2010/1
No.107
1. 巻頭言 2. 2009 IEEE IUS 3. 電灯線からのAC電源 4. 振動分析計 VA-12
   

     <技術報告>
 高分解能FFT分析機能付き『振動分析計 VA-12』

リオン株式会社 計測器技術部  馬 屋 原 博 光


図1 VA-12の外観(プロテクトカバー付き)
PV-57I(加速度ピックアップ)はカールコードで接続

図2 VA-12を用いた現場での測定

はじめに
 生産設備や発電関連施設などの機械設備は効率化や生産性の向上が求められる中、従来にも増して設備保全の重要性が高まっている。一方現場では、ベテラン設備診断技術者の減少や計測技術の未伝承、コスト削減の影響を受けつつあり、簡便かつ高性能、安価な測定機器が求められている。
 また、製品開発や品質保証(出荷検査、設置機器の動作確認)の分野でも、自社製品の競争力強化のために、さらなる性能向上(振動・騒音の少ない製品、長寿命の製品)や品質管理が求められ、振動計測の高精度化、効率化が要求されている。
 これら要求事項を背景に、簡単操作でありながら高精度な振動計測・分析機能を有した、現場型ハンディタイプの振動分析計VA-12および加速度振動ピックアップPV-57I(VA-12に付属)を開発した。
 図1に外観を、図2に測定の様子を示し、主な特徴を以降に記す。

(1)振動計モードとFFTモードによる2モード計測
 本器は、振動計モードとFFTモードの2種類の計測モードを備え、スイッチひとつで切り替え可能となっている。通常行われる設備診断の定期点検や簡易診断など、加速度・速度・変位による測定の場合には、振動計モードで簡単に計測が出来る。さらに、FFTモードを用いることにより、周波数領域での分析や時間波形による分析など、より詳細な分析機能を選択することが可能である。

・振動計モード
 加速度・速度・変位の3種類の測定量を同時に計測でき、合わせて波高率も算出される。そのため、測定時間の短縮に貢献すると共に、3種類の測定量の比較から、機械の振動状態の評価を手軽に行うことが出来る。

・FFTモード
 リアルタイム分析周波数範囲20 kHz、 最大3200ラインの高分解能で分析が可能である。また、FFT演算時における振動の時間波形もWAVE形式でメモリカードに記録可能であり(最大1 MB、分析周波数範囲20 kHzで10秒、分析周波数範囲5 kHzで40秒)、現場で波形を記録して持ち帰り、コンピュータによって再分析が行える。スペクトル表示ではレベルの大きい順に上位10番目までをリストとして表示し、特徴ある周波数を確認できる。
 また、時間波形表示、加速度包絡線処理も可能であり、図3に各モードにおける画面表示の例を示す。

(2)新開発のプリアンプ内蔵型加速度ピックアップ PV-57Iを搭載
 同時開発したプリアンプ内蔵型加速度ピックアップPV-57Iは、小型、高感度で耐久性の高い圧電方式を採用し、最大測定加速度700 m/s2、温度範囲−20 ℃〜+70 ℃で使用可能である。また、底面にネジ穴を設けており、マグネットアタッチメント(VP-53S)の装着やネジによる固定も可能である。
 PV-57Iと本体部VA-12の接続では、現場計測に配慮し、カールコードを採用した(図1参照)。
 センサ駆動電源は+18V 2 mAであり、BNC端子による接続のため、ケーブル延長もしやすく、異なるプリアンプ内蔵型加速度ピックアップの接続も可能である。なお、チャージコンバータ(VP-40)接続時には電荷出力タイプの圧電式加速度ピックアップも接続可能となっている。

振動計モード

FFTモード
(リスト表示)

FFTモード
(時間波形表示)

FFTモード
(加速度包絡線処理)
図3 各モードにおける画面表示

 

(3)ディジタル処理による計測の高精度化
 本器では、内部回路の信号処理に24 bit A/DとDigital Signal Processor(DSP)を採用し、高精度、高速処理の計測値の算出を行なっている。また、アナログ回路も含めた新規回路設計によりダイナミックレンジを拡大し、衝撃性の(波高率が高い)振動入力であっても確実に計測できる構成となっている。

(4)視認性・操作性の向上
 屋内、屋外、暗所のいずれでも視認性に優れた表示応答速度の速いバックライト付きTFTカラー液晶を採用した。また、カラー液晶化により画面表示する情報(測定値、波形の拡大縮小、波形の重ね合わせ、設定条件)を色分けし、視覚的に分かりやすくした。
 操作性向上においては、メニュー、測定画面に日本語表示を用意した(英語表示も可能、図4参照)。また、メニューで各種設定を行う場合、誤操作防止や使いやすさの向上を図るため、操作説明、注意事項を表示するようにした。
 メンブレンスイッチでは測定時に使用頻度の高いPAUSE、STORE、STARTキーの面積を大きくし、操作しやすい上部に配置した(図4参照)。また、測定モード、レンジ、周波数分析範囲、ライン数など条件設定の専用キーを設け、設定操作を容易にした。さらに過大信号入力時、演算中、トリガ待機中などの動作状態を示すLEDを装備している。

カラー表示による保存データ
との波形の重ね合わせ機能

日本語メニューと
操作説明

操作性を考慮した
メンブレンスイッチ
図4 視認性・操作性の向上

 

(5)電池駆動による長寿命設計
 低消費電力設計を行い、アルカリ乾電池使用時には連続約12時間の測定が可能である。なお、本器は単3乾電池もしくはACアダプタで動作する。

(6)耐衝撃および防滴に配慮した設計
 ゴム素材のプロテクトカバー装着により、本体への衝撃に対する保護性能を向上させた。また、カバーを付けた状態でも電池交換が可能な構造にし、さらに移動時に加速度ピックアップを収納できるよう取り付け用のホルダを設けた(図1、図5参照)。
 その他、防滴に配慮した設計として、液晶と筐体間のスポンジゴム、メンブレンスイッチ、コネクタカバー、プロテクトカバーなどを採用している。

プロテクトカバーの
ピックアップ用ホルダと背面

底面部のコネクタカバー
(SDカード挿入状態でも保護可能)
図5 プロテクトカバーとコネクタカバー

 

(7)メモリ機能
 メモリカードとしてSDカードを採用した(512 MB付属)。マニュアルストアデータは、1フォルダあたり1000データの保存が可能である。また、コンピュータとUSB接続することで本器のSDカードをリムーバブルディスクとして認識する。

(8)印刷機能
 専用のUSBプリンタに直接印字が可能である。また、図3に示すような測定画面を画像ファイル(BMP形式)としてSDカードへ保存でき、報告書作成時に効果的である。

(9)環境への配慮
 本器は、当社のグリーン調達ガイドラインに基づき、全ての構成部品に対して有害化学物質(15種類の禁止物質)の調査確認を行い、有害化学物質を含まないグリーン製品である。

おわりに
 今回紹介したVA-12はハンディタイプの振動計測器として現場計測における使い易さ向上に重点をおいて設計を行った。振動計測による製品管理、設備診断、保全管理などにVA-12が使用され、信頼できる製品としてお客様に認めていただけることを願っている。

 

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