました。従来比で体積1/2、重量3/4。更に、航空機騒音識別装置に用いる3軸識別用マイクロホンの間隔を従来の50 cm間隔から、25 cm間隔へ大きく狭めることでコンパクト化を図っています。

・国際規格に対応した騒音計部
 近年、測定方法や評価方法の国内規格を対応するISO、IEC規格へ整合化する動きが活発化しています。航空機騒音の自動監視では初めての国際規格となる「空港周辺における航空機騒音の自動監視」ISO/DIS 20906規格が審議中であるなど、注視が必要となってきました。この規格では防風スクリーンを装着した状態で国際規格に適合する騒音計の使用が要求されています。

 これ等への対応としてNA-37では、新たに精密騒音計NA-83と屋外用マイクロホンMS-11を開発しました。また、屋外設置のためのマイクロホン用防風スクリーンWS-13も同時に開発しました。これらは、計量法精密騒音計 、JIS C 1509-1:2005 クラス1およびIEC 61672-1 : 2002 Class 1に適合しています。

 ウィンドスクリーンWS-13 も小型化して、バードスパイクを標準装備しました。永年、ウィンドスクリーンは鳥に取られてしまい、風雑音低減性能の低下や、マイクロホン故障につながることが課題となっており、その対策を施しました。

 騒音計部はユニット構造で、NA-37をキュービクル等のケースに固定した状態のまま交換可能ですので、従来と同様、騒音計だけを検定に出すことができます。

・屋外用に開発されたマイクロホン部
 マイクロホン部は屋外での連続使用において安定に動作する必要があり、外部環境に強い性能と校正機能を内蔵することが求められます。NA-37システムのマイクロホン部には、屋外での温度や湿度等の変化に対応するために結露防止用のヒーターを内蔵して安定動作を実現しています。またマイクロホンの内部には校正用の音源を内蔵しているので、日常的に遠隔操作でマイクロホンの動作状態を確認することが可能です。
図3 防風スクリーンWS-13とAN-37用マイクロホンステイおよびAN-37R用アンテナ
図4 屋外用マイクロホンMS-11

 

・電磁両立性能の向上とシステムの小型化
 NA-37はモニタリングが主となる機能であるため、常時屋外に設置されることが多い装置です。しかも、モニタリング対象が航空機騒音であるため建屋の屋上に設置されることもあります。そのため、携帯電話などの無線装置の近傍に設置されることもあります。NA-37では従来のNA-36と比較して大幅にEMC(電磁両立性)性能を強化し、騒音計、航空機識別装置、本体含めて外部からの電磁波や雷サージ等の外来電磁ノイズに対する耐力が向上し、マイクロホンケーブルがアンテナになって外部の電磁波ノイズを受信してしまうようなことは極めて少なくなります(CEマーキングのEMC指令に適合)。

・航空機騒音識別処理プログラム
 従来のNA-36では、騒音レベルの変化から騒音発生区間を検出し、3軸マイクロホンで取得した音の到来方向(仰角・方位角)から音源を推定して識別を行ってきましたが、その際、距離が離れているためS/Nが十分確保できなかったり、航空機騒音と異音が同時に発生したりした場合など、音響的に厳しい条件下ではうまく検出・識別できない場合がありました。音の評価をすることが測定の目的であるため、NA-37では騒音イベントはあくまで音響式(騒音レベル)で検出を行った上で、検出した騒音イベントが航空機か否かを識別する性能の向上を目指しました。

 今回のNA-37では、検出した騒音イベントの識別に、航空機が発する電波を利用することにより、従来、異音を避けるため検出条件を緩められなかったような場所でも、条件を緩めた上で、電波を利用した識別で航空機騒音であるかないかを絞り込めるようになりました。また、異音によって誤って航空機と識別されていたイベントを、電波がないために除外することも可能です。このようにNA-37では、航空機騒音をより正確に識別し、騒音レベルをデータ化することが可能になりました。

 騒音イベントでは、音の到来方向を利用した音響的な航空機騒音識別と、電波を利用した航空機騒音識別の両方を行います。そしてこれらの識別結果を合成した上で、最終的な航空機騒音識別結果を求めます。

・外部インタフェース機能
 Ethernetポート(LAN)を1つ、USBポート2つ、シリアルポート2つ等、を付加的に装備した外部インタフェース機能を強化しました。

 Ethernetポートは近年のデジタル回線やLANネットワークに対応した通信機能の強化のために機能を内蔵しました。NA-37はVPN回線やLAN回線を利用したネットワーク型のシステムを容易に構築することができます。  USBポートはUSBフラッシュメモリによるデータ回収や外付プリンタを簡単に接続して利用可能です。

 シリアルポートは従来型の公衆回線+モデムを使った中央装置とのデータ通信を行えます。VAISALA社製の複合気象センサが簡単に接続できますので、温度、湿度、風向、風速のデータを設置するだけで調整なしにデジタルデータとして騒音データと共に記録し環境条件を加味した騒音データの評価に便利です。

・その他
 GPS モジュールを内蔵することができます。衛星を利用したGPS システムはカーナビゲーションで多く知られ利用されていますが、原子時計に匹敵する正確な時刻情報を送り続けており、これを利用しNA-37の内部時計を自動校正することができます。また、GPSの特徴である受信地点の位置情報の取得がありますが、NA-37では騒音イベントの測定データにその値を付加し記録します。この機能により騒音測定した場所を気にせず、後でGIS(地図情報システム)を利用した地図上に測定点を示すなどができます。

 実音の録音機能を強化しています。機能としては騒音イベントと同期した録音の他、インターバル録音、レベルトリガ録音が可能です。記録サイズを最小にするための圧縮方式で容量の小さいMP3ファイル形式と再分析可能なPCMファイル形式(WAV)が選択で利用可能となっています。

■ 新環境基準への対応
 「航空機騒音に係る環境基準の改正について」(中央環境審議会答申2007年6月)によると、航空機騒音の評価値がWECPNLからLdenに変わることに加えて、リバース音、タキシング音、ランナップ音、APU音(補助エンジン音)などの空港内の地上で発生する航空機音も評価の対象となることが示されています。NA-37ではLdenに必要な個々の航空機騒音イベントのLAEを自動的に算出し、日、昼、夜の重み付けをして算出します。LAEの検出方法についての詳細は環境省の新環境基準に対応した航空機騒音測定マニュアルの発行に待たれますが、従来どおり最大レベル−10dBの区間で算出を行っています。

 NA-37は、当面は必要と思われる新旧の環境基準値LdenおよびWECPNLの両方を算出することができます。また、音到来方向の検出機能を用いて、設置場所を選ぶことによって、滑走路上、誘導路上の移動音源を記録し地上音の有効な判定を可能とします。

■ おわりに
 航空機騒音モニタリングのソリューションとして、NA-37シリーズを紹介しました。お客様の声を聞き、より良い製品の開発に努力する所存です。

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