2021/ 4
No.152
1. 巻頭言 2. 低周波音の施設と装置 3. ピストンホンNC-72B
 

     <技術報告>
 ピストンホンNC-72B

リオン株式会社  技術開発センター  五十嵐 達 也、森 川 昌 登

1.はじめに
 小林理研ニュースNo.140(2018年4月発行)の技術報告にて、2015年の特定計量器検定検査規則の改正(以下、新検則)による音響校正の要求に対応した音響校正器NC-75を紹介した[1]。当社はこれまで音響校正器として、小型スピーカを音源としたNC-75と合わせて、ピストン音源(ピストンホン)のNC-72Aを販売してきたが、 NC-75と同様に新検則要求に対応し、かつ従来製品と比べ校正の信頼性を向上させたピストンホンNC-72Bを新たに開発した。本稿では、NC-72Bの製品概要と特徴、及び従来製品からの仕様・機能の変更点について紹介する。

2.製品概要
2.1 基本仕様
 NC-72B は、IEC 60942:2017 class LS/M、class 1/M 及びJIS C 1515:2020 クラスLS/M、クラス1/M に適合する114dB、250Hz の校正音を出力するピストンホンである。外径寸法が1インチ、1/2インチ、1/4インチのマイクロホンに対応する。経時変化が小さく、静圧(大気圧)を除く周囲の環境変化によらず一定の音圧・周波数の音を発生させる。静圧及び校正するマイクロホンの実効負荷容積により音圧レベルが変化するが、付属の気圧計から読み取った校正時の静圧の値と、付属の校正票記載の指定音圧レベルを用いることで、発生音圧レベルを精度良く補正できる。そのため、研究機関での音響計測システムの維持管理を目的とした計測用マイクロホン・騒音計校正用の音源に適する。また、使用環境範囲が広く可搬型であるため、屋内外での音響測定現場でも使用可能である。
 従来製品のクラス表記は「LS/C、1/C」であったが、JIS C 1515が2020年に改正発行されたことに伴い、NC-72Bでは前述の通り「LS/M、1/M」となる。但し、性 能に対する要求事項は変わりなく、従来製品も「LS/M、1/M」と同等性能として使用できる[2]
 外観は表1に示す通り、従来の黒から青基調とし、NC-75や当社現行の騒音計等のカラーリングと統一した。
 なお、NC-72Bでは指定周波数の設計値を、従来製品 の250.0Hz から251.19Hz に変更した。新検則では、検定及び型式承認試験を厳密周波数で行うことを求めており[3]、これに対応した。

2.2 動作原理
 NC-72B内部には従来製品と同様、図1のように、DCモータの軸に直結されたカムとピストンが配置される。モータ駆動によりカムが回転し、それに伴いピストンが 上下に正確な正弦波運動をすることで、一定の音圧が発生する。
図1 NC-72B の内部構造概略図

2.3 NC-72B の特徴
 NC-72Bの主な特徴は以下の4つとなる。詳細は3章〜6章にて説明する。
(1) 周波数精度・安定性の向上
(2) ニッケル水素充電池の対応
(3) 電池電圧低下時のオートシャットダウン機能の搭載
(4) 電磁両立性(EMC)性能の向上

3.周波数精度・安定性の向上
 DCモータの制御方式を、タコジェネレータからエンコーダに変更し、周波数精度及び安定性を向上させた。
 従来製品では、モータの回転速度に比例したタコジェネレータ出力の直流電圧を検出し、直流電圧が一定(回転速度が一定)となるよう制御することで、周波数が一 定の校正音を生成していた。
 一方NC-72Bでは、モータの回転軸に取り付けられたエンコーダの出力パルス数をカウントし、マイコンの制御信号と比較することで、目標回転数に応じた電圧がモー タに供給される。この制御方式では、モータの回転数信号をデジタル値として測定するため、従来方式から周波数性能の大幅な向上を実現した(例えば、実際の発生周 波数の指定周波数との差は、±0.7 % 以内から±0.1 % 以内に向上)。

4.ニッケル水素充電池の対応
 環境負荷の低減を目的とし、従来のアルカリ・マンガン乾電池に合わせニッケル水素充電池の使用にも対応し、乾電池廃棄量の削減を図った。
 また、低温環境下で使用の際、ニッケル水素充電池を用いることで、従来と比べ長時間の動作を可能とした。
 さらにNC-72Bは、当社のグリーン調達ガイドラインに基づき、全ての構成部品・副資材に対し、有害化学物質(19種類の禁止物質)を含まないRoHS2対応製品となる。

5.電池電圧低下時のオートシャットダウン機能の搭載
 本器では、電源スイッチを従来のスライド式からプッシュ式に変更し、電池電圧が一定以下となった場合、モータの回転が停止し、自動で電源オフになる機能を新 たに設けた。従来品では、電池電圧モニタ(LED)消灯時でもモータが回転したままであったため、使用毎にLEDを注視する必要があった。NC-72Bでは本機能によ り、電池電圧の著しい低下による性能変動が生じず、起動時は常に校正可能とした。

6.電磁両立性(EMC)性能の向上
 電磁両立性(EMC)性能向上により、屋内外の音響測定現場での校正の信頼性を高めた。
 IEC 60942 及びJIS C 1515 のEMC 要求事項では、クラスLS製品への電源周波数磁界または無線周波電磁界イミュニティで許容される音圧レベル変動値が厳しく規 定される(カプラ開口部の反対側入射方向。各試験条件で、無磁界または無電磁界下の音圧レベルを基準として ±0.10dB 以内)。NC-72B では従来製品より、特に無線周波電磁界イミュニティの耐久性を向上させ、規定入射方向に限らず全ての筐体面入射方向で音圧レベル変動量を低減させた。これはタコジェネレータからエンコーダ への変更に伴う、周波数制御部のEMC 耐性向上が要因となる。

7.従来製品からの仕様・機能変更点
 仕様及び機能に関し、従来製品からの主な変更点を表 1にまとめたので参照されたい。

8.おわりに
 IEC 60942:2017 class LS/M、class 1/M 及びJIS C 1515:2020 クラスLS/M、クラス1/Mに適合する114 dB、250 HzのピストンホンNC-72Bを紹介した。新検則要求に対応し、かつ従来製品と比べ周波数精度・安定性を高めるなど、校正の信頼性を向上させた。また、ニッケル 水素充電池に対応するなど環境負荷を低減させた。今後も音響計測の要である「校正」をはじめ、音響計測に携わる皆様のお役に立つことができれば幸いである。
表1 NC-72A / NC-72B 仕様・機能比較表

【参考文献】
[1] 黒沢雄,“JCSS 校正証明書を標準添付した音圧フィードバック方式の音響校正器NC-75”,小林理研ニュース,140,6-9 (2018).
[2] 森川昌登,“音響計測とキャリブレーション”,日本音響学会誌,76(6),351-356(2020).
[3] 大屋正晴,“騒音計・振動レベル計に関する計量法の検則改正の解説”,騒音制御,39,176-181(2015).

−先頭へ戻る−