2023/ 4
No.160
1. 巻頭言 2. 山下充康前理事長のご逝去を悼む 3. 光散乱式液中微粒子計測器 KS-20F

     <技術報告>
 光散乱式液中微粒子計測器 KS-20F

リオン株式会社 微粒子計測器事業部 開発部  土 井  俊 介

1.背景
 リオンの液中パーティクルカウンタの最も大きな市場は半導体業界である。近年、半導体産業の世界市場規模は6000 億ドル越えを達成しており、さらなる拡大を継続している(2023 年2月現在)。半導体デバイス業界はプロセスの微細化を進めており、最先端ではEUV リソグラフィーの適用に伴い、ハーフピッチが最小12 nmまで到達している[1]。半導体生産における歩留まりを維持・向上するため、工程中に用いる種々の液体材料の粒子汚染の制御(清浄度の制御)は、重要な管理対象となっている。その評価方法は様々であるが、パーティクルカウンタを使用した粒子管理手法は簡便性・即時性の点から依然として有用である。微細化に伴い、より小さい粒子の測定ができるパーティクルカウンタの要求は非常に高く、リオンとしてもこの要求に応えるべく投資を積極的に行っている。今回は、このような要求に対応するべく、より微小な粒子を測定できるセンサKS-20F を開発したのでここに紹介する。

2.概要
 KS-20F は液体中に存在する微粒子の測定が可能なパーティクルセンサの最上位に位置するモデルである(図1参照)。測定対象となる試料は超純水に限定されず、様々な種類の液体の測定が可能である。過去に発売されたKS-18F の流れを汲むモデルであり、測定可能な粒子径をKS-19F に対して1/1.5 にした(表1参照)。粒径が1/1.5 になると、粒子から発せられる散乱光強度は1/12 となってしまうが、KS-20F ではそのような微小な信号の検出を可能とした。

図1 KS-20F とコントローラKE-40B1 とシリンジサンプラKZ-31W
 表1に示すように、先端半導体向けパーティクルカウンタは、測定可能な粒径の微小化を図り製品化してきた。より微小な粒子を検出するためには粒子検出部におけるレーザのエネルギ密度を高くする必要がある。それは光源のレーザの出力を上げる、またはレーザビームを小さく絞ることで可能であるが、ビームを絞りすぎると、粒子を大きく検出できる領域が小さくなってしまうことが問題である。検出領域の大小を表す仕様として「計数効率」があるが、検出粒子の微小化とともに高い計数効率もパーティクルカウンタに求められる重要な性能である。
表1 KS-20F と他機種の比較
発売時期製品型式最小可測粒径計数効率
2009 年KS-18F0.05 ㎛10 %
2014 年KS-19F0.03 ㎛5 %
2011 年KS-18FX0.04 ㎛3 %
2022 年KS-20F0.02 ㎛3 %
 リオンは2014 年にKS-19F を他社に先行して市場投入したことで、シェアを大きく拡大させ、薬液対応パーティクルカウンタとして競合他社に対して優位性を保ってきた。しかし、近年競合他社が0.02 ㎛粒子検出製品を上市したことで、最先端での市場におけるシェアを先行されていた。そのような状況において、薬液対応の0.02 ㎛センサをリリースし、市場でのシェアの優位性を確固たるものにすることがKS-20Fに課せられた役割である。
 KS-20Fは、既存モデルであるKS-19Fで採用した要素を深化させて製品化したものである。KS-20F の性能を実現した主な技術要素を下記に示す。

3.測定システム
 KS-20Fはセンサのみであるため、コントローラKE-40B1と接続して使用される。測定制御やデータ収集は基本的にはKE-40B1 で行われるが、KE-40B1 とパソコンを接続し、専用のソフトウェア(RP-monitor EVO)で制御・データ収集を行うことも可能である。
 KS-20F はインライン測定・バッチ測定の両方に対応している。お客様は周辺機器を揃えるのみで、KS-20F に特別な改造をする必要なくインライン/バッチでの測定が可能である。
 KS-20Fは、流量調整の機能を有していない為、別途、流量制御システム(KZ-31W、フローコントローラ等) が必要となる。測定システムの例を図2に示す(バッチ測定の例)。

図2 KS-20F を使用した測定システム例

4.特徴
 パーティクルセンサの性能を決める仕様には様々あるが、ここではKS-20Fを特徴づける性能についてのみ記載する。

・最小可測粒径0.02 ㎛
 測定可能な粒子の最小粒径は、業界最小の0.02 ㎛を実現した(校正用粒子であるPSL 粒子(ポリスチレンラテックス粒子。屈折率約1.6)にて確認)。

・計数効率3%
 0.05 ㎛付近以下の粒子を検出するパーティクルカウンタでは、導入試料流量の一部を測定している物がほとんどである。計数効率とは、センサへの導入試料に対して実際に測定する量の比率である。計数効率が大きいほど単位時間当たりに測定できる試料の量が多くなり、測定結果(計数値)の信頼性が高くなる。光散乱法を用いたパーティクルカウンタでは、最小可測粒径の微小化と計数効率の増加はトレードオフの関係にあるが、レーザ出力の向上や光学系レンズ群の最適化を行うことで、KS-19Fに対して計数効率を大きく低下させることなく、3 % とすることができた。

・フッ酸(フッ化水素酸)対応
 試料接液部には、サファイア・PFA のみを使用しており、強酸性の液体であるフッ酸の導入を可能とした。

・他機種との良好な相関性
 同一試料を複数の機種で比較測定したときに、計数値の良好な相関が得られることは重要である。特に、KS-19Fは多くの顧客で清浄度評価の管理器として利用されているため、KS-19F との相関は重要となる。図3に測定結果の例を示す。KS-19F と比較して、計数結果が良好な相関を示していることが分かる。

図3 KS-20F と他機種との比較測定結果

5.おわりに
 パーティクルカウンタに要求される2大仕様に「最小可測粒径」と「計数効率」がある。今回のKS-20F では、最小可測粒径0.02 ㎛と計数効率3 % を達成し、付加価値の高い製品を提供することができた。KS-20F は、特定顧客に対して、プロトタイプによるデモ評価を実施しており、良好な評価を頂いている。販売開始後、多くの受注を得て確実に販売台数を伸ばしている。しかし、前述したように、市場のパーティクルカウンタに対する要求を完全に満たしているわけではなく、最先端のハーフピッチに対応したさらに微小な粒子の測定の要求がある。さらなる微細化の仕様を実現し、市場の要求にこたえていく製品開発が今後も必要となる。

参考文献
[1] International Roadmap for Devices and Systems, 2022.

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