2012/10
No.118
1. 巻頭言 2. inter-noise 2012 3. 集音マイクロホン 4. 精密騒音計(低周波音測定機能付) NL-62
   

      <会議報告>
 inter-noise 2012

山 本 貢 平, 土 肥 哲 也, 横 田 考 俊

 inter-noise 2012(第41回国際騒音制御工学会議)は8月19日(日)〜22日(水)の間、アメリカ合衆国のニューヨーク市で開催された。会場はマンハッタンの中心地タイムズスクエアに聳え立つホテルMarriott Marquis NYであった。ここは、まさにアメリカを象徴するLandmark、劇場、美術館の中心であり、世界の人々が訪れる活気にあふれた街のど真ん中に位置していた。小林理研からは山本の他に、土肥、横田の合計3名が出席した。

 私は1日早く現地入りし、18日(土)の早朝から開かれたCSC会議(Congress Selection Committee)に出席した。この会議は3年先のinter-noise開催地を選定する役割を担っている。今年からAsia/Pacific地域のメンバーの一人として参加することになった。

 翌19日(日)は、W. Lang氏が主宰するNCEP (I-INCE Noise Control Evaluation Panel) 会議、I-INCE総会に出席後、inter-noise 2012の開会式に出席した。開会式はアメリカらしさを出してJAZZ 演奏から始まり、実行委員長のSteve Hambric氏につづいてEric Wood氏 (INCE-USA President)、Brent Paul氏 (ASME NCAD Executive Committee) がそれぞれ歓迎の挨拶を行った。このあと、I-INCE会長Gilles Daigle氏が開会宣言を行った。今回はINCE/USAに加えて、ASME NCAD(アメリカ機械学会の音響部門)とSAE (Society of Automotive Engineering) が共催団体となった。それゆえ史上最大規模の会議となったとアナウンスがあった。さらに、NY市長からのメッセージが披露された後、基調講演に入った。基調講演はNY市の建設工事騒音の規制に関するものであり、この都市では建設工事が多く、それに伴う建設工事騒音の規制に早い時期から取り組まれていたかが窺えた。建設工事の多さは NY市の活気あふれる経済を思わせる。この夜は、恒例の歓迎レセプションに続き、座長へのインストラクションがあった。レセプションは、ラッシュ時の駅ホームのように、身動きのできない程の混雑であった。

inter-noise 2012のOpeningを飾るJAZZ演奏

 翌20日(月)から、21の会場に分かれて分野ごとのテクニカルセッションが開始された。今回の会議のテーマは「Quieting the World's Cities」であり、主な発表分野として「Community/Environmental Noise」「Architectural Noise and Building Acoustics」「Active and Passive Noise and Vibration Control」「Measurement and Signal Processing Techniques」「Motor Vehicle Noise 」「Noise and Health」が取り上げられた。

 一方、機器展示は会議2日目の20日(月)の夕刻から開始された。機器展示会場への訪問者にはWelcome Drinkが配られて、和気あいあいのスタートとなった。

 最終日、23日(水)の夕刻より基調講演があり、山田一郎氏(空環協)が講演を行い、日本の空港周辺における騒音の推移と対策の苦労話を披露した。引き続き閉会式に移った。実行委員長のSteve Hambric氏の発表によれば、今回の参加登録者数は過去最多の1,485名であり、ここ数年の平均の68%増であった。参加国は42か国であり、国別では、多い順にアメリカ合衆国551名、日本129名、フランス71名、ドイツ66名、韓国65名、カナダ61名、英国56名、スウェーデン49名、ブラジル42名、デンマーク40名、中国39名、オランダ33名と続く。日本は主催国に次いで多い登録者数となった。また、論文数は1,063件(49%増)でこれも過去最多であり、例年の2倍の会場数が必要となった理由が理解できる。さらに、機器展示社数も68社(58%増)であった。まさに、アメリカの強さを示した結果となった。閉会式に続いて来年の開催地インスブルックがプレゼンを行い、アルプスの自然に囲まれた美しい街での会議開催をアナウンスした。この後、参加者はワインを片手に再会を約束し合って別れ、これでinter-noise 2012の全行程が終了した。
(所長 山本貢平)

 

 航空機が超音速で飛行すると、「N」の波形をした継続時間0.1秒程度の音波が発生する。この音はソニックブームと呼ばれ、地上で「ドン、ドン」という二つの衝撃音として聞こえたり、低周波成分を含むことから家屋の窓ガラスなどががたついたりすることがある。今回、私は屋外でソニックブームを人工的に発生させる装置の開発について発表した。3年前のinter-noise 2009での会議報告で、「アメリカではソニックブームに関する研究が盛んであることに驚いた」と述べた私自身が、まさかソニックブームのセッションで発表するとは当時は思ってもみなかった。

 今回のinter-noiseではアメリカ開催だけにソニックブームのセッションが2つもあり、合計16件の発表が行われた。アメリカではNASAを中心とした大学や研究機関などが、ソニックブームの影響評価、低減対策に関する研究を昔から進めている。現在はICAOで禁止されている陸地上空における超音速飛行を将来は条件付きで認可し、小型ビジネスジェットの商業運航を計画しているようだ。日本でもJAXAの超音速旅客機チームが研究を進めている。

 

会場のホテルMarriott Marquis NY

 今回のセッションでは実機や模擬機を用いた屋外実験、ソニックブームシミュレータを用いた室内実験、数値シミュレーションなどソニックブームの影響、予測などについての研究成果が発表された。航空機が超音速で加速しながら飛行すると、ブームの音圧(音速)が高く(速く)変化し、結果的に伝搬過程で地上の一部に音が集中するFocus boomという現象を初めて知った。また、専用のアプリを入れたiPhoneを軍事基地周辺の居住者に配布して、ソニックブームが聞こえたらボタンで回答する、というアメリカらしい手法を使った社会反応調査があった。この結 によればソニックブームの音圧が1 psf(約50 Pa)を超えたあたりからうるさい(Highly annoyed)と回答する人が増える傾向が示されていた。日本からは私の発表の連名者でもあるJAXAの中氏が、模擬飛行体を空中落下させた現地試験の結果として、機体先頭形状によるソニックブームの低減効果や、ソニックブームの空中伝搬について報告していた。

 私と同じセッションでご挨拶をすることができたLouis Sutherland氏は、私が生まれる前の1960年代からソニックブームや建具振動などの研究をしており、帰国後にその当時の資料をメールで頂くことができた。氏の発表資料の中には時田先生の実験結果が引用されていた。

 日本では2027年に次世代のリニア中央新幹線が開業し、品川〜名古屋間を現在の半分の所要時間で結ぶ予定である。これと同じように将来、アメリカでは東海岸と西海岸を結ぶ飛行機の所要時間(約6時間)が超音速飛行の実現により大幅に短縮できているかも知れない。交通の高速化と、環境保全の両立が技術革新によりもたらせるように、今後もソニックブームをはじめ音の研究を続けたい。

 以下に私の関心があった鉄道騒音・振動と低周波音のセッションの概要を示す。
〇 鉄道騒音
 高速鉄道騒音と鉄道騒音・振動の2つのセッションではあわせて21件の発表があった。高速鉄道では韓国の高速鉄道KTXを対象にマイクロフォンスパイラルアレイで計測した音源同定結果が紹介されていた。また、アメリカのSilas Bensing氏は高速鉄道の音源高さに関する予測計算結果を報告していた。日本の新幹線のように駆動力が分散してモータなどが低い 置にある方式は、欧州で多く採用されているAVEのように両先頭に駆動車を集中させて音源が高い位置にある方式より、特に防音壁区間で騒音が小さくなることを示していた。新幹線が欧州の高速鉄道に比べて騒音の観点で有利であることを示す国際学会などの資料は少なく、この発表は新幹線を輸出する上で日本にとって有益であると思った。

〇 低周波音
 2セッションで合計12件の発表があった。なお、風車から出る音に関する発表の多くは のセッション(Wind turbines and renewable energy noise)で行われた。
 スイスのHerve Lissek氏は家屋の部屋内で発生する定在波による音圧の大小を、スピーカを用いて弱める方法について理論と実験で検討していた。また、オランダのFrits Erden氏は、軍事演習で発生する爆発音などの音源近傍に鉄板や石で作った塀を設け、遠方に伝搬する爆発音を低減する方法を数値解析と実験で検討し、300 m離れで10 dB低減する事例などを報告していた。
(騒音振動研究室 土肥哲也)
発表会場

機器展示会場

 

 今回は、主に航空機騒音あるいは屋外音響伝搬に関するセッションに参加した。発表件数が1,000件以上の大きな会議であったことから、「2.05 Aircraft Interior Noise: applications, strategies and test」「2.06 Noise Source Characterization in Aircraft」「7.07 Outdoor sound propagation」「7.11 Airport and Community Noise modeling and monitoring」「16.06 Airport Noise Policy」など、関連したセッションだけでも複数に渡り、非常に多くの情報を得る機会を持つことができた。その一方、限られた会期の中で興味あるセッションが並行して開催される状況も生じ、どちらかを選択しなければならないという残念な部分もあった。

 私自身は、会議初日(20日)の「7.11 Airport and Community Noise modeling and monitoring」のセッションで、航空機が 過する経路下周辺において多点同期計測を行うことで航空機騒音の地上への暴露状況を可視化し、気象条件の違いによる航空機騒音の伝搬特性の変化について発表した。この実験は、JAXAが進める航空機の次世代運航システム「DREAMS」の研究開発の一環として行われたものであり、私の発表の前に、JAXAの石井氏より「DREAMS」の全体概要および「航空機騒音被害が最小限になるように飛行経路を設定する」というコンセプトが紹介された。このセッションでは、「DREAMS」と同様のコンセプトを持った「飛行経路の設定」に関して、定期運航の民間航空機を対象としてアメリカの研究グループから、ヘリコプタを対象としてオランダを中心とする研究グループからも発表があり、大変興味深かった。

 「7.07 Outdoor sound propagation」のセッションでは、BEM、FDTD、PEやそれらを組み合わせた数値解析手法などを用いた屋外音響伝搬に関する解析事例が多く発表された。主には、各種数値解析手法の紹介、道路交通騒音などを対象とした市街地における建物が複雑に配置された状況での騒音予測に関する解析、砲撃音などの長距離伝搬に関する発表などが多く見られた。気象の影響について、これまでは砲撃音等の長距離伝搬に対する解析事例が多く見られたが、今回は道路交通騒音など、市街地における騒音伝搬を視野に入れた解析事例が見られたのが印象的であった。

 「2.06 Noise Source Characterization in Aircraft」のセッションでは、航空機騒音の発生源について、マイクロホンアレーを用いた音源同定や風洞実験等による発生源対策、あるいは予測用の音源モデル作成などの発表がなされた。マイクロホンアレーを用いて周波数毎に航空機騒音の発生源を可視化する技術や実測で得られたデータを基に音源モデルを作成した事例など、非常に興味深い発表が多かった。

 今回のinter-noiseでは、航空機騒音に関するセッションで初めて発表を行うとともに、その関連セッションへの参加を積極的に行った。これまで参加してきたセッションと異なるため、セッションに参加している海外の研究者とはほとんどが初対面であった。この分野における海外の研究者に新たに出会えたことが今回の会議参加の一番の成果だったと思う。その一方で、自分の宣伝不足もあり、これまでのinter-noise等で知り合いになった人に発表を聞いてもらえなかったことは少し残念であった。
(騒音振動研究室 横田考俊)

タイムズスクエアの昼と夜

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