2010/1
No.107
1. 巻頭言 2. 2009 IEEE IUS 3. 電灯線からのAC電源 4. 振動分析計 VA-12
   

    <会議報告>
 2009 IEEE IUS


圧電応用研究室  児 玉 秀 和

1.はじめに
 IEEEが主催する超音波の国際会議 2009 IEEE International Ultrasonics Symposium (IUS) が、9月20日から23日にイタリア・ローマ(Ergife Palace Hotel)で開催された。ここでは私のポスター発表を含めた会議報告を行う。

2.会議概要
 本会議は毎年秋に開催される。一昨年はニューヨーク、昨年は北京を会場とした。プログラムにあるProf. Massimo Pappalardo, General Chairman of IEEE 2009 IUS (Univ. Roma) のコメントによると、本会議は1950年の6月に “The first international congresses on Ultrasounds” というタイトルで第1回会議が開催された。そのときの会場はローマであった。その後、59年ぶりに第1回開催地であるローマで再び開催されることとなった。

2009 IEEE IUSのロゴ

ローマの代表的な遺跡コロッセオ

3.会議の構成
 会議は19日のレジストレーションから始まり、20日にShort Courses、21日〜23日までの3日間に研究発表が行われた。
 IUSの特徴として、研究発表の他にShort Course(講義)が充実していることが挙げられる。プログラム集とアブストラクト集の表紙には、“2009 IEEE International Ultrasonics Symposium and Short Courses”と記載されている事からもそのことは容易に察する。今年は18もの講義が設けられた。1コースあたりの講義時間は4時間である。内容は超音波の基礎をフォーカスしたものや、デバイス開発、医療分野や産業分野など多岐にわたった。
 Prof. Giorgio Parisi (Univ. of Rome) による基調講演 “A new approach to the study of Heart Sounds” を皮切りにおよそ900件の研究発表が行われた。超音波は医療分野、中でも心臓疾患の診断に用いられている。基調講演では心拍音のコンピュータ解析に関する最新技術が紹介された。
 発表件数は口頭371件、ポスター504件であった。一日あたりの発表件数は口頭120件、ポスター170件となる。リジェクト(不採用)されたペーパーも少なくないと聞いたが、超音波にフォーカスを絞った会議としても規模の大きな会議という印象を受ける。一日のスケジュールは8:00〜9:30の口頭発表の後、10:00〜11:30にポスター発表、再び口頭発表が続き、昼食後に口頭発表が18:00まで行われた。その間に数回コーヒーブレークがあった。
 膨大な数の研究発表をトピックスごとに整理することが難儀であることは容易に想像できるが、それを実行する Program Committee は5グループから成る。それらを挙げると、
Gr. I: Medical Ultrasonics
Gr. II: Sensors, NDE, and Industrial Application
Gr. III: Physical Acoustics
Gr. IV: Microacoustics - SAW, FBAW, MEMS
Gr. V: Transducers and Transducer Materials
である。メンバー数は各グループ約20名で、全体では100名を超える。

4.研究発表の印象
 研究発表は例年と同様に、材料・トランスデューサ、医療超音波、デバイス、MEMS技術などの主要なトピックスが設けられ、どれも活発であった。材料の分野では Ferroelectrets and Other Transducer Materials というセッションが新たに設けられた。Ferroelectrets とはエレクトレットとした発泡ポリプロピレンシートである。この材料は1999年に Dr. M. Paajanen 等により圧電セラミックスに匹敵する圧電率を発生することが見出され[1]、Prof. G. M. Sessler 等によりマイクロホンへの応用など研究が進められている[2]、注目されている有機圧電材料の一つである。本会議では “Broadband Ferroelectret Transducers” というタイトルで Prof. Sesslerによる招待講演が行われた。
 デバイス分野では、Energy Harvesting というセッションが設けられたことが特に印象深かった。Energy Harvesting とは、圧電材料の電気と機械のエネルギー変換特性を利用し、環境振動より電気エネルギーを創出しようとするアイデアで、二酸化炭素を排出せずに発電する技術として注目されている。この Energy Harvesting と超音波分野の間に直接な関連はみられないが、Energy Harvesting デバイスとして圧電材料とMEMS技術を組み合わせた素子が検討されている。このように、高効率の電気機械変換素子の開発という点で超音波トランスデューサの開発と類似点はみられた。研究発表では G. Ye (Univ. of Cambridge) らが “Genetic Algorithm Optimization of a Piezoelectric System for Energy Harvesting from Traffic Vibrations” というタイトルで発表した。ここでは路上のマンホールに発電素子を付け、車が踏みつけることで発電し、パイプラインの流量モニターのための電源とした実例を報告した。

5.ポスター発表報告
 本会議では、安野研究員、深田先生、伊達先生と共著で “A Study of Time Stability of Piezoelectricity in Porous Polypropylene Electrets” と題してポスター発表を行った。指定されたポスターサイズは、高さ1 m、幅2.5 mであった。ポスターの掲示はポスター発表の30分前より、当日の午後5時まで許可された。ポスター掲示と合わせてプロシーディングを30部用意した。そのプロシーディングは、ポスターを撤去するときには僅かに数部だけであった。このことから本発表は多くの方に関心を持って貰えたことが伺える。
 本発表の内容を簡単に紹介する。ここでは多孔質ポリプロピレンエレクトレットの圧電性劣化について報告した。この材料は、ポリプロピレンが保持する電荷の減衰と孔の収縮により、圧電性が時間の経過とともに減衰することが知られている。本発表では、多孔質ポリプロピレンエレクトレットの電荷の減衰過程と圧電性の劣化が、ポリプロピレン結晶の分子運動と関連することを実験データにより示した。ポスターでは、合わせて空中超音波発振子を試作し、大きな出力(95 dB at 150 kHz, 10 V駆動時)が得られたことも報告した。
 この発表についてProf. G. M. Sesslerをはじめ多くの方々に、材料や超音波発振子に関する質問を中心に議論させて頂いた。

ポスターとプロシーディング入れ(右下)

Prof. G. Sesslerと筆者

 

6.終わりに
 2009 IEEE IUSは、超音波現象、材料・トランスデューサ開発、医療や産業への応用が主要なトピックスであった。今年の会議では、Ferroelectret などの新材料とそれを用いたユニークなアプリケーション、Energy Harvesting といった新たな分野も取り上げられた。本会議は規模が大きいながらも新たな研究動向がトピックスとして取り上げられることが特徴の会議であった。次回は2010 IEEE IUSと題してSan Diego (USA) で開催される。

参考文献
[1] J. Lekkala and M. Paayanen, “EMFi - New Electret Material for Sensor and Actuators,” Proc. 10th International Symp. Electrets, 1999.
[2] J. Hillenbrand and G. M. Sessler, “Piezoelectricity in Cellular Electret Films,” IEEE Trans. Dielectr. Electr. Insul., vol. 7, no. 4, pp. 537 - 542, 2000.

 

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