2018/7
No.141
1. 巻頭言 2. ゾウと低周波音 3. 環境騒音観測システム NA-39シリーズ
   

 
  教えと学び  


   騒音振動研究室 室長  廣 江 正 明

 大学の研究室に配属されてから、毎週のように研究室でゼミが開かれた。目的はそれぞれの学生の研究の進捗状況を先生が把握することであり、毎週、ゼミ資料なるものを作成するのに大変な苦労をしていた。だが、研究とい う仕事を始めるようになって、定期的に仕事や研究のまとめを書くことがとても役立つことを知った。昨今、今まで以上に仕事を効率よく進めることが求められる中、時間を有効に使うための考え方ややり方は様々だが、皆で共 有されるよう互いに教え合うことは大切なことかもしれない。

 当所の公益目的事業の中に研修事業があり、その中で毎年春と秋の2回入門講座を開催している。ここでは自らが先生(講師)となって、騒音・低周波音・遮音・吸音や圧電材料の基礎知識と計測や実験の手順などを教える。 諸先輩らから引き継いだテキストを発展させ、それぞれが自分なりのわかりやすい研修を行うよう努力を続けている。テキストの内容は各分野における基礎知識だが、ひとたび、誰かに物事を教える側になったとき、長く立ち止 まり、その内容について色々と考えたことを思い出す。自分自身がその内容をきちんと理解できているか、そして、その内容を如何にして第三者に伝えるかを真剣に考えた瞬間であり、これまで勉強してきた知識(「教え」られたこ と)が別の何かに変わった瞬間だったと思う。

 小林理研に入所して以降、多くの先輩から仕事や研究に対する意識、考え方や取り組み方を「教え」て頂いたし、自分自身で考えて対処する場、「学び」の時間を多くもらったと思う(全くの個人的感想だが)。一から「教え」てもらった縮尺模型実験の手法を使って幾つもの仕事をこなしてきたし、非常に高い周波数領域の音に関する研究課題をもらってからは一つずつ「学び」ながら仕事(研究)を進めてきた。「教え」に従って熟した仕事と「学び」ながら進めた仕事のどちらが自分自身とって有益だったか一概には比較できない。すべてのことを一人で「学び」解決していくことはできないし、従来からの「教え」だけで熟せる仕事も存在はしない。(従来からの)「教え」と「学び」(とった力)はどちらも不可欠なものであり、両方を備えることが小林理研の研究者に求められる品格や能力に繋がるのかもしれない。

 この4月から騒音振動研究室の室長を拝命した。先に述べたように、最近は生産性の向上や効率化が声高に叫ばれ、何事もより短い時間で熟すことが要求される時代になってきたが、時代が変わっても大切にすべき「教え」を次に伝えつつ、新たな「学び」を得ようとする方向へ進めていきたい。と、室長としての意気込みを考えていたところへ電話がきた。「今日こそ早よ帰り!昨日、遅かったでしょ!」その通りだ。健康が第一(反省しきりである)。

 

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