2012/7
No.117
1. 巻頭言 2. 連続加振が可能な小走り模擬衝撃源の試作 3. メ ガ ホ ン 4. おしらせらんぷ(BA-05)
   

    <骨董品シリーズ その83>
 メ ガ ホ ン


理事長  山 下 充 康

 音響科学博物館に所蔵されている朝顔形の「音響ホーン」についてはこの紙面で過去にまとめて取り上げたことがあるが(No.45 1994/7「骨董品展示室の喇叭(ラッパ)たち」)、このたび旧いメガホンを手に入れたので再度ホーンをここに登場させることにした。

 写真にあるように、凸凹に傷んでいて塗装も剥げ落ちている。実際に使われていたものであろう、口当ての付いたブリキで作られた円錐形の単純なメガホンである(図1)。


図1 ブリキ製のメガホン
(長さ50cm、口径12cm)

 近年では電気的に声を増幅する小型で持ち運びの容易なポータブルメガホンが主流で、団体や集団を相手に説明をしたり、何らかの指示をしている光景を目にすることが多い。この種のメガホンは増幅器が内蔵されていて大声を放射するように作られている。

 ここで紹介するメガホンには全く電気的な工夫は施されていない。
 図2は太平洋戦争中に使われていたメガホンであろうか、携帯に便利なようにズック地のケースに収められた 伸縮式に工夫されたメガホンである。

図2 伸縮式の携帯用メガホン
左 使用時  右 収納時

 蓄音機のホーンと同様に特別にエネルギーの供給がない。この種のメガホンは音声を増幅するものではなく、声にただ指向性を持たせただけである。これらのメガホンの音響的な指向性のデータを図3に付した。これは1 kHzの1/1オクターブバンドノイズを用いて測定したものである。

図3 メガホンの指向性
左 ブリキ製メガホン 右 携帯用メガホン

 図4,5はエジソンの蝋管式蓄音機(No.27 1990/1「蝋管式蓄音機」)外観とホーンの有無で比較した音圧レベルの測定結果である。音源には音響科学博物館所蔵の蝋管の中から“National Emblem March”を使用し、本体より2.5m離れた地点で測定した。

 サウンドボックスのシャリシャリした音ではなく中低音域の音が強調されている様子が顕著に見られる。ホーンが音を増幅する周波数範囲は200 Hz〜3 kHzであり、増幅 は約15 dBであることが分かる。この周波数範囲は人間の音声帯域と一致し、また15 dBの増幅とは、距離で言えば5倍以上近づくことに相当する。先人の知恵がいかに的確な用具を創り出したか、改めて驚かされる次第である。

図4 エジソンの蝋管式蓄音機
左 ホーン装着時  右 未装着時

図5 蝋管式蓄音機のホーンの有無による周波数特性の変化(左)と音圧レベル差(右)

 両手のひらを筒状にして口にあてがって大声で叫んだのがメガホンの始まりだったのかも知れない。ここでは金属製のメガホンを紹介したが、近年は厚紙やプラスティックで作られたものが多い。野球やフットボールなどの観戦で応援用に様々なメガホンが使われている。声だけでなくメガホンを叩き合わせて応援することもあるので、それに合わせて半円形の二つのメガホンをつなぎ合わせた形状のものも市販されている。また「メガホンを取る」といえば映画のロケーション現場を思い起こす人々も居られることであろう。不特定多数の人々に指示を伝えるのに古来、メガホンは手軽で便利な音響道具であった。

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