2012/7
No.117
1. 巻頭言 2. 連続加振が可能な小走り模擬衝撃源の試作 3. メ ガ ホ ン 4. おしらせらんぷ(BA-05)
   

      <研究紹介>
 連続加振が可能な小走り模擬衝撃源の試作

建築音響研究室   中 森 俊 介

1. はじめに
 集合住宅における居住者の住まい方意識が高まり、子供の飛び跳ねや飛び降りなど常識を逸する大きな発生音が近隣住戸に対して問題となるケースは少なくなっている。また、建物の内外壁及び天井材の吸音・遮音技術の向上により、居住空間は外来の騒音に対し、静謐(せいひつ)化されている。その結果、上階からの歩行、小走り音といった日常無意識に発せられる低レベルの騒音が顕在化する1)ようになった。これらの発生源は発生箇所による音の大きさが個別的で、個人差が大きく再現性も低いため、客観的、定量的な比較検討が難しい。小走り音と似 った周波数特性を持つ2)標準衝撃源としてJIS A 1418-2の附属書1に規定されるゴムボールが挙げられるが、発生音が単発であることから、連続性のある小走り音と感覚的なイメージが結びつかない。そこで、標準的な成人の小走りを模擬するために、複数の衝撃点について連続加振が可能な衝撃源を試作し、集合住宅の音問題への対処、床構造の評価や材料開発に活用することを考えた。ここでは模擬衝撃源の衝撃力調整、自動化した装置の概要、実衝撃源による床衝撃音レベルとの比較例を紹介する。

2. 衝撃力の調整
 衝撃力の測定は剛床上で行った。図1に示すように力ピックアップ(RION PF-31)を3個設置したアルミ製の加振板(直径33 cm)で構成されたセンサーをコンクリート に固定し、走行ラインの前後にセンサーと高さが揃うように調整台を設け、その上を人が走行した。図2に成人の小走りによる衝撃力の時系列波形例を示す。波形の初期に踵による鋭いピークが生じた後、継続時間の長い爪先の蹴り上げによる衝撃がみられるのが特徴である。ただし、床衝撃音として問題となるのは衝撃時間の短い踵の踏み込みによる衝撃である。図3に衝撃力の周波数特性を示す。水色で網掛けした部分は、延べ約30名による衝撃力の上 5〜60 %の範囲を示してあり、この領域を模擬衝撃力の調整の目安とした。また、落下高さ20 cmのゴムボールから得られる衝撃力も比較のために示した。


図1 小走り衝撃力の測定系列


図2 小走り衝撃力の時系列波形例

 試作した模擬衝撃源の発生機構は床面に接触する弾性ゴムと鋼製の質量から成る衝撃ヘッドによる自由落下とした。踵による衝撃波形及び周波数特性を再現するために、弾性ゴムの硬度、質量及び落下高さを検討した3)。 硬度の異なるゴムを2層構造(床との接触側を柔らかいゴム、2層目を硬いゴム)とすることで、図3に示すように小走り音の主成分となる25〜160 Hzを実衝撃と対応させることができた。

3. 衝撃源の自動化
 自動化した模擬衝撃源(写真1)は2つの衝撃ヘッドが位相差πで交互に自由落下し、半径60 cmの円周上を1周(約4秒)する間に12回床面を打撃する。これらの動作(水平回転及び衝撃ヘッドのリフトアップと拾い上げ)は、1個のモータで負担し、電源はケーブルレスの利点から充電式バッテリ(AC100Vも併用可)とした。衝撃ヘッドによる衝撃音以外の音が発生しないよう低騒音型のモータ及び力伝達機構を選定した。しかし、衝撃ヘッドを拾い上げる際、模擬衝撃源の支持脚からの固体伝搬音が影響した4)ため、4本の支持脚と床面の間に緩衝材を挿入した。図4は各支持脚から床面へ伝達する衝撃力をロードセル(PCB 200C50)により測定した結果である。測定値は駆動時間内の等価衝撃力レベルとし、支持脚4本分の加算値とした。発泡ゴムの防振効果が最も高かったが、模擬衝撃源の筐体のローリングを防止するため、フェルトを採用した。


図3 衝撃力の周波数特性


図4 緩衝材による支持脚の防振効果


写真1 試作した自動衝撃装置


図5 床衝撃音測定における各音源の衝撃位置


図6 床衝撃音測定結果の例(乾式二重床)

4. 床衝撃音の比較
 床衝撃音の測定は当所の床試験室で実施した。受音室(容積60 m3)は一 的な居室を想定し、残響時間を1秒弱に調整した。実衝撃源による走行ラインは図5に矢印で示す対角線上とし、模擬衝撃源は試料中央に設置した。ゴムボールによる衝撃点は模擬衝撃源の衝撃ヘッドが打撃する円周上の8点とし、落下高さは20 cmとした。実衝撃源及び模擬衝撃源は衝撃の継続時間内の等価音圧レベル、ゴムボールについては発生音の最大音圧レベルを測定し、衝撃点8点について算術平均した。1/3オクターブバンドの25〜800 Hzのそれぞれの値から合成したA特性音圧レベルも求めた。図6は200 mm厚のコンクリートスラブに乾式二重床を施工した際の床衝撃音の測定結果である。模擬衝撃源については支持脚防振の有無についても示した。防振することで50〜160 Hz及びA特性について実衝撃源と安全側で対応させることができた。

5. まとめと今後の課題
 衝撃ヘッドの自由落下により加振する模擬衝撃源は、成人の小走り衝撃波形の踵による衝撃部分を対象とすることにより、小走り音の主成分となる25〜160 Hzで対応をとることができた。連続加振が可能な模擬衝撃源を試作し、乾式二重床を対象に床衝撃音の測定を行った結果、支持脚を防振することで、成人の小走り音と50〜160 Hz及びA特性音圧レベルで安全側の対応がみられ、床構造の床衝撃音遮断性能の評価に利用可能であることが示唆された。今後は、現場データの収集、子供の衝撃力との対応、衝撃装置の軽量化について検討して行きたい。

謝辞
 実衝撃源のデータ収集には騒音制御工学会床衝撃音分科会の委員及び関係者にご協力を頂いた。衝撃力センサーの改良には蓮見敏之氏(リオン)、衝撃源の自動化に際しては、井川勉氏(FiT)、河野佳美氏(河野電機)にご尽力頂いた。ここに感謝の意を表す。
本研究は科研費(20760397)の助成を受けた。

参考文献
1) 高橋、井上、関口「騒音源別に見た裁判事例の分析 (住宅の〜:その3)」日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.183-184、2009.8
2) 濱田、井上、平光、漆戸「最大A特性床衝撃音レベルと各種主観評価量の対応」日本建築学会第64回音シンポジウム資料、pp.9-14、2009.3
3) 中森、吉村「小走り音を模擬した衝撃源の試作」日本騒音制御工学会秋季研究発表会講演論文集、 pp.205-208、2010.9
4) 中森、吉村「床衝撃音遮断性能の評価に向けた小走り模擬衝撃源の改良」日本音響学会秋季研究発表会講演論文集CD-ROM、pp.1073-1074、2011.9

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