2019/10
No.146
1. 巻頭言 2. inter-noise 2019 3. Wind Turbine Noise 2019 4. 振動分析プログラム SX-A1VA
   

     <技術報告>
 振動分析プログラム SX-A1VA


リオン株式会社 技術開発センター  吉 野 邦 幸

1.はじめに
 今日、機械の設備診断の現場では、診断業務の外部委託化、熟練者の退職などが進み、設備維持管理業務や技術継承が課題となっている。また、設備診断を行う事業者からは、入門者にわかりやすく、使いやすく、簡便に診断ができる測定器を求める要望が高まっている。
 そのような要望から、多機能計測システムSA-A1(図1)のオプションプログラムとして、機械設備の設備診断に特化した振動分析プログラムSX-A1VAを開発した。
図1 SA-A1 外観

2. 多機能計測システム SA-A1
 SA-A1 は、タブレット型の表示部と着脱可能なアンプ部から構成される。接続形態を変えることで、「一体型の測定器」としても、「無線や有線を介した、分離型の計測器」としても使用できる(図2)。安全上の理由で、測定対象物から離れる必要がある測定では、アンプ 部を遠隔の測定対象物側に設置し、無線やLAN ケーブルで本体部と接続することにより、安全な離れた地点から遠隔で測定することができる。
 また、SA-A1は、アプリケーションソフトウェアを切り替えることによって、振動計、周波数分析器、データロガーなど複数の用途に用いることができる。このため、現場に異なる用途の計測器を複数台持参する必要がなくなる。
図2 システム構成イメージ

3. SX-A1VA の機能紹介
3.1. 振動計測の基本機能

(1) 最大4チャンネル+回転速度同時計測
 本製品は4チャンネルの入力をもち、高性能なアナログアンプと24 bitのA/D変換器を備えている。回転パルス入力端子も備えており、振動計測とともに回転計を接続すると、回転速度も同時に測定が可能である。4チャンネルあることで複数の測定点や複数軸の振動値と機械の回転速度を同時に比較できるため、測定時間の短縮に加え、これらの関係性の確認、故障部位や原因の特定がしやすくなる。

(2) 振動計と周波数分析器の切り替え
 本製品は、振動計と周波数分析器の機能を統合している。
 それぞれの機能は容易に切り替えが可能なため、振動計で測定した際に大きな振動が発生していた場合に、周波数分析器に切り替えて詳細な原因の調査を行うことができ、設備診断における簡易診断、精密診断をこの1台で実施できる。

(3) 加速度、速度、変位のリアルタイム同時測定・分析
 本製品は、リアルタイムに加速度、速度、変位の同時測定・分析する機能を有している。
 振動の傾向を確認しながら測定することが可能であるため、測定中に過渡的な振動が発生した場合でも、その場で変動の様子を確認できる。

(4) 判定機能
 本製品は、測定した振動の大きさに対して2種類の判定機能を有している。  

 閾値判定機能は、後述するオートストア機能と併用することで、これまで把握が困難であった現象を捉えることが容易となる。

3.2. 特長的な機能
(1) オートストア機能
 加速度、加速度ピーク値、波高率、速度、変位の振動量を、回転速度情報とともに、0.1 秒間隔で連続的に保存する機能である(図3)。設備診断では、振動がほぼ安定した状態で測定することが多いが、機械の回転速度や動作状態が変化したときの振動の時間変化を確認するには、本機能が有用である。
 図4は、回転速度を徐々に速くした際の振動(速度)の時間的な変動の測定例である。回転速度が700 r/min、1110 r/min付近で振動(速度)が大きくなっていることが分かる。オートストア機能によって、回転速度が変化した際の現象を容易に確認することができる。
図3 オートストア機能
図4 振動(速度)の時間変化と回転速度の例

(2) 閾値判定機能
 加速度、速度、変位のいずれかの振動量に対して2つの閾値を設定して、測定中にこの閾値を超えたか否かを判定する機能である。
 本機能はオートストア機能と併用して使用できるため、変動する振動がどのような変化を辿って閾値を超えたのかを容易に確認できる。図5の例では、1つ目の閾値を超えると青、2つ目の閾値を超えると紫で表現した例である。
 本機能が有効な例として、故障や部品の不良などによ り“いつ発生するかは分からないが、まれに振動が大きくなる”ような場合の測定が挙げられる。
 SA-A1 の複数チャンネルを活かし、測定対象の複数の部位でオートストア測定と併せて閾値判定を行うことで、どの部位の振動がどのようなタイミングで変化したのかを確認できる。また、各部位の測定結果を比較することにより、部位間の振動の関連性も確認できる。トリガ機能(振動の大きさが指定した値を超えた際に測定を開始する機能)を併用すれば、一時的な振動の変化を効率的に捉えることができる。
図5 閾値判定表示

(3) 異なる振動量の同時分析(論理チャンネル機能)
 計測データの比較をしやすくし、データ保存の手間を軽減するための機能を追加した。本機能を論理チャンネル機能と呼ぶ。
 本機能を用いることで、あるチャンネルに入力された加速度センサの信号を、同じ信号でありながら、リアルタイムに異なる振動量を表示、測定データの保存を行うことができる。加速度、速度、変位を切り替えて測定する手間が省けるとともに、故障による時間波形や周波数分析結果の特徴を確認しやすくなる。
 外輪傷およびアンバランスが発生した機械(図6)を分析した例を示す。論理チャンネル機能を用いて、加速度エンベロープ、加速度、速度を同時に周波数分析した(図7)。
図6 論理チャンネルを使用した測定例
図7 論理チャンネル設定

A. 時間波形(図8)

B. パワースペクトル(図9)

 本機能を用いることで、リアルタイムに加速度、速度、変位の同時分析を行うこと可能となる。アンバランスと転がり軸受の外輪傷が複合的に発生している場合でも、複数の振動量の分析結果を比較し、故障の原因特定が容易となる。また、修理後に振動が改善されたことを確認することも容易となる。

図8 時間波形
図9 パワースペクトル

4. おわりに
  振動分析プログラムSX-A1VAについて紹介した。本製品は、設備診断の裾野を広げるため「振動測定の初心者にも使いやすい計測器」を目標に、製品開発を行った。なお、本製品は、2018年度公益社団法人日本プラントメンテナンス協会のTPM 優秀商品賞(開発賞)を受 賞した。
 本製品が、様々な設備診断業務において活用いただけることを願っている。今後も、お客様の声を大切にし、より良い製品開発に努力していきたい。

−先頭へ戻る−