2008/1
No.99
1. 巻頭言 2. ICA 2007 3. 超大型低音用ハーモニカ

4. 第30回ピエゾサロン

  5. 環境騒音観測装置 NA-37
 
 ICA 2007

加 来 治 郎,安 野 功 修,
児 玉 秀 和,横 田 考 俊

  19th ICA(第19回国際音響学会議)は、2007年9月2〜7日の6日間にわたり、スペインのマドリードの空港近くの国際会議場で開催された。小林理研からは標記の4人が参加し、研究発表を行った。加来、横田はイスタンブールで開催された前週のinter-noise 2007に引き続いての参加となる。ICAとinter-noiseは、それぞれ日本音響学会と日本騒音制御工学会の研究発表会の国際版といえる。今回のICAでの発表件数は、口頭発表が1,076、ポスター発表が219の計1,295件であった。また、参加総数1,473人の内、開催国スペインの251人に次ぐ188人が日本から参加した。

 実質的な会議は9月3日から、14のセッションに分かれ、16の会議室を利用してスタートした。時間割は、朝9時から夕刻18時までとなっているが、その間に12時〜13時の基調講演と13時〜15時の昼食休憩が組み込まれており、研究発表の時間は6時間となる。そのしわ寄せが時間割に表れ、発表件数が最多のRBA(室内・建築音響)については、3ないしは4会場でパラレルに発表が行われていた。サブ・セッション間での内容の違いがどこまで考慮されていたのか気になるところである。また、2時間もの昼休みを持て余し、ちょっとだけ外に出るつもりが、結局は会場に戻れずじまいの日もあった。

 5件の基調講演に関しては、組織委員長のJ.A.G.-Juarez氏の21世紀の音響学に続き、桑野園子先生の音環境の心理評価、イギリスのT.G.Leighton氏の鯨類に関わる気泡音響、ドイツのO.V.Estorff氏の音響分野での数値計算手法、カナダのJ.S.Bradley氏の会話のプライバシーからセキュリティに関わる音響設計、と多岐にわたる内容の話があった。桑野先生の講演では、空整協の山田一郎さんが司会を務め、先生が日本では親しみを込めてGod Motherと呼ばれているという紹介で会場の空気が一度に和んだ。

 会議全体の印象としては、受付・登録を初めとして、スライドの事前入力、発表会場の時間管理など、会議の運営がスムーズに行われ、2002年にスペインのセビリアで開催された国際会議とは大きな違いを感じた。いろいろな面でEU統合による経済的な発展が寄与しているのであろう。とはいえ、スペインらしさは健在で、最終日の私と児玉君のセッション(騒音/一般という他に行き場のない論文の寄せ集め)の開始前に、今回の会議をほとんど一人で取り仕切っていた副委員長のアントニオ・ロペス氏が会場に現れ、ここは座長がいないので誰かやってくれないかと頼んできた。適当な人を探すから心配なくという返事に喜んで室を出て行く彼と入れ替わりで入ってこられた山田さんに、運良く座長をお願いすることができた。

 午後からの閉会式では、次回2010年がオーストラリアのシドニーであることや2007-2010年の会長はブラジルのS. Gerges氏、副会長は桑野先生が選ばれたことなどが報告された。閉会式後のお別れパーティでシドニーでの再会を皆で誓って会場を後にした。今回、環境省から受けている助成研究の成果発表のノルマを達成するために多少無理をして参加した会議であったが、期間中一度も白い雲を浮かべることのなかった青い空が今でも強く印象に残っている。 (騒音振動第三研究室室長 加来治郎)

 
図1 発表会場(右側建物)と抜けるような青い空


 スペインには、電話機が電子化されようとした1985年にカーボンマイクロホンに換えてエレクトレットコンデンサマイクロホン(ECM)を紹介するため、MalagaにあったITTを訪れて以来、20数年ぶりである。私はTechnical session のElectro-acoustics and Audio Engineering に参加した。印象深かったのはタイムキーパである。スペイン独自の雰囲気を出したかったのか、パソコン制御による大音量のギター演奏ではじまり、終了5分前になると再び演奏で講演は中断され、皆顔を見合わせて待つのみ、タイムオーバーになると終了せよとばかりにとんでもない大きな音で「ジャンジャカジャンジャンジャーン」と繰り返し流されとても驚いた。

 講演はスピーカ、マイクロホン、センサアレイシステム、一般の部の4分野に分かれ、2日に亘り実施された。

 スピーカ関連は19件の発表があり、その内4件は日本からの発表であった。再生音場、空間への音放射解析、シミュレーションといった発表と並行して、スピーカユニットの解析に関する発表も6件あり、実験を伴った実際的な大変興味深いものであった。

 マイクロホンは14件の発表があり、このセッションのオーガナイザーはDr. Sesslerが担当した。参加者は常時約50人で満席であった。また、マイクロホンを応用したアレイの発表がセンサアレイセッションとして別に設定され、マイクロホンユニットだけのセッションが設けられたのは、今回初めてではないかと思う。その理由はMEMS(Micro Electro Mechanical System)関連の発表が全体の半分7件あり、小型、高性能化への新たな可能性が見えてきたからと思われる。

 テーマは小型、高S/N化で、たとえば、固定電極の空孔を回折格子にした光回折型音響センサをMEMSで作成し、積分干渉の原理で変位検知し高S/Nを実証していた。これは、日本で2005年に東芝(鈴木和拓等)が発表したものと酷似していた。また、MEMSで小型化しアレイに組んで指向性を付加し収音S/Nをあげる、デジタル化して高機能化を実現する、ZnOの圧電薄膜の応用等の発表があった。さらにここ数年欧州で研究の盛んな、新材料でCellular PP(ポリプロピレン)の高分子圧電フィルムとしてのマイクロホンへの応用、超音波送受波器として20-200 kHzの広帯域を実現する等発表があり、新たなシステム展開への研究が多く出てきた。その他にマイクロホンの校正、測定に関する発表が2件あった。

 日本からは私のECMの耐環境性能に関する発表1件であった。発表の内容は、高分子フィルム振動膜のエレクトレットでの長期間の感度変化を実測し、変化要因をエレクトレットの寿命と振動膜の緩みから特定したものである。会場からは細かな確認のほか、測定の精度、長期間の保存条件と測定環境についての質問、簡易加速劣化試験で同じような現象を確認したという同意コメントを受けた。

 インダストリー側として、ECMは発明以来多くの改善がなされ、広く使用されるに至った。今回は高信頼性部品としてサイエンティストの方たちにその成果を報告する形となった。    (圧電応用研究室 安野功修)
  
図2 会場のPalacio Municipal de Congresos内


 ICAはその名の通り音響に関連する国際会議である。しかし、セッション数を分野別に比較するとUltrasonicsは17件と最多であり、Environmental Acoustics (11)やRoom and Building Acoustics (16)を凌ぐ。ペーパー数では全体で1295件のうち、最多はRoom and Building Acousticsで260件、2番目はUltrasonicsで189件であり、筆者が発表を行ったNoiseでは僅かに86件であった。このように、ICAの中で超音波分野が占める割合は大きい。UltrasonicsはさらにHigh-power Ultrasoundなどの工業とHIFUなどの医療が2大分野として挙げられる。中でも医療分野に関する研究発表は他のセッションと異なり動画像が多く、私の好む分野の一つである。最近では,動画像表示に加えて対象組織の弾性率など、物性測定を定量的に行う技術も報告されており、今後の動向が楽しみである。

 私は“A study of sound shielding efficiency of ear muffs combined with piezoelectric polymer films”と題し、これまでの研究テーマである圧電ポリマーとアナログ電気回路(負性容量回路)を結合した遮音ユニットの応用として、イヤーマフ(防音保護具)の発表を行った。用いた実験用イヤーマフを図3に、電池駆動回路を図4に示す。このユニットは3 kHz帯域を選択的に遮音するようにチューニングされており、騒音性・作業性難聴を防ぐことを目的として用いられている。このユニットの特徴として、高い遮音制御幅と同時に低消費電力化および軽量化が達成されたことが挙げられる。本発表ではGerhard M. Sessler先生より、制御周波数の低周波化についての質問をいただいた。圧電ポリマーと負性容量回路により低周波音の遮蔽が可能であるという基礎実験結果は既に得られている。本研究では難聴を未然に防ぐという目的に対する可能性を検討した。 (圧電応用研究室 児玉秀和)
図3 圧電ポリマーを用いた実験用イヤーマフ
図4 電池駆動型アナログ制御回路

 

 騒音に関わる発表は、主にNOI(NOISE: Sources and control)とENV(Environmental Acoustics)の2つの大きな分類において、18セッション(NOI:7セッション、ENV:11セッション)が3会場に別れ、5日間みっちりとスケジュールされていた。3会場において同時にセッションが進められたため、興味のあるものが同時刻に重なる度に1つを選ぶという苦渋の選択を強いられたのが多少残念ではあったが、騒音関係の発表件数がこれほどまでに多いことに大変驚いた。  騒音伝搬に関する発表では、2002年にEU-Directiveが採択されて以降、欧州の研究者による成果が著しい。特に本年は、加盟各国がNoise Mapの作成を完了させた年であり、綺麗にビジュアル化されたNoise Mapが度々スクリーンに映しだされたのが印象的であった。

 私はNOI-05(Outdoor Sound Propagation)のセッションにおいて、屋外における音の伝搬に関する数値解析法について発表を行った。50人程度入れる会場であったが、セッションを通して概ね満席に近い状態であり、質疑等も非常に活発に行われた印象である。このセッションにおいてもEU諸国の研究者による発表が多く、主にNoise Mapを作成する際に開発した数値解析手法について、精度の検証や新たな応用問題への適用に関する発表が多く見られた。会議以前から、この分野においては欧州の研究者が先進的であるという印象を持っていたが、発表された内容も非常に興味深く、もっと勉強せねばという刺激的なものが多かった。私の発表に対しても多くの質問やコメントを頂いたが、全体的な印象としては、経験豊かな研究者からエールを送られているようであった。

 会議に出席するにあたり、出発前に「自分から海外の研究者に話しかけ、コミュニケーションを図る」ということを目標として密かに掲げてみた。しかし実際は、話しかけると言っても話題選びからして非常に難しく、時間ばかりが過ぎてしまった。その様な状況の中、非常に幸運だったのは、発表を終えた直後に懇親会が開かれ、また着席前に屋外において立食でワインやカヴァを飲む時間が設けられたことであった。周りを見渡し、座長や同じセッションに参加していた欧州の研究者等に挨拶に行くだけで、非常に悩んでいた話題にも事欠かず、かたことながら会話を楽しむことができた。その後のテーブルに着いてからの時間も含め、非常に有意義な懇親会であった。

 帰国後、1時間程かけて考えた10数行の英文メールに返事が来た時、非常に嬉しく思うと共に、話題に遅れないよう研究をしなければという気持ちになった。 (騒音振動第二研究室 横田考俊)

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