2018/10
No.142
1. 巻頭言 2. リオンホールにおける響きの調整 3. ICSV 25 4. 注射剤管理用液中パーティクルカウンタKL-05
   

       <会議報告>
  I C S V 2 5


建築音響研究室 室長  杉 江  聡

 ICSV 25(25th International Congress on Sound and Vibration)が7月8日(日)〜12 日(木)の間、広島にて開催された。会議は、宇品島にある広島グランドプリンスホテル(図1)で行われ、会場の窓からは広島湾が一望できる非常に良い環境の中での会議であった。また、中心地からの距離もあまり遠くなく、JR 広島駅からシャトルバスで約30 分の所であった。

図1 会場の広島グランドプリンスホテル入口

 まず、ICSV について簡単に説明したい。IIAV (International Institute of Acoustics and Vibration)が主催する会議であり、第1回はAuburn university (USA) で1990 年に開催され、投稿論文数は115 件だったそうだが、当時はICSV とは呼ばれていなかったようだ。 1996 年にSt Petersburg(Russia)で開催された第4回において、ICSV と呼ばれるようになり、論文数も第1回のおおよそ3倍の316 件に増加した。そして今回、広島にて開催されたのが第25 回となる。

 今年の日本ほど、いや地球全体というべきか、自然災害が多い年はないのではないだろうか。この原稿を執筆している時点で、北海道で震度7の大地震。その数日前には台風21 号によって関西地方が甚大な被害に見舞われた。そして、本会議の直前にも西日本豪雨(平成30 年7月豪雨)があった。この場を借りて、被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げ、早い復興を祈りたい。さて、本会議のスタートも、豪雨によって広島周辺の道路や鉄道が不通になるという混乱に見舞われた。広島空港で一夜を過ごした方もいたそうである。そんな中、私は開催初日の7月8日(日)に、幸いにもいち早く開通した新幹線で広島入りすることができた。広島市内は目に見えて大きな被害はなかったが、物流が滞っており、コンビニのお弁当やパン等の毎日配送が必要な商品の棚にはあまり品物がなかった。また在来鉄道も運休など混乱は続いていた(図2)。

図2 運行状況を知らせる広島駅の掲示

 研究発表会は、7月9日(月)〜12 日(木)の4日間行われた。私が聴講した音響材料系と室内音響系の発表会場が、それぞれ2階と22階に分かれていたため、次の発表までの2分間で移動するには走る必要があった。口頭発表とポスターを合わせた投稿論文の総数は712 件で、その内セッションテーマは14あり、発表数(口頭発表とポスターの合計)が多いテーマは、T01 - Acoustical Measurement and Instrumentation(71 件)、T02- Active Noise and Vibration Control(87 件)、T05 - Physical Acoustics, Ultrasound and Wave Propagation(109 件)及 びT07 - Machinery Noise and Vibration(82 件)であった。

 一方、私が聴講した T08 - Materials for Noise and Vibration Control やT11 - Room and Building Acoustics は それぞれ52 件、34 件とやや少なかった。T08 での半分以上がAcoustic MetamaterialsとPhononic Crystalsについてのものだった。Acoustic Metamaterialsとは、自然界に存在する物質が通常示さないような音響的性質を示すように設計された人工媒質で、代表的なものとして、負の体積弾性率や負の質量密度を示す媒質を指すようである。その中に、ヘルムホルツレゾネータを多数並べた遮音構造体についての発表もあった。

 Phononic Crystalsとは、たくさんの柱を密に配置した、物理的なバンドギャップフィルタのようなもので、柱の大きさや距離を調整することにより特定の音波を反射させるという性質をもつ。柱の形状を三角形にして、その配置方向や大きさを調整し、プリズムのように特定の方向に音を伝搬させるといった検討を行っている発表もあった。このように、国内の学会ではあまり議論されないテーマもあり、私にとって興味深かった。

 公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律が2010 に施行されて以後、国内においても木材を用いた建物についての検討が盛んにされているが、T11においてもNLT(NAIL - LAMINATED TIMBER)の遮音性能に関する発表もあった。また、トルコの大学宿泊施設や集合住宅の音響性能の測定結果の発表があり、レンガ造りの外周壁等の遮音性能を知ることができた。

 7月11日(水)の夜には、会場のホテルにてバンケットが開かれ、神楽を楽しみながらの美味しい食事で一夜を過ごした。そして、翌12 日(木)の午後にClosing Ceremony が開催された。参加者は、50 カ国から集まり、最も多かったのが中国からの約380 名、続いて開催国日本で約130名、英国、韓国が約30名と続いていた(図3)。次回ICSV 26は2019年7月7日〜11日カナダのモントリオールにて開催されるそうである。

図3 Closing Ceremony の模様

 毎晩食べたお好み焼きを含めて、非常に有意義な会議を過ごせた。このように過ごせたのも、災害直後の厳しい状況の中、生田 顯先生(県立広島大学)をはじめ運営スタッフの皆さんのおかげだと思う。最後に、感謝の気持ちでこの報告を締めくくりたいと思う。本当にありがとうございました。

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