2015/7
No.129
1. 巻頭言 2. Wind Turbine Noise 2015 3. 旧い吸入器 4. さらに進化した高出力補聴器
   

      <骨董品シリーズ その95>
 旧い吸入器


理事長  山 下  充 康

 激しい咳に悩まされているとき、家人がおもむろに取り出したのがいかめしい形をした吸入器であった。小さめのガラスのコップに重曹と塩を溶かした水を入れ、アルコールランプで加熱加圧した窯から吹き出す蒸気でガラスコップの薬液を吸い上げて喉の奥に吹き付ける道具である。窯から吹き出す蒸気のシューッという激しい音とアルコールランプの炎に幼い日々にはひどく怯えたものであった。全様を図1に示した。装置右側に加熱加圧用の窯とその下にアルコールランプがある(図2)。熱すると左手に薬液と蒸気が噴き出すのでこれを喉の奥に当てる。薬液が下顎にも回るのでその部分が妙に痒くなったものである。

図1 旧い吸入器
本器は薬液コップなどがプラスティック製に変わっている
図2 加熱部
下部のアルコールランプで上部の窯を加熱する

 プラスティックの登場によってガラス製の部分がプラスティック製に変わったものの基本的な構造、機能は変わらない。蒸気が噴き出す部分が霧吹き状に造られていて薬液を吸い上げて喉の奥に吹き付ける(図3)。噴出する霧は無駄に拡がるので上手く喉に届かない。届かなかった薬液は受け皿に滴って下側の器に溜められるように工夫されている。これを上の薬液の器に戻して再利用する。

図3 噴霧ノズル部
下部より薬液を吸い上げ、右からの蒸気で噴霧する

 時々霧吹きのノズルの孔に薬液で詰まるので細い針のような道具で薬液の塊をこじり落としたことであった。喘息や肺結核の患者が居る家には吸入器が常備されていたものである。今日ではアルコールランプは電熱に変わり、薬液の吹き出し口は仰々しいものではなくなった。携帯にも便利なように形も様々に工夫された吸入器が市販されている。

 ブリキとガラスを組み合わせたような奇妙な道具が茶ブ台の上でシュウシュウ鳴りながら蒸気を吹きだしていた風景が懐かしい。音との関係は薄いが、昭和を思い起こさせる道具の一つとしてここに登場させた次第である。

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