2015/4
No.128
1. 巻頭言 2. 第39 回ピエゾサロン 3. ビンザサラ 4. インピーダンスオージオメータRS-H1
   

      <骨董品シリーズ その94>
 ビンザサラ


理事長  山 下  充 康

 北海道・札幌の市電(路面電車)では線路に降り積 もった雪を跳ね飛ばすのに、竹のヒゴを利用した「ササラ電車」が運行される。ササラによって雪を跳ね飛ばす 音が札幌の冬の音風景となっている。竹のヒゴを使うのは鉄製の線路をいたずらに傷めることが無いように工夫したものであろう。鉄製の中華鍋を掃除するのに金だわ しではなく竹のヒゴを束ねたササラを使うのも鍋底を傷つけないという同じ考え方からである。

 さて、東京の浅草で開催される浅草神社の「三社祭」にササラが登場する。これは切り餅ほどの大きさの長方形の板108枚を縄でつなげたもので、舞い手はその両端を左右の手に持って神楽を舞う。三社祭では「ビンザサラ舞」といわれ、祭りの呼び物の一つである。

図1 ビンザサラ
煩悩の数と同じ108 の木板からなる

 ビンザサラの音色は両手の間をシャーッと音をたてながら左右に鳴り渡るので、見物人たちには音源の位置が不確かで奇妙な気分にさせられる。元は木の板ではなく竹の板で造られたらしい。同じササラでも地方によっては「こきりこささら」と呼ばれ、大道芸人たちが使うこ ともあった。

 ビンザサラを上手に鳴らすには工夫と練習が必要であるが、これを簡単にしたものがインドネシアにあった。 頭と尻尾の部分がトカゲかカナヘビのような形をしてい て、腹がササラ状になっている。尻尾を持って振るとシャーッと簡単に奇妙な音が出る(図2)。

図2 インドネシアのトカゲを模したササラ楽器

 土佐の鳴子踊りに使われる鳴子の音も観ていて奇妙に感じられる。一枚の板の裏表に各三本の木切れが取り付けられていて、振るとパラパラと鳴る(図3)。これを 手にした何百人もの踊り手が道一杯に広がって過ぎ行く様子は鳴子の音の洪水と相まって中々の壮観である。

図3 土佐の鳴子
白木の鳴子(左)と着色した鳴子(右)

 その他、仏具としては竹の板を叩き合わせる楽器(図4左)があるが、これの発する音は単純な衝撃音である。図4右は台湾で手に入れた黒檀で造られた仏具であるが、これも単純な衝撃音でしか鳴らない。乾いた甲高い音が出る。これを両手に持って拍子木(本シリーズその69(2009/1))のように読経に合わせて打ち鳴らしたものであろう。これらに比べ、ササラでは複数の板が連続的に打ち鳴らされる継続音であるのが奇妙に感じられて面白い。

図4 叩き合わせる仏具2種
湾曲した竹製の板(左)と黒檀の拍子木(右)

 元々、ビンザサラは拍子木や木魚(本シリーズその70 (2009/4))のような仏教で使うリズム楽器であったろう。そこから田楽舞などで用いられるようになったものと思われる。京都にある宇治平等院の「雲中供養菩薩像」という52 体の木像の一体がこのササラを手にしている。琵琶や笙を奏で、舞い踊る菩薩に混ざって、ビンザサラに似た楽器を手にした菩薩(図5)が登場する。どうやら宗教と音具との間には不思議な関係があるようである。

図5 ビンザサラに似た楽器を持つ菩薩
unicef “Musical instruments of the world”より

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