2015/7
No.129
1. 巻頭言 2. Wind Turbine Noise 2015 3. 旧い吸入器 4. さらに進化した高出力補聴器
   

      <会議報告>
 Wind Turbine Noise 2015


横 山  栄、 小 林  知 尋

  風車騒音に関する国際会議であるWind Turbine Noise 2015 が4月20 日(月)〜 23 日(木)の間、スコットランド 最大の都市グラスゴーで開催された(写真1)。会議は街の中心部に位置するラディソンブルーホテルで開催され(写真2)、小林理研からは横山と小林が参加した。

写真1 グラスゴーの街並み
写真2 会場のRadisson Blue Hotel, Glasgow

 Wind Turbine Noise は2005 年にベルリンで第1回が開催され、その後、2年に一度のペースで回を重ね、今回で第6回目を迎えた。今回の会議には世界23ヶ国から199名が参加し、発表件数はポスター発表21件を含め93 件にのぼった。ここ数回の会議での発表件数は60件程度で推移していたが、今回はこれを大きく上回っており、世界的な関心の高さが伺えた。主要な参加国の比率は、イギリスが31 %、ドイツが16 %、デンマークが13 %、カナダとフランス、日本がそれぞれ12 % であった。開催地から遠方にもかかわらず日本の参加者数は4番目に多く、ポスター発表を含め8件の発表があった。我が国でも風車騒音に対する関心が高まり、研究が促進されてきた成果であると感じた。会議は、時間の都合で3日目にパラレルにセッションが組まれたのを除き、一つの会場で行われた(写真3)。各セッションの後にはそれぞれ30分程度の質疑応答時間が設けられ、活発な議論が行われた。
 会期中にはいくつかのイベントがあり、会議1日目の終わりにはスコットランドらしくウィスキーを中心とするウェルカムドリンクが振る舞われた。参加者達が久しぶりの再会に会話をはずませる中、国際会議 Wind Turbine Noiseの創始者であるGeoff Leventhall 氏の功績を称え、組織委員会のFrits van den Berg 氏(GGD Amsterdam)からお祝いの品が贈られた(写真4)。会議2日目の講演終了後にはウィスキーテイスティングが開催された。4種類のテイスティング用ウィスキーが参加者全員に用意され、会場が一気にウィスキーの香りに包まれた。テイスティングの方法を教授してくれた地元グラスゴー出身の講師が話す英語が非常に速く、ウィスキーの香りだけで既に酔い始めていた我々には説明内容がほとんど聞き取れなかったが、それでもスコットランドの雰囲気を大いに楽しんだ。後に知ったことだが、グラスゴーの人は非常に早口で、かつ文脈の中に冗長な表現が多く、とても聞き取りづらいのだそうだ。今回、我々はオランダのアムステルダム経由で会議開催地グラスゴーに向かったのだが、オランダ語圏から英語圏に入り言語的な不安から多少は解放されると期待したのも束の間、宿泊先のグラスゴーセントラルホテルでは、フロントの女性が非常に早口で簡単な内容の英語も聞き取れず、チェックインするのに非常に苦労したことは苦い思い出である。会議3日目の終了後には、グラスゴーの有名なレストランを貸し切ってバンケットが開催された(写真5)。ウェルカムドリンクに続き、民族衣装に身を包んだ男性によるバグパイプの演奏があり、スコットランドの伝統料理が振る舞われた。コース料理の最後と思ったデザートの後で、コーヒーと一緒にチーズの盛り合わせにクラッカーが添えられたが、この地方では食事の最後はチーズなのだそうだ。我々は翌日に備えて早々に会場を後にしたが、この後も深夜まで多くの参加者がウィスキーを片手に宴を楽しんだらしい。

写真3 会場の様子
写真4 Geoff Leventhall 氏(中央) と
Frits van den Berg 氏(左)


 会議の4日間は、もっとも発表件数の多かった開催国イギリス(スコットランド)の発表者をはじめ、講演時間20分の間に最大限に内容を詰め込もうとする発表者の英語を聞くことに必死であった。
 今回、特に印象的であったのは、2日目のPlenary で David Michaud 氏(Health Canada)によって報告された内容で、カナダで実施された大規模なアンケート調査および測定のデータを集計した結果、睡眠影響や身体的ストレスはいずれも風車騒音の暴露レベルとは関係なく、因果関係は見られない事、アノイアンスについては風車騒音が35 dBを超えた場合に暴露反応関係が見られたという報告であった。
 小林は今回初めてWind Turbine Noiseに参加し、2日目のTonal noise(純音性騒音)のセッションで発表を行った。我々を含めて3件の発表があったが、以前と比べるとTonal noise に関する話題は少なかったようである。我々の研究グループでは現在、Tonal noise および Amplitude Modulation に関する検討を進めており、本セッションにおける発表では、風車騒音の発生源側の測定方法であるIEC 61400-11に示されている純音成分の評価方法を暴露側の評価に適用した事例を紹介し、問題点を指摘した。また、風車騒音に含まれる純音成分の可聴性に関する聴感実験の結果についても報告した。セッションの後の質疑応答の際、小林の発表に対し、暗騒音の除外方法や、純音成分が風車に起因したものであることの確認方法などについて質問があり、そのセッションで座長を務められたINCE Europe 会長のJean Tourret 氏が初めての発表者を気遣って下さったが、語学力が十分でないうえにパネルディスカッション形式で行われた質疑応答で緊張しきってしまったためにうまく答えることができなかった。後になって、それまでIEC 規格の文章からは純音成分の測定は機械的に実施されるような印象を受けていたが、上述の質問を頂いたことを考慮すると、純音成分の評価方法には規格と実務者の間に壁があり、まだ改善の余地があると感じられた。次のオーストラリアの発表者Tom Evens 氏(Resonate Acoustics)の報告では、風車騒音に含まれる低周波音領域の純音成分は一般には聞き取れない、あるいは、間違って単なる低周波音・超低周波音として判断され得るという考えが示されており、我々の聴感実験の結果を解釈する上でも有用な知見であり、興味深く拝聴した。
 3日目には小林が共著者として関わったニューズ環境設計の福島氏による発表があった。内容は風車騒音の実務的な測定・評価方法に関するもので、特に風車騒音に必ず含まれるSwish(Amplitude Modulation:AM)音の評価方法に大きな反響があった。我々が提案している AM音の評価量はJapanese DAMと呼ばれ、他の発表者のプレゼンでも度々引用されていた。
 4日目には終日、Amplitude Modulationをテーマとした発表が組まれ、横山はこのセッションで風車騒音に含まれるAM音に関する聴感実験の結果を報告した。今回の会議では、実験室実験による聴感実験に関する発表は Salford 大学のSabine von Hunerbein 氏と我々だけであったが、直前に発表した同氏の試験音の設定や実験方法が我々の研究内容と非常に類似したもので、お互いに驚きを隠せなかった。今後もVon Hunerbein 氏らの研究グループの研究に注目したい。今回の研究成果に対し、ベルギー政府のArjan Goeme氏やイギリスのAM音に関する研究グループから問い合わせがあり、今後、ぜひ積極的に情報交換をできればと思う。
 今会期中、我々研究グループはJapanese Teamとして認識され、組織委員会のGeoff Leventhall 氏、Dick Bowdler 氏およびJean Tourret 氏らから次回の会議で の発表を期待された。次回のWind Turbine Noise は 2017年春に開催される予定で、開催国にはオランダが候補として挙がっている。それまでに我々もさらに新しい知見を蓄積し、公表できるように準備したい。

写真5 バンケットの様子

 

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