2015/4
No.128
1. 巻頭言 2. 第39 回ピエゾサロン 3. ビンザサラ 4. インピーダンスオージオメータRS-H1
   

      <技術報告>
 インピーダンスオージオメータRS-H1


リオン株式会社 医療機器事業部 開発部  中 島  龍 一

■ はじめに
 聴覚検査には様々な検査法があり、その中にインピーダンスオージオメトリーがある。インピーダンスオージオメトリーには、大きく分けてチンパノメトリーと耳小 骨筋反射検査(レフレックス検査)の2種類の検査法がある。チンパノメトリーは、鼓膜や耳小骨の可動性及び中耳腔の状態を調べる検査で、中耳伝音障害の鑑別診断に用いられる。耳小骨筋反射検査は、他覚的聴力検査としての難聴診断のほか、顔面神経麻痺などの検査法としても利用されている。
 今般、新生児を対象としたチンパノメトリーに新たな機能を追加したインピーダンスオージオメータRS-H1(図1)を開発したので紹介する。

図1 インピーダンスオージオメータRS-H1

■ インピーダンスオージオメータの原理
 インピーダンスオージオメータは、鼓膜や耳小骨からなる中耳の伝音機構が、外から入った音をどの程度内耳へ伝えているかを測定するための機械である。図2に示すように一定の大きさの音(プローブ音)を耳に入れた状態で外耳道圧を加圧・減圧させ、音がどの程度鼓膜からはね返ってくるか、言い換えればどの程度鼓膜を通し て内耳へ伝達されるかを測定している。

図2 インピーダンス測定の原理
「インピーダンスオージオメトリーの実際」より

■ インピーダンスオージオメータRS-H1 の構造
 インピーダンスオージオメータRS-H1は、ブロックダイアグラム(図3)に示すように、DSP、AD/DA コンバータ、増幅器からなる音響アドミタンス測定部、耳小骨筋反射検査用の音刺激部、外耳道圧力をコントロールする圧力制御部、表示・操作・プリント等を実行する制御部、及びマイクロホンとイヤホン2個(プローブ音用、同側刺激音用)を組み込んだイヤープローブから構成される。

図3 RS-H1 ブロックダイアグラム

 中耳の音響アドミタンス(音響エネルギーの流れやすさ)は、外耳道に挿入されたイヤープローブから放射し たプローブ音と、そのプローブ音が鼓膜によってはね返 された反射音との比によって求められる。DSPで生成されたプローブ音信号は、増幅器を通してプローブ内のイヤホンに供給される。イヤホンから出力された音は、 外耳道を通って鼓膜へ到達し、一部は鼓膜を通って中耳へ伝わり、一部は鼓膜によって反射する。この反射した音をイヤープローブ内のマイクロホンで電気信号に変換し、増幅器を通ってADコンバータでAD変換する。AD コンバータからDSP に送られてきた信号には、プローブ音と反射音の他に外来騒音などの不要な信号が含まれているため、必要な信号(プローブ音及び反射音)のみ抽出するフィルター信号処理を行う。その後、検波、整流、比較などの信号処理を行い、プローブ音のレベルを一定にコントロールするよう動作する。
 耳小骨筋反射検査用の音刺激部は、DSP、AD/DAコンバータ、掛算器で構成される。DSPで生成される刺激音は、250 Hz、500 Hz、1000 Hz、2000 Hz、4000 Hz、8000 Hz の6種類の純音と、High ノイズ、Low ノイズ、Wideノイズの3種類のノイズである。刺激音は、スイッチによりイヤープローブ内のイヤホン(同側刺激音用)、または気導受話器(反対側刺激用)に供給される。
 圧力制御部は電磁ポンプ(加圧用、減圧用)、AD コンバータ、DA コンバータ、圧力センサー、タンクで構成される。電磁ポンプからの空気圧は、シリコンチューブ で接続された圧力系配管を通り、イヤープローブを介して外耳道圧をコントロールする。外耳道圧は、大気圧に対し+200 daPa* 〜− 600 daPa の範囲で変更できる。
 また、メカニカルポンプを使用することにより、手動で外耳道圧をかけることも可能である。この場合は、大気圧に対し+ 600daPa 〜− 800daPa の範囲で変更が可能であり、電磁ポンプよりも高い外耳道圧をかけることができる(*daPa:デカパスカル、daPa=10Pa)。

■ 特徴
 インピーダンスオージオメータRS-H1は以下のような特徴を持つ。

新生児に適した1000 Hzチンパノメトリーの搭載
 新生児を対象とした聴覚スクリーニング検査では、自動ABRやOAEといった検査が行われる。ここで「所見あり(Refer)」と判断された児に対しては精密検査が行われるが、その中には、中耳貯留液の影響で軽度から中程 度の伝音難聴が生じている児が含まれていることがある。
 通常、中耳貯留液の有無は鼓膜を観察することで確認できる場合が多いが、新生児の外耳道は非常に小さく屈曲もあるため、鼓膜所見で判断することは困難であるといわれている。また、チンパノメトリーも中耳貯留液の有無を判断するのに有用であるが、新生児においては通常用いられる226 Hz のプローブ音では正確に測定出来ないことがある。例えば、中耳貯留液がある場合、幼児や成人では平坦なチンパノグラムになるが、新生児においてはピークのある(正常な)チンパノグラムが得られることがあり、中耳貯留液の存在が見過ごされる可能性がある。これは、新生児の外耳道壁が柔らかいことによ り、300 Hz周辺の低い周波数において共振が発生し、測定に影響を与えるためである。
 これを解消するために、この共振周波数から離れた1000 Hzの音をプローブ音として使用することが、世界で推奨され始めてきている。RS-H1でもこの機能を搭載 することで、新生児において信頼性の高いチンパノメトリーを実施することが出来るようになった。
 新生児での1000 Hzチンパノメトリーを実現するために、新たにイヤープローブET-05 も開発した(図4)。ET-05は従来のイヤープローブからイヤホン、マイクロ ホンの音響経路を一新することにより、1000 Hzプローブ音での音響アドミタンス測定を可能にした。また、従来よりも小型に、かつアタッチメントなしでヘッドバン ドに取り付けることができる構造にしたことにより、ハンドヘルドからヘッドバンドへの移行もスムーズになっている(図5)。

図4 イヤープローブET-05
図5 ヘッドバンド装着時

タッチパネルによる直観的な操作
 RS-H1 ではタッチパネルを採用した(図6)。これにより、縦軸(感度)や横軸(掃引停止圧等)のスケールを、画面にタッチすることで簡単に変更することが可能 となった。また、ID 入力や等価容積の2 mL校正といった使用頻度の高い操作については、画面の文字をタッチすることにより、それぞれの画面に切り替わるような直観的な操作を実現している。

図6 タッチパネル画面

■ おわりに
 日本国内において、1000 Hzチンパノメトリーの評価基準はまだ確立されていない。本製品が普及することにより多くのデータが収集され、新生児における1000 Hzチンパノメトリーの有用性が明らかになれば、早期に中耳の他覚的な診断を行うことが可能となる。
 今後、日本における新生児聴覚スクリーニング検査の新たな評価基準の確立に役立てれば幸いである。

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