2022/7
No.1571. 巻頭言 2. JISに基づく聴覚保護具の遮音性能測定 3. リオン音響校正システムRACS
<技術報告>
リオン音響校正システムRACS RION Acoustic Calibration System
リオン株式会社 技術開発センター 五 十 嵐 達 也、森 川 昌 登
S&V エンジニアリング課 船 木 潤 一
1.はじめに
サウンドレベルメータ(以下、騒音計)の国際規格であるIEC 61672 シリーズが2013 年に改正されたのを機に、ISO/IEC 17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項を規定した国際規格)の認定を受けた機関での、騒音計をはじめとした音響計測器の校正、試験の要望が世界的に高まっている。一方、この規格の認定取得は、多岐にわたる測定器や高度な計測技術が必要となり容易でない。そこで当社では、音響計測器の国際規格に従う校正及び試験に対応し、ISO/IEC 17025認定校正にも対応可能なリオン音響校正システム(RACS)を開発した。本稿では、RACSの製品概要と特徴について紹介する。
図1 RACS 外観図2.製品概要
2.1 特徴
RACS は、騒音計、騒音ばく露計、音響校正器、計測用マイクロホンを国際規格に従い自動で校正及び試験するシステムである。基本的な外観や構成は図1、図2に 示すとおりである。機能毎に独立した機器でシステムが構成され、測定項目、測定方法の要望に応じ機器及びソフトウェアの柔軟なカスタマイズに対応し、またそれら構成に応じた不確かさ算出も可能である。
当社製の音響計測器の測定に必要な設定値が予め入力されており、簡便かつ短時間での測定を実現する。例えば、騒音計の定期試験(JIS C 1509-3:2019 / IEC 61672-3:2013)では通信コマンドを用いて、手動測定時の半分以下となる約45分で電気特性の自動測定を行う。また、他社メーカの様々な音響計測器も、事前に設定値を入力することで半自動試験が可能となる。
また、音響信号による校正及び試験方法として、無響室(無響箱)法と比較カプラ法のどちらにも対応する。無響室法は自由音場空間にて計測用マイクロホンの自由 音場感度や騒音計の自由音場レスポンスの測定が可能であり、比較カプラ法は無響室のような大きな空間や設備を必要とせず、自由音場補正量を用いて簡便に広帯域の測定が行える[1]。
2.2 適合規格
図2 RACS システム基本構成図
RACSの適合規格は以下のとおりとなる。また、音響測定法と対応製品について表1にまとめたので参照されたい。
(1) 比較カプラ(IEC 61094-5:2016)、無響室(IEC 61094-8:2012 *1)を使用した、騒音計の音響校正と定期試験(JIS C 1509-3:2019 / IEC 61672-3:2013)
(2) 比較カプラ(IEC 61094-5:2016)、無響室(IEC 61094-8:2012 *1)を使用した、騒音ばく露計の音響校正と定期試験(IEC 61252)
(3) ダミーマイクロホンを使用した、騒音計の電気校正と定期試験(JIS C 1509-3:2019 / IEC 61672-3:2013)
(4) ダミーマイクロホンを使用した、騒音ばく露計の電気校正と定期試験(IEC 61252)
(5) 比較カプラ(IEC 61094-5:2016)、無響室(IEC 61094-8:2012 *1)を使用した、マイクロホンの校正*2
(6) 音響校正器の校正と定期試験(JIS C 1515:2020 / IEC 60942:2017)
*1 無響室の性能は除く
*2 IEC 61094-4:1995 適合/ 非適合共に校正可
表1 音響測定法・製品対応表3.構成機器
3.1 計測用アンプ
計測用アンプは、各種校正、試験に対応するため機能を集約した。安定で低雑音の電源回路から電源供給さ れ、増幅回路、減衰回路、フィルタ回路、バイアス回路(マイクロホン及び静電駆動器用)、切替回路などを構成 する。測定項目、測定方法、測定対象の仕様に応じ、PC コントロールにより各種回路の自動切替を行う。また、 CCLD(24 V、4 mA)にも対応し、各種定電流駆動センサの校正も可能である。
3.2 音響カプラ
図3に示す音響カプラは、比較カプラを用いた音圧比較法(IEC 61094-5:2016)のうち、逐次励起によるカプラ校正法(同規格Annex B B.2)と呼ばれる手法を用いて、騒音計、騒音ばく露計、マイクロホンの校正及び試験を実現する。
カプラ内部に音圧監視用マイクロホン及び音源を内蔵する。マイクロホンをカプラに挿入し、音圧監視用マイクロホンとの対向により形成する小空間に一定音圧の音を出力し、音圧音場を生成する。音圧感度が既知なマイクロホン(基準マイクロホン)、及び被測定マイクロホン挿入時の出力を比較することで感度測定を行う。
本器は、低域用と高域用の2つの音源を用いる。前述した小空間、音源、及び本器外空間で、音導通路と静圧調整通路の配置、及びそれら通路のインピーダンスを適切に設計し、音源から見た小空間の対称性及び堅牢性を同時に確保することで、カプラ1 台にて1 Hz 〜 20 kHz の広帯域測定を実現した(特開2022-20104)。
また、本器を用いた各種製品の測定の不確かさも小さく抑えた。例えば、騒音計の周波数重み付け特性の音響信号による試験では、測定の不確かさの最大許容値(JIS C 1509-1:2017 附属書B / IEC 61672-1:2013 Annex B)の規定範囲10 Hz 〜 20 kHz を全て満足する。
さらに、マイクロホン測定にて本器専用プリアンプを用いることで、被測定マイクロホンの静圧調整孔の位置(前方、側面、後方)に依らず、調整孔に校正音が積極的に暴露するよう設計した。マイクロホン型式に応じ、試験装置の変更や治具、補正量を設けることなく、低域で自由音場と同様な測定を実現した。
3.3 ソフトウェア
図3 音響カプラによる騒音計測定時の様子
本ソフトウェアは、WindowsPC上で動作する専用のアプリケーションである。簡便な操作で騒音計や音響校正器、マイクロホンなどを自動で測定し(図4)、校正証明書(図5)の作成も行えるようにした。
図4 騒音計の校正チャート(例)
図5 校正証明書(例)4.おわりに
騒音計、騒音ばく露計、音響校正器、計測用マイクロホンを国際規格に従い自動で校正及び試験する「リオン音響校正システムRACS」を開発した。無響室法及び比較カプラ法に対応し、柔軟に測定方法を選択でき、音響カプラを用い1 Hz 〜 20 kHz の広帯域、高精度なカプラ測定を実現した。当社ではシステムの開発だけでなく、ISO/IEC 17025 認定取得までの幅広いサポートも行っている。今後、システムのさらなる発展に向けた開発はもちろんのこと、測定や不確かさ算出などの技術支援の拡充を図り、ISO/IEC 17025の普及に取り組む試験所、校正機関のお役に立つことができれば幸いである。参考文献
[1] 森川昌登, “音響計測とキャリブレーション”, 日本音響学会誌, 76 (6), 351 − 356 (2020).