1994/7
No.45
1. 地図にない町 2. 骨董品展示室の喇叭(ラッパ)たち 3. Gシリーズ(プログラマブル)  オーダーメイド補聴器 マイエイド HI-21
       <技術報告>
 Gシリーズ(プログラマブル)オーダーメイド補聴器
     マイエイドHI−21

リオン株式会社 聴能技術部1G 大 屋 茂 喜

1.はじめに
 現在市販されている補聴器の大部分はアナログ補聴器というもので、基本的にマイクロホン、アナログアンプ、イヤホン、調整器(半固定抵抗)及び電池からなっています。
 近年、従来のアナログ型補聴器の機能的な限界が見えて来たことと半導体技術の進歩により小型化が進み、デジタル技術を用いた補聴器が市場に登場しております。現在これには2つの方式があります。
 一つは、デジタル補聴器といわれるもので、音声信号系をデジタルで処理するものです。入力信号は、デジタル信号に変換され、デジタル信号処理器で信号加工され最後にアナログ信号に戻され音として耳に入ります。
 世界初で現在唯一の市販デジタル補聴器は平成3年10月に販売を開始したリオンのHD−10(DIGITALIAN)です。半導体メモリーを使ったデジタル信号処理器を持つ補聴器で、アナログ補聴器では不可能であった特性を可能としました。専用ICを開発し、これに必要な電力として単四形アルカリ電池4本を用い、100時間の電池寿命を持つポケット形の補聴器です。
 もう一つは、プログラマブル補聴器というもので、音声信号系には従来のアナログ回路を使い、このアナログ回路の特性を設定するのに従来は半固定抵抗(トリマー)を用いていたところをデジタルメモリーの制御系に置換え、従来のネジ回しに代り専用のプログラム装置やパソコンにより補聴器の特性を設定するものです。特性の微調整が可能でその再現性が優れています。またパソコンのソフトウエアによりフィッティング面での優位性はアナログ補聴器に比べ格段の向上があります。またデジタル補聴器より信号処理に関しては劣りますが、消費電流については優位性があります。現在外国各社より種々のタイプが発売されており、今後ますます発展していく補聴器です。

2.開発の背景
 オーダーメイド補聴器は耳の中にすっきりと納まり、自然な聞こえが得られる補聴器で、使用者の耳型と聴力データより使用者専用に作られた補聴器で、今もっとも注目されております。
 オーダーメイド補聴器は使用者の聴力に合わせ特性を調整して出荷しておりますが、販売店の店頭における微調整が皆無とはいえず、市場の要求によりトリマーを付けております。耳介全体に入るマイエイドタイプといえども補聴器表面(フェースプレート)上にトリマーを2個付けるのがスペース上の限界で、調整範囲にも限度があります。店頭でトリマーにより対応のできないものについては、工場へ送り返して特性の変更をしなければなりません。
 デジタル補聴器HD−10でデジタル信号処理ICを開発しましたが、これを耳がけ形や耳あな形補聴器に搭載できる大きさと消費電力に対応させることは最新の半導体技術を使っても難しいのが現状です。
 そこでプログラマブル補聴器とし、フェースプレート上に小さな通信用コネクターを1つ付けるだけで多数の調整器を搭載したことになり、スペースの問題が解決し性能面で大きな進歩が得られました。
 販売店の店頭における幅広い対応が可能となりますので、オーダーメイド補聴器として大変重要な顧客満足度を一段と向上させることができます。
 プログラマブル補聴器は幅広くきめ細かなフィッティングができることから、GRADATION(グラデーション:滑らかに変化していく連続した色の濃淡)の頭文字のGをとりGシリーズと名付けました。

3.HI−21の構成
 図1にGシリーズマイエイドHI−21のブロックダイヤグラムを示します。

図1 ブロックダイヤグラム
3-1.HI−21
 補聴器のアンプは、信号系は6ヶの調整器をもつアナログ回路で1チップのバイポーラIC、制御系はメモリー(RAM・E2PROM)とメモリー・コントローラーで構成される1チップのCMOSのIC、この2ヶのICチップとアナログ回路用のコンデンサをセラミック基板上に搭載し小型のハイブリッドICになっています。
 各調整器に対応するメモリーは4ビットで各々16段階の幅広い微調整ができ16,777,216通りの特性設定が可能です。E2PROMに書き込まれたデータは電源を切っても保持され、一度設定した特性はこれを書き替えない限り補聴器のスイッチを切っても変化しません。これは1000回まで書き替え可能で、通常の使用に対し十分です。補聴器のスイッチを入れると、E2PROMのデーターが一時的にRAMに書き込まれ、補聴器はこれに対応した特性となります。補聴器の特性比較試聴時はRAMのデーターのみを書き替えるので、その制限はありません。

3-2.HU−01
 補聴器インタフェースHU−01はGシリーズ補聴器およびデジタリアンをフィッティングする際に、パソコン(PC−9801シリーズ)の漏洩電流が補聴器に影響するのを防止するために信号経路を電気的に絶縁してパソコンの信号を中継します。Gシリーズ補聴器またはデジタリアンを、各2台(両耳用)同時に接続できます。
 補聴器側は付属の専用ケーブルで、パソコン側は付属のRS-232Cケーブルで接続します。

3-3.FIT−EASE
 ソフトウエア「FIT−EASE」は顧客登録、顧客検索、名前入力、オージオグラム入力、補聴器の特性表示、補聴器の自動調整、クレームに基づく特性の修正、マニュアル調整、画面の印刷、環境設定ができます。操作はキーボードとマウスの両方で可能です。
 補聴器の自動調整は3DM法にて行います。AGCに関しては、聴力のダイナミックレンジより二−ポイントを設定し、リカバリータイムはコンプレッション動作に良いといわれる100m秒にしてあります。
 クレームに基づく特性の修正は、今までのオーダーメイド補聴器の調整データーの調査結果より、主要な項目について現在最良と思われる対策法を行います。「フィッティング」画面上では、最大5種類の特性を瞬時に比較試聴が可能です。
 システムディスクは3.5インチ及び5インチディスク各1枚にて供給します。データディスク1枚に400名分の顧客データが入ります。

4.HI−21の性能
 HI−21はインプットタイプのACC補聴器です。トーンH/L、サブホリューム、AGC二−ポイントとリカバリータイム、MOPの調整が可能です。イヤホンはDクラスイヤホンを用い、低消費電流・低歪率・高出力を実現しています。軽度・中等度・高度の電音及び感音難聴に幅広く適応します。
 小さなオーダーメイド補聴器とするため、ハイブリッドICをフレキシブルプリント板に実装してシンプルな構造と小型化を確立しました。  表1に基本性能を、図2に規準周波数レスポンスを示します。

表1 HI-21性能表
図2 規準周波数レスポンス

5.おわりに
 オーダーメイド補聴器は、補聴器の先進国である欧米諸国で既に主流となっています。将来は日本に於いてもこの流れは避けられないでしょう。また、プログラマブル補聴器はアナログ補聴器に比べ、顧客に対するサービス性が一段と向上し、フォローアップ等が容易になります。今後この2つが融合したプログラマブル・オーダーメイド補聴器は益々発展していくでしょう。

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