2012/10
No.118
1. 巻頭言 2. inter-noise 2012 3. 集音マイクロホン 4. 精密騒音計(低周波音測定機能付) NL-62
   

    <技術報告>
 精密騒音計(低周波音測定機能付) NL-62

リオン株式会社 環境機器事業部 開発部   尾 崎 徹 哉

図1 NL-62

1. はじめに
 近年、日本において風力発電システムやボイラ、冷凍機、自然冷媒ヒートポンプ給湯機など、大型設備から一般家庭設置機器において発生する低周波を含む騒音が注目されている。またここ数年低周波音に関する苦情が増えている。
 環境省は「風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究」(平成22〜24年度)として、風車騒音の実測調査等が実施されている。
 現場での低周波音測定においては、低周波音の有無を確認する低周波音レベル計に加え、可聴領域を確認する騒音計が使用されている。ユーザからは1 Hz〜20 kHzの周波数帯域を測定できる測定器が望まれていた。
 今回、1 Hz〜20 kHzの周波数帯域を測定可能な精密騒音計NL-62を開発したのでここに紹介する(図1)。

 

2. 概要
 NL-62は精密騒音計NL-52 / 普通騒音計NL-42の上位機種であり、従来製品である低周波音レベル計NA-18Aの後継機種に位置付けられる。
 本器は騒音計の各種法規である計量法、JIS C 1509-1:2005 クラス 1、IEC 61672-1:2002 Class 1、ANSI S1.4-1983、ANSI S1.43-1997に加えISO 7196 : 1995(G特性) に適合する。またウインドスクリーン装着時、マイクロホン延長時も同規格に適合する。
 NL-62の主な機能はNL-52と同じであるため、小林理研ニュースNo. 113(2011/7)を参照するとして、ここでは新規開発したマイクロホンUC-59Lおよびオプション製品について述べる。

3. マイクロホンUC-59L(特許出願中)
3.1. 特徴
 UC-59LはIEC 61672-1(JIS C 1509-1)が規定するClass1の騒音計に使用することができる1/2インチエレクトレットコンデンサマイクロホンで、さらに低周波領域から可聴領域までの広い周波数範囲(1 Hz〜20 kHz) を測定することができる。

3.2. 構造
 図2にUC-59Lの断面図を示す。UC-59(測定周波数範囲:10 Hz〜20 kHz)と基本的な構造は同じであるが、背気室と外部との間に形成される通気路を狭く、長くすることによって音響インピーダンスを大きくし、カットオフ周波数を低周波領域まで伸ばしている。通気路は気圧調整スペーサによって形成され、絶縁物とスペーサ上部の構造物に挟まれることで、背気室と外部をつなぐトンネルとなって背気室と外部との気圧を調整する働きを持つ。通気路がない場合、背気室は密閉された状態となり、外部の気圧変化に追従できなくなる。逆に通気路が大きい場合は外部の気圧変化への追従が速くなり、低周波数の感度が低下する。

図2 UC-59Lの断面図

 図3にUC-59 / UC-59Lの気圧調整スペーサを示す。UC-59の気圧調整スペーサはリングに切れ目のある形状であるが、UC-59Lはスペーサの円周に沿って狭く、長く 気路が形成されている。また、切れ目を設けず、図4に示すように通気路の端部を背気室内および外部にはみ出させることによって空気の流れを確保している。スリット外周が閉じた形状とすることにより、組立の際に 気路が変形して音響インピーダンスにばらつきが発生することを防いでいる。


(a) UC-59
(b) UC-59L

図3 気圧調整スペーサ

 

図4 気圧調整時の空気の流れ
(赤矢印が空気の流れを示す)
図5 UC-59LとUC-59の代表周波数特性

3.3. 周波数特性
 図5にUC-59LとUC-59の代表周波数特性を示す(但し、UC-59Lの1Hz未満、UC-59の10Hz未満については参考値)。規格としてIEC 61672-1 Class1とISO 7190を示す。UC-59Lは1 Hz〜20 kHzまで規格に十分対応していることがわかる。

3.4. 超低周波音のトレーサビリティ
 可聴域においては音響カプラを使用した相互校正法(JIS C 5515付属書2参照)によってマイクロホンを校正するが、1 Hz〜20 Hzの校正には音響カプラ内でピストンを振動させることによって発生する音圧を用いる。ピストンの変位と音響カプラの容積から音圧を算出することによってマイクロホンを校正することができる。
 2011年度から産業技術総合研究所で超低周波音の校正サービスが開始されたことにより、超低周波音の音圧感度におけるトレーサビリティが確立された。

4. オプション製品
4.1. 波形収録プログラム
 音圧波形はPCM形式のWAVEファイルとしてストアデータと共にSDカードに記録(録音)される。そのため、コンピュータ上で音圧波形の再生や再分析が可能である。サンプリング周波数は48 kHz、24 kHz、16 kHzから選択でき、量子化ビット数は24 bit、16 bitに対応している。

4.2. オクターブ・1/3オクターブ実時間分析プログラム
 1/3オクターブ分析は1 Hz〜20 kHzの計44バンドを同時に演算することができる(図6)。各バンドおよびオールパス値の100 ms毎のデータを自動記録する機能を有し、測定データはCSV形式でSDカードに保存される。その他、室内騒音等級(NC値)や任意に選択された周波数バンド間の合成(パーシャルオーバーオール)も表示可能である。

4.3. FFT分析プログラム
 FFT分析に加えメインチャンネルのオールパス値を測定する(図6)。分析周波数範囲は20 kHzでスペクトルは8,000ライン(フレーム時間400 ms、周波数分解能2.5 Hz)である。時間窓はレクタンギュラ、ハニングを用意している。また測定結果のレベルの高い上位20ラインの周波数とレベル値をリスト表示する機能を有する。
(a) 1/3オクターブ分析画面 (低域表示)
(b) FFT分析画面

図6 各種オプション画面例

5. 測定負荷の低減
 従来の低周波音を含む騒音測定には低周波音レベル計に加え、騒音計、データレコーダが主に使用されていた。NL-62は上記オプションをインストールすることで 1 Hz〜20 kHzまでの周波数帯域を測定でき、同時に音圧波形の記録や1/3オクターブバンド分析も可能となる。そのため、複数台の測定器の運搬負荷が低減され、ケーブルの接続も不要となる。また機器の設定はNL-62の1台であるため、レベルレンジ設定を含む各種測定器の設定の煩わしさがない。

6. おわりに
 新規に開発した精密騒音計NL-62について紹介した。低周波音測定を含む騒音測定にNL-62が使用され、皆様の計測に役立つことを祈念している。
 これからもお客様の声を大切にし、より良い製品開発に努力していきたい。

 

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