2019/10
No.146
1. 巻頭言 2. inter-noise 2019 3. Wind Turbine Noise 2019 4. 振動分析プログラム SX-A1VA
   

       <会議報告>
  inter-noise 2019


山 本 貢 平、 牧 野 康 一、 杉 江  聡

 inter-noise 2019(第48 回国際騒音制御工学会議)は6月16日(日)〜19日(水)の間、スペインのマドリードで開催された。会場はバラハス国際空港から車で約10分の国際会議場(IFEMA Palacio Municipal)であった(図1)。小林理研からは山本の他に杉江、牧野の合計3名が出席した。

図1 会場のIFEMA Palacio Municipal

 山本は、開催日前々日の6月14日(金)に現地入りし、翌6月15日(土)の13時から開かれたI-INCE 理事会に出席した。今年はアジア・パシフィック地域のDirector-at-Largeとして5回目の出席であり、今回が任期の最後である。理事会ではI-INCE の事業報告と決算報告が行われ、I-INCE総会に諮る議案の検討が行われた。少しトピックを拾うと、2021 年のワシントンDC会議の実行委員長は交代になったらしい(名前は失念)。また、2022年 はイギリスのグラスゴーが、非公式ではあるが、開催準備に入ったということである。さらに2023年の会議に東京/幕張が立候補したと報告された。2020 年には正式なプレゼンが行われ、CSC(Congress Selection Committee)での決定がなされることになる。なお、競争相手はいないとのこと。さらに、2024年については、順序から言えばアメリカ地区で会議が行われる予定であったが、この時期にアメリカに音響関連会議が集中していることを勘案して、再びヨーロッパを地域として選定することとなった。その際、有力な候補はグラスゴーと争ったポーランドのクラクフとなるであろう。2回目の理事会は、最終日の6月19日(水)の17:30 から2時間ほど開かれた(なお、山本は6月18日(火)の午後に開かれたICA/ IYS 2020 [International Year of Sound] の企画委員会にも出席した)。
 翌6月15日(日)は、13時30分からI-INCE 総会に出席した。日本音響学会を代表して坂本慎一氏(東大生研)、INCE/Japanを代表して石田康二氏(小野測器)が出席した。この日、私の後任にあたるAsia Pacific 地域の Director-at-Large の選挙があり、3人の候補の中からオーストラリアのJohn Davy 氏が選出された。なお、 CSC 委員会に山田一郎氏が引続き残ることとなった。
 次に、Opening Ceremony では、実行委員長 Antonio Perez-Lopez氏より歓迎の挨拶があった。彼はスペイン音響学会の会長でもありICAの財務理事でもある。1937年生まれ、今年82歳という高齢でもあるが、その温厚篤実な人柄に魅せられて多くの人に尊敬されている(図2)。続いて、Congress Technical Chair のJose Savador Santiago氏より歓迎の挨拶、さらにI-INCE技術委員長の Patricia Davies 女史よりYoung Professionals Congress Attendee Awards 2019受賞者の発表(20名)があり、その中に東大生研の米村美紀さんがいた。この後、I-INCE 会長Marion Burgess女史がinter-noise 2019の開会宣言を行った。会議のトップバッターはInes Lopez Arteaga 氏であり、「Rolling noise in road and rail transportation systems」と題するPlenary Lecture を行った。最後に、Musical Performanceとして「the Polytechnic University of Madrid」によるコーラスが披露され、聴衆を魅了した。 ロビーではカクテルが振舞われて旧友との再会を喜び合った。

図2 開会式の模様

 翌、6月17日(月)から3日間、18 の会場に分かれて分野ごとの研究発表が行われた。今回の会議テーマは「Noise Control for a better Environment」である。交通騒音関係(航空機、鉄道、道路)のほか、建築音響、機械騒音、環境騒音、風車騒音、騒音地図関係などのほか、サウンドスケープのセッションが盛況であった。一方、機器展示は会場4階フロアの広いスペースで始まった。展示には61 社(内55 社が企業)が参加し、同じ場所でコーヒーも提供されたので、終始大賑わいであった。
 6月18 日(火)の夕刻には、スペイン音響学会創立50周年記念式典が開かれ、功績者が次々に挨拶を行い、表彰を受けた後、古典芸能としてのフラメンコが披露された(図3)。美しい踊りを堪能した後、会議場のロビーではタパスが振舞われ、カクテルを楽しんだ。

図3 スペイン音響学会創立50 周年記念式典でのフラメンコ

 最終日、19 日(水)の15 時から閉会式が行われた。参加者の統計は披露されなかったが、理事会の発表では参加登録者数1,170名とされている。国別ではスペインがトップで12 % の約140 名、2位は中国で11 % の 約130 名、3位は日本で8 % の約95 名であった。さらにドイツ、韓国がこれに続く。一方、論文数は894 件 (Oral が815、Posterが79)と報告されている。Closing Reception ではワインを片手に、来年Seoul での再会を約束して別れた。(理事長 山本貢平)

 3年ぶりのインターノイズ参加だったが、私は前月にも欧州出張があり、すっかり慣れたヘルシンキ空港経由でのマドリード行きであった。今回はインターノイズでの研究発表に加え、同じマドリードで開催されるWorkshop on Acoustic Environmental Management of Military Shooting Ranges への参加も目的の一つであった。
 インターノイズでは、航空機騒音のセッションで、高高度(5〜10 km)を飛行する航空機から伝搬した騒音の分析結果を報告した。講演は何とか時間内に収めることができたが、質問が1件も出ず、(苦手な)英語でのやり取りができなかったのが残念だった。
 航空機騒音の関係では主に3つのセッションがあり、Aircraft Noise: General で14 件、Airport Community Noise で14 件、Aircraft Noise Military で4件の発表があった。地域別の件数は欧州12件、北米2件、韓国5件、日本13件であった。以前から感じていたが、欧州での開催時には北米の発表件数が少なくなる傾向である。今回は一般的な航空機の話題以外に、小型ドローンのようなマルチロータ機の騒音に関する発表も見られた。
 またノイズマップ関連のセッションでは、Noise Mapping: Advanced Methods, Life Projects and Mitigation Actions で27 件、Environmental EU Noise Directive で11 件の発表があった。欧州ではノイズマップを作成し、それを利用した対策を推進している。今回は地元スペインを中心に、事例の報告が多かったように感じた。
 インターノイズの翌日に、Workshop on Acoustic Environmental Management of Military Shooting Ranges が開催された。米国のERDC(US Army Engineer Research and Development Center)とオランダのTNO(The Netherlands Organisation for applied scientific research)が主催し、演習場における射撃音や砲撃音に関する研究者や実務者が集まり、各国の騒音評価方法、測定手法、予測手法、対策手法などの情報交換を行った。参加国は米国、オランダ、ドイツ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スイス、日本、総勢19人であった。演習場騒音に特化して 関係者が集まったのは初めてで、有意義な交流ができた。
 スペインでは昼食は13 時過ぎ、夕食もレストランの開店が21 時過ぎで、時差ボケならぬ食事時間ボケに陥った。ただ、ローカルレストランでは、魚介類(タコやアンコウも美味)やモツ煮込み的な料理もあり、空腹も手伝ってか、非常においしく感じた。
 実は講演の最後にスペイン語で挨拶したのだが、そこが一番反応がよく、ちょっと複雑な思いをした。同じ言葉で本稿を終えようと思う。上司から「関西弁と同じ」と教えてもらった挨拶......「むっちゃ グラシアス!」 (騒音振動研究室 牧野康一)

図4 Puerta del Sol(太陽の門)のカルロス3世像
図5 Catedral de Santa Maria la Real de la Almudena
(アルムデナ大聖堂)

 この数年国際学会に行く際には、夏開催ということもあり大雨等の天候不順がつきものだった。今回も梅雨の時期であったために大雨による交通混乱を少し心配していたが、幸いにも無事に出発することができ、30℃と少し暑いが、乾燥して清々しいマドリッドに到着した。 会期は6月16 日(日)〜 19 日(水)の4日間で、研究発表は17日からの3日間であった。その始まり方は、少し波乱含みであった。スペインの持つ気取らない雰囲気のせいというべきか、パワーポイントのファイルがまだ発表会場に届いていなかったり、スライドが上手く映らなかったりと、少し落ち着かない雰囲気で始まった。
 私は、建築音響と音響材料関連のセッションを主に聴講した。そこで気づくのは、床衝撃音・固体音のセッションでの発表件数が非常に多いことである。17 日PM〜18 日PM までのおおよそ1日半という非常に長いセッションである。特に、重量床衝撃音についての発表が多い。もちろん、日本や韓国の東アジア諸国からの講演者が多いが、ヨーロッパからの発表もあり、日本発のゴムボール衝撃源がだんだんと広まっていっていることを実感できる。さらに、このセッションの後には、集合住宅の床衝撃音に関して日韓での小さなミーティングがあり、私も参加した。韓国では床衝撃音に対する基準が法律で定められており、施工後にそれを満足させるために、様々な悩みを抱えていることを知った。
 19日は主に吸音関連を聴講した。MPP(微細穿孔板)のセッションは立ち見が出るほどの盛況ぶりで、この分野が未だにホットであることの証である。また、吸音材のセッションでは、磁石を利用した膜振動型の吸音材の発表があった。磁石と膜中央に貼られている鉄板の間の距離を調整することにより、膜振動の共鳴周波数をコントロールするというものである。この分野のセッションでは、20 歳台、30 歳台くらいの若い研究者が多い気がする。吸音材料の研究は理論的な検討結果が、実測結果にそのまま現れることが多く、若い人のモチベーションを維持しやすいのかなと思う。
 旅(いや、国内外の研究発表会)の本質は、人とのコミュニケーションだと思う。例えば、私の発表(壁の遮音性能について)の際にコメントしてくださった方に声を掛けてみると、音響的な事柄だけではなく、ヨーロッパでの壁の耐火性能試験の話を聞くことができ、自分の研究の参考になったりもする。このように、休憩時間やレセプション等での会話は、講演の際の質疑よりも気さくに話してもらえるし、こちらも緊張せずに話せるので、非常に有意義だし、楽しい。
 最近、老眼の気が出てきて、度の弱いメガネが掛けているため、足元ばかりを見ている気がする。しかし、響きが少ない空間に入ると、上を向いてしまう。そこには吸音材があるからである。アドルフォ・スアレス・マドリード=バラハス空港や経由地であるヘルシンキ・ヴァンター国際空港でもそうであった。ヘルシンキ空港では穴あき板構造の天井で(図6)、バラハス空港ではスリット構造の天井であった。それは見た目にも面白く、木製(のように見える)の細い板を一定間隔で並べた波の様なデザインであった(図7)。上を向くといいものに出会えそうなので、これからは上を向いて歩こうと思いながら、帰途についた。  (建築音響研究室室長 杉江 聡)


図6 穴あき板構造の天井
(ヘルシンキ・ヴァンター国際空港)
図7 スリット構造の天井
(アドルフォ・スアレス・マドリード=バラハス空港)

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