1997/7
No.57
1. 道路交通騒音の防止対策用施設のCEN規格 2. ASVA 97参加報告 3. タイ国訪問記 4. 回転機械設備の故障監視装置 MM-10/PG-02V
       <会議報告>
 ASVA97参加報告

騒音振動第一研究室 堀 田 竜 太

 1997年4月2日(水)〜4日(金)にかけて、国際会議"ASVA 97"が、早稲田大学国際会議場で開催された。ASVAとは、"Simulation,Visualization and Auralization for Acoustic Research and Education"の略称だそうで、近年のコンピュータ技術の発展に伴って急速に進歩し、音響分野でも重要性を増しつつある、シミュレーション・可視化・可聴化技術をテーマにしたシンポジウムである。この会議は、日本音響学会の創立60周年、および日本騒音制御工学会の創立20周年を記念して、両学会の共催でおこなわれた。会議への参加者は335名、そのうち海外からの参加者は52名だった(表参照)。参加費が比較的高額であることや(一般先行受付で4万5千円)、更に日本の高い物価のことを考えれば、この参加者数は、国内外からこの会議への関心の高さを示すものだと思う。小林理研からは、加来、松本、広江、堀田の4名が参加した。他に、山田、山本、木村が、スタッフとして会議の運営に加わっていた。

 会場は、早稲田大学メインキャンパスに隣接して建つ、最近竣工したばかりの真新しい建物だった。この施設は、特に音声、映像、情報機器関連の設備が充実していることを特長にしているようで、会議の趣旨を考えると、ここが会場に選ばれたのもうなずけるものがある。また、折しも開催時期にあわせるように、桜が七、八分咲きとなり、海外からの参加者にとってはこれも印象に残ったのではないだろうか。 この会議では、パラレルセッションを用いず、すべての発表をメインホールーつでおこなうという、近年としては珍しい形式を採用していた。さらに、オーラルセッションでは招待講演のみをおこなうという構成となっており(一般講演はすべてポスターセッションでの発表)、このことは会議の大きな特色として挙げられるだろう。組織委員会のこのような試みにより、参加者は、一日おなじ席に座っているだけで、専門外のさまざまな分野も 含めて、水準の高い発表を漏れなく聴くことができた。

 受付でA4版800ぺージ弱のProceedingsを受け取り、さっそく眺めてみると、冒頭の数ページには、予稿本文から選ばれたいくつかの写真や図がカラー印刷で並んでおり、この会議の特徴を感じさせるのに充分な、大変美しい仕上がりとなっていた。メインホールに入ってみると、会議の名称で"Visualization and Auralization"とうたっているだけのことはあり、演壇の隅に各種AV機器やパーソナルコンピュータ、そして専門のオペレータを数人配置したブースが設けられ、高品質の音声や、プロジェクタで投影される映像を使ったプレゼンテーションができるようになっていた。各講演でも、多くの人が積極的にこれらの機器を使っており、かえって、OHPだけを用いた「古典的な」発表をした人の方が少数派であるように感じたほどである。

表 ASVA 97 参加者数および発表者数

 プログラムは、橘音響学会会長によるWelcome Addressに続き、難波組織委員長のOpenning Addressで幕を開けた。このOpenning Addressでは、さっそく演壇上のパーソナルコンピュータを使った発表がおこなわれたのだが、早くもコンピュータにトラブルが発生し、数分の間進行が滞るというハプニングが起こってしまった。しかし、難波先生は軽妙な調子で「昨日まではまったく万全に動いていたのに、こういう事はいつも本番に限って起こるものだ」というような事をおっしゃり、聴衆の笑いを誘って場の雰囲気を和ませていた。このような場面に対処するためには、経験の豊富さや英語力は勿論のこと、その場の機転が大きくものをいうのだな、と感心させられることしきりであった。

 会期中には親睦行事として、初日の夕刻にWine and Cheese Partyが、2日目の夜にBanquetが開かれた。私は、Wine and Cheese Partyにのみ参加したのだが、部屋には定刻の前から人があふれ、大変に盛況であった。各テーブルには、様々な国から集められたワインと、これも様々な種類のチーズが豊富に取り揃えられており、参加者から大変な好評をよんでいたように思う。

 私は、3日間にわたり、ほぼ全ての講演を聴いたのだが、ヒアリングの訓練という意味も含めて、不得手な英語で聞き続けた。(イヤホン・レシーバを使った日本語同時通訳もサービスされていたのだが、イヤホンから聞こえる日本語のタイミングが、講演者の動作から遅れてしまうのは仕方なく、また右耳と左耳で違う言語を聞き続けるのには相当な集中力を要するため、補助的にしか使用しなかった。)そのためもあり、それぞれの講演について充分な理解ができたとは言い難いのだが、印象に残ったものをいくつか列挙してみる。(なお、そのような理由のために、内容の記述等について誤りがあるかもしれないが、あらかじめご容赦をいただきたい。)

・ 多くの講演者が、AV機器やコンピュータを自在に使った発表を行っていた。しかし、そんな中でも、装飾に凝った、見た目に派手なプレゼンテーションより、簡潔ではあっても音響的な性質を具体的に表わすように工夫していたものの方が、聴衆の注目を得ていたように思う。

・ 特に、聴覚や超音波に関する分野で、シミュレーションを使った研究が非常に進んでいると感じ、また音声や映像の使い方も巧みなものが多かったように思う。逆にいえば、私が専門としている騒音振動分野では、まだまだこの種の技術が発展する余地が多く残されているということなのだと思った。

・ いくつかの講演では、演壇の上で実演をおこなっていた。特に印象が残っているのは、Dr.Houtsma(Eindhoven Univ. of Tech., Netherlands)の講演で、人間が音を聞くときに、左右の定位感がどのようにして決まるのか、というような内容だった。この発表では、実際に会場のスピーカを使って実験をおこなったのだが、具体的には、最初に左のスピーカからごく短い(20〜40ms)音を出した後に、右のスピーカから数秒間音を出し、そして最後にもう一度左からごく短い音を出すと、多くの人が左から音が来ているように感じる、というものだった。ホールの端の方に座っていた人は、必ずしもそうは感じなかったようだが、私は比較的真ん中の席に座っていたので、確かにそのように聞くことができ、面白く感じた。

・ これも実演を使った講演だが、バイオリニストの木村まり氏の発表では、氏が新しく考え出しだしたバイオリンの奏法について、実際に演奏しながらの説明を聴くことができた。この奏法は、弓を特殊な方法で曳くことによって、弦を特殊なモードで振動させ、(ビオラやチエロの音域に届くような)大変低いスペクトルの、独得な音色を出す、というようなものだっだ。発表の終わりには、この奏法を用いた曲の演奏もあったが、確かに、これまでに聴いたことのないような不思議な響きで、ニューヨークの新聞が名付けたという"Revolutionary Technique"という呼び方も決して大袈裟ではないと思った。

 松本、堀田、山本、山下の連名で発表したポスターセッションでは、道路交通騒音を予測するために、小林理研ではシミュレーションをどのように用いているのかを、縮尺模型実験とコンピュータシミュレーションの双方から説明したものである。私も、松本と共にポスターの前に立って、いくつか質問を受けたのだが、特に海外からの参加者にとっては、ジェットノイズ点音源や線音源などの実験器具についての興味が強いようで、我々がふだん何気なく使っている装置の中にも、小林理研で積み重ねられてきた色々なノウハウが詰まっているのだという認識を新たにした。

 会議全体について振り返ってみると、多くの貴重な講演を、英語力の不足等のせいで充分に理解できなかったのは、いま思えばとても残念なことである。しかし、忌憚のない感想を言えば、前例に囚われることのない、これまでに無いようなユニークな国際会議だったように思う。ここでおこなわれた数々の試みや、各講演で発表された内容は、情報化社会の進歩に伴う、これからの音響分野の発展の方向を指し示していると感じた。

 最後に、会議中を通じて、最も印象に残ったものとして、Dr.Kihlman(Chalmers Univ. of Tech.,Sweden)によるKeynote Addressで述べられた中の一部を記しておく。この内容については、普段からコンピュータ・シミュレーションに携わっている者として、深く考えさせられるものがあり、また、時代がどう変わり、技術がどのように進歩しようとも、音響学に携わる者としての基本的な研鑽は怠ることができない、ということを強く認識させられた。

−コンピュータを用いたシミュレーション技術は、音響的な現象の直観的な理解や、音響学の教育効果を深めるのにとても役にたつ。しかし、シミュレーションをおこなうためには正しいモデリングをする必要があり、このときに音響学の知識が不可欠である。この点をおろそかにすると、間違った結果を導き出してしまったり、却って誤ったイメージを与えてしまう場合がある。−

 以上、まとまりのない文章ではあるが、これで私の報告を終わらせていただく。

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