2015/1
No.127
1. 巻頭言 2. inter-noise 2014 3. 顕 微 鏡 4. 4チャンネルデータレコーダ DA-21
   

      <会議報告>
 inter-noise 2014


山 本 貢 平,吉 村 純 一,杉 江 聡,
土 肥 哲 也,横 田 考 俊,横 山 栄

  inter-noise 2014(第43回国際騒音制御工学会議)は11 月16 日(日)〜 19 日(水)の間、オーストラリアの南端 に近いビクトリア州メルボルン市で開催された。会場は市内の中心 (Central Business District) からヤラ川を挟 んで南側に在るMelbourne Convention Center である。 小林理研からは山本の他に吉村、杉江、土肥、横田、横山の合計6名が出席した。
 私は、開催前日の15日(土)早朝から開かれたCSC会議 (Congress Selection Committee) に出席した。今回は 2017年の開催地を決定するためのプレゼンと討議が行わ れた。ソウル、香港、シンガポールの3候補の中から、さまざまな議論を経て香港を選定した。
 翌16 日(日)は、I-INCE 総会に出席した。総会では通常の事業報告と会計報告の他、任期切れに伴う新CSCメ ンバおよび理事の選挙も行われた。その結果、CSC メンバとして私は再選され、もう1期3年を務めることとなった。一方、理事の方ではアジア・パシフィック地域 の理事改選も行われ、INCE/J とASJ から推薦を受けていた私が新たに理事に選出された。
 総会に続いてinter-noise 2014の開会式が開かれた。まず、実行委員長Norm Broner 氏より歓迎の挨拶があり、続いてオーストラリア先住民の音楽と踊りが披露された。それは、長いチューブ(ディジュリドゥ)を小刻みに吹いて震えるような音楽を演奏し、それに合わせて、あたかも野生動物の動きを真似るかのようにもみえる異教的で不思議なスタイルで踊る一種のアートである。これは歓迎の気持ちを表現する儀式であるとの説明を受けた。
 この後、I-INCE 会長Joachim Scheuren 氏が挨拶を行い、I-INCE が40 歳の誕生日を迎えることなどを披露した。続いて特別講演に移り、韓国の若手研究者Choi Jung- Woo氏がSound Sketch: Shaping sound in space and time using loudspeaker arraysと題する発表を行った。聞きなれぬ内容であったが、これはVirtual Acoustics の一つで ある。終了後は広いエントランスホールで、オーストラ リアワインやビールが提供され、多くの友人たちと再会を喜び、一日の疲れを癒すことが出来た。
 翌17 日(月)から、いつもより多い15 の会場に分かれ、分野ごとのテクニカルセッションが開始された。今回の会議テーマは、「Improving the World through Noise Control」である。主な発表分野としては、風力発電騒音関係、自動車単体騒音と舗装関係、航空機騒音関係、鉄道騒音関係、建築音響関係、機械騒音関係、その他環境騒音関係、健康影響関係、騒音地図関係などであった。さ らに、水中音響や能動制御関係もあり、日本音響学会でいう超音波や電気音響の関係者の参加も見られた。
 一方、機器展示は会議2日目の17 日(月)から、隣接するMelbourne Exhibition Centerで開始された。ここにはかなり広いスペースがあり、53社が音響計測システムやソフトウェアの展示を行った。この会場では、ランチタイムにサンドイッチと飲み物が提供された。
 最終日、19 日(水)は、14 時よりBrown, Alan Lex 氏 によるSoundscape 関係の特別講演があり、引き続き閉会式に移った。実行委員会の発表によれば、今回の参加登 録者数は1186名(内80名は同伴者)であった。参加国は 37ヶ国とされ、国別では参加登録者の多い順にオースト ラリア (207)、日本 (158)、中国 (102)+香港 (19)、韓国 (65)、 ドイツ (54),アメリカ (46)、ニュージーランド (29)、英国 (29)、フランス (23)、デンマーク (18)であった。日本 は今回も開催国に次いで2位である。一方、論文数は791件 と発表された。
 続いて来年のinter-noise 2015の開催地サンフランシス コがプレゼンを行い、この後、参加者はワインを片手に再会を約束し合って別れた。
(所長  山本 貢平)

会場となったMelbourne Convention Center の内部

 自身の久しぶりの発表は、幸運にも初日午後であったため、不完全ながらも何とか無事に済ませることができ、会場を引き上げてfirst author と祝杯を挙げたいと ころであったが、当セッションのオーガナイザ Rasmussen氏から、終了後に臨時のTC 43/SC 2/WG 29 “ Acoustic classification of buildings”を開催したいので、出席する様に言われた。とはいえ、ヨーロッパ勢は主査のみ、日本からは佐藤(洋)氏、平光氏の3名、韓国、米国及びカナダ各1名の7人が、広い会場の片隅で 自国の状況を説明し合う程度であった。ヨーロッパ多国籍軍の中でも、意見をまとめ切れていない様で、3時間以上掛けた割に実りの少ない会議であった。2日目、3日目はひたすら、同種の発表を聴き、メモを取ったが、戻ってそれを基に発表を思い出しても内容が全く浮かばない。要するにその場の印象では解ったつもりでも、内容が聞き取れていないかと反省しきり。
 実は、今回のメルボルン行きには、もう一つ別な目的があった。我が国発祥の不整形残響室を採用しているのは、韓国・中国以外ではここオーストラリアだけである ことは、子安先生から伺っていたが、以前から文献等で 存じ上げていたJohn Davy 先生の研究室にそれがある ことは、ごく最近知った。研究室を訪ねてみたいと思っ たものの、本学会の実行委員で、オープニングセレモ ニーや発表会場でお見かけしても、かなり忙しそうにされていたので、お願いするのを躊躇していた。ところが、banquetの会場に入る前に時間がたっぷりあったため、ワインを飲み過ぎて箍が外れた。これまで何度かお会いして、名刺交換したことのある私を認識しているかどうかは定かでないが、いつものように輪ゴムで留めた名刺の束から、二枚(メルボルン工科大学とCSIRO 研究所)を抜き取って、明後日の午前中にここに訪ねてきなさい、と研究室訪問を快く受け入れてくださった。
 ホテルから徒歩で行ける街中に大学はあり、佐藤、平光の両氏と杉江の4人で、丁寧な道案内を送ってくださったメールを頼りに、20数棟ある建物の一つへ向かった。
 私の疑問を解くのに日本人大学院生の平川さんにお世話になったのは言うまでもないが、ディスカッションの中で、以前に佐藤氏を我が研究室でお手伝いして、移動マイクロホンで残響時間を計測することの不合理を学会で報告した際に、先生と議論があったことを聞いた。
 移動マイクロホン装置を用いて残響時間を測定することに寛容な先生は、不整形残響室で独自の拡散板・吸音体と全指向性音源を駆使することにより、時々刻々形を変えるenclosureの残響時間を統計的に立証したのかな と、写真を見ながらあらためて思い返している。           
(建築音響研究室長 吉村 純一)

メルボルン工科大学の不整形残響室

 私にとっては初めてのオーストラリアへの渡航であっ た。ということもあり、税関の審査では正直に申請した方が良いという所長や知人からの助言に従い、頭痛薬を税関で正直に申請した。何を聞かれるのかと緊張の面持ちで専用レーンに並ぶと、怖そうな係官が“put on the floor”と言ってみんなの荷物を床に置くように指示している。すると、可愛いワンちゃんが登場。クンクンと荷物を嗅いでOKサイン。少し拍子抜けして、inter-noise が始まった。
 10 以上のセッションが並行して行われるため、これまでも興味のある講演を聞き逃してしまうこともあった。しかし、今回からスマートホン等の公式アプリが公開されており、スケジュールが管理しやすくなった。そのため、建築音響関係だけではなく、吸音や遮音をキー ワードとした他の分野の講演も聴くことができた。そこで、私が聴講したものからいくつか紹介したいと思う。
 新しい機構をもつ吸音・遮音構造という発表はなかっ たと思うが、既存の技術を活かし、通気性と遮音性と いった相反する性能をどのように折り合いをつけるかという発表が多かったと思う。MPP は素材にあまり左右 されないのが特徴だが、透光性を有するMPP を天井材 として用いて、明かりを確保しつつ吸音性も有するものを検討しているものがあった*649, 851, 894。また、外気を取り入れるために、二重窓の外と内の障子を互い違いに開 けたような構造をもつ、通気性を有する窓(plenum windows やsupply air window と呼ばれる) について、 二重窓内に設置する吸音材を配置するなど遮音性能の向上について検討していたものもあった*427, 709
 一方で、間柱のピッチ等を変化させた2×4 の木造壁の遮音性能の実測結果*883や、特殊弾性接着剤を用いて貼り合わせた合板の遮音性能の実測結果*824 に関する発表もあり、私が現在取り組んでいる業務に直結しており、非常に参考になった。なお、*印の後の数字は Proceedingsでの論文番号です。ご興味ある方は検索してみてください。
 最後に、自分の発表当日の朝、緊張のあまり手元がおぼつかず、コンタクトレンズをなくしてしまい、発表直前までコンタクトのことをずっと気にしていた。しか し、そのショックのためか、いつもよりは緊張せずに発表を終えることができ、その後「おもしろかったよ」と声をかけてくださる方もいた。なくしたコンタクトも後に無事見つかったものの、少し強烈すぎるショック療法であった。             
(建築音響研究室 杉江 聡)

ヤラ川北岸から会場を臨む

鉄道騒音・振動
 鉄道騒音・振動は、4つのセッションで合計15 件の発表があった。在来線の騒音については、カナダのCroft 等がオーストラリアを走る機関車(locomotive)を対象にした音響インテンシティ計測結果からコンターマップで音源を同定し、排気マフラーの改良により25〜50 Hz の音が8 dB 低減したことを紹介していた。また、オーストラリアの在来線を対象にしたスキール音に関する発表があった。在来線の振動については、日本の横山等が在来線のレールの異常検知を目的としてレールの状態 (平坦の度合い)と地盤振動の関係を計算と実測で検討していた。また、アメリカでは地下鉄における地盤振動の数値計算や実測の発表があった。鉄道騒音・振動の発表で共通して感じたことは、レール表面の平滑化の有用性が日本以外にも広く知られており、多くの調査結果が報告されていたことである。
 高速鉄道に関しては、韓国や中国からの発表が多く見られた。韓国からは、スラブ区間におけるレール固定方法の改良による発生音の低減効果や、走行音の測定・評価についての報告があった。また、中国からは、高架区間の地盤振動の予測や、車体表面の振動分布などについての発表があった。スウェーデンのXuetao 氏は、同国で計画されている320 km/hで走行する高速鉄道に関する騒音予測方法について紹介していた。

低周波音
 私は超低周波領域の建物の遮音性能について、当所の超低周波音源と模擬家屋を用いたフィールド実験結果をポスターで紹介した。当初はドイツで開催される Lowfrequency2014に参加する予定であったが、発表件数が集まらず会議が中止されたため、インターノイズでの発表に切り替えた。私がポスターを展示した2日間で計6人程度の質問を受けたが、その大半は風車騒音に関心を持つ欧州の人であった。風車騒音には小さいながらも低周波成分を含むため、建物内に伝わる風車騒音を測定・評価するためには建物の遮音性能の情報が重要になる。私の研究は、建物に存在する窓、ドア、換気扇などの隙間が原因で8 Hz 以下の遮音性能が低くなることを 実験と理論で説明しており、低域の騒音の測定結果を考察するために役立つことがわかった。また、建物内の音圧レベル計測点についての議論をすることができた。
 低周波音のセッションは、合計6つで構成される風車騒音セッションの一部に位置付けられており、風車が関係しない「低周波音」だけのセッションは実質的になかった。風車騒音の発表は合計25件以上で大盛況であったのに対して、「低周波音」の発表は私を含めて数える程度であった。日本の金内等は、部屋内に伝搬した低周波音をANC の手法で低減する試みを行っていた。2次音源の効果的な配置を数値計算で検討し、実際の部屋内に励起される定在波が低減した実験結果を紹介していた。 低周波音を計測するためのウィンドスクリーンの開発については、台湾、カナダ、日本など複数の発表があり、スクリーンを2重にしたり、マイクロフォンを地中の空洞に設置したりするなどの事例が紹介されていた。
 フランスのLarsonner 等は、超低周波音を計測する機器の校正方法について報告していた。この発表の後に、会場にいた欧州の方々と低周波音の話をする機会があり、 ドイツやフランスなどで風車以外にも低周波音の問題があることを知ることができた。「低周波音」の研究は、風車騒音の研究に取り込まれそうな勢いを感じる本会議であったが、今後も地道に「低周波音」の研究を続けるモチベーションを与えてくれた大事な知見であった。
(騒音振動研究室  土肥 哲也)

メルボルン南部の高層建築物「ユーレカタワー」


 航空機騒音や屋外音響伝搬に関係するセッションに主に参加した。
 “EU research projects on aircraft noise”では、ACARE (Advisory Council for Aviation Research and Innovation in Europe)が2001 年に示した“vision 2020”の目標達成 (各オペレーション(離陸/ 着陸)に対して10 dB減)を目指して進行中あるいは近年終了した様々なプロジェク トについて、それぞれの目的、目標、予算規模等の概要が紹介された(各プロジェクトについてはX-NOISE の webサイトから情報を得ることが可能)。プロジェクトの内容も興味深かったが、進行しているプロジェクトの数 とそれぞれの予算規模の大きさに驚かされた。
 “Urban sound propagation”では、オランダの研究機関TNO が開発した新たなNoisemap 作成システムが紹介された。鉄道、高速道路、一般道が複雑に配された地域において、各音源のEmissionを騒音モニタリングにより把握し、ネットワークを介して収集された結果に基づ き予測時の音源設定を変化させて繰り返し計算を行い、最終的に全モニタリング点の結果と誤差が最小となる Noisemap を作成するシステムで、大変興味深い内容であった。また、TNOの別の研究者からは、都市域での騒音予測にGPU を活用することで、これまでのCPU によ る並列計算に比べて500 倍高速にNoisemap が作成でき ることが紹介された(17 km×17 kmのエリアの予測計算に係る時間が1000時間から2時間に短縮)。日本でも、 波動解析にGPUが適用される事例が増えて来ているが、 エネルギーベースの予測モデルにもGPU が活用されていることを知り、予測を行う者としてGPU 活用の重要性が高まってきていることを感じた。
 “Outdoor sound propagation”では、畑の“畝”程度の細かな凹凸を有する地表面に沿って音が伝搬する場合について、凹凸の音響効果を仮想的なインピーダンスに置き換えて計算するモデルが紹介された。以前から興味を持っていた内容であり、その最新情報を得ることができた。
 私自身は、懇親会前の午後のセッション、“Airport noise modeling and measurement”において、成田空港周辺で実施した航空機騒音の多点同期計測の結果と大樹航空宇宙実験場で実施した屋外伝搬実験の結果についてそれぞれ発表を行った。いずれの発表も制限時間を守れたこともあり、色々と質問やコメントをもらうことができた。今後の検討リクエストももらえ、非常に有意義であった。
 懇親会には、セッションで一緒になった2名と、昨年のインターノイズ後に訪問したスイスの研究機関 EMPA の研究者、大阪のインターノイズで親交を持ったTNO の研究者と同席できた。会話は、研究のことから始まり、徐々にそれ以外の話に進んだが、練習した内容を話すのとは違う、いわゆる「英会話」が必要とされて非常に苦労した。しかし、アルコールが徐々に回ってくるとなぜか会話が成立し(?)、最後は会場係に追い出されるまで楽しく時間を過ごすことができ、今学会での一番の思い出となった(英語で会話をしていたかどう かは定かで無い・・・)。
(騒音振動研究室  横田 考俊)

 日本から15 時間、シドニーを経由して初夏のメルボルンに降り立った。空港からタクシーに乗り、30分ほどで高層ビルが立ち並ぶcityが見えてきた。歴史を感じさせる駅舎や教会と近代的なビルが混在する街並みは、道路が日本と同じ左側通行であることもあり、親近感の感 じられる風景であった。
 今回の会議では、主に風車騒音(Wind Turbine Noise) のセッションに参加した。Key Note 1件を含む27 件の発表があり、風車騒音問題に対する関心の高さがうかがえた。オーストラリアから11 件、デンマークから4件、イギリスから3件、ニュージーランド、スウェーデン、韓国、日本から各2件、カナダから1件の講演があり、日本からは2010年から3年間かけて実施された環境省戦略指定研究(代表:橘 秀樹)の成果が発表され、多くの反響が寄せられていた。私もこのプロジェクトに参加して聴感実験を担当しており、それらの好意的な意見は嬉しく感じられた。会場には多くの参加者が集まり、限られた質疑応答時間の中、活発な意見交換が行われた。ただ、全体的に実測調査に関する発表内容が多く、私が専門とする主観評価に関する発表は日本からの発表を除けば、風力発電施設周辺の居住地域で行われたアンケート調査に関する発表が1件と少なかった。イギリスからの2件の発表では、日本で実施された上記プロジェクトによる研究成果のうち聴感実験を含む論文がレビューされており、引き続き、残された課題に取り組み、発信していくことの必要性を強く感じた。
 私自身は、交通騒音の主観評価(Reaction to traffic noise)のセッションで、大型車・車室内における外部警報音の方向定位性に関する聴感実験の結果を発表した。時間帯が上記、風車騒音のセッションと平行して組まれており、発表セッション開始直前に会場に移動すると全員の発表用パワーポイントデータがアップロードできていないことがわかり、広い会場の端にあるアップロードセンターまで走ってテクニカルスタッフに状況を 伝えたら、「そんなに焦らないで」と笑顔で返されてしまい、幸い、開始時間までにトラブルは解消され無事にセッションが開始されたのだが、オーストラリアらしさが感じられた一場面であった。同じセッションに、同様の研究内容の発表が予定されており、有意義な意見交換ができることを期待していたが、講演がキャンセルされたことは残念であった。
 今回、最新の設備機器が備えられた会場ではあったが、テクニカルスタッフが少なく、発表者交代やスライ ド送りに手間取る場面に何度か遭遇した。講演中、何度か講演台にあがって操作を手伝っていたら現地テクニカルスタッフと間違えられ、日本人講演者と日本語で話していたら「日本語も話せるの?」と聞かれた。これにも驚いたが、やはり様々な人種が集まるオーストラリアら しさが感じられた一場面であった。            
(建築音響研究室  横山 栄)

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