2021/ 1
No.151
1. 巻頭言 2. 残響室内の温度勾配と残響時間の関係について 3. 損失係数測定システム AS-14PA5  
   

     <技術報告>
 損失係数測定システム AS-14PA5

リオン株式会社 S&V エンジニアリング課  堀 田  竜 太
技術開発センター  米 元  雄 一

1.はじめに
 産業機械や家電製品、自動車や鉄道などの各種運輸・輸送機械、建築資材などの多岐にわたる分野において、低振動化・低騒音化は重要な課題となっている。制振鋼板・制振合金、あるいはCFRP などのプラスチック・合成樹脂、ゴム、アスファルト、合わせガラスなどの材料で、固体の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して、固体の振動や放射音を低減できるものを、制振材料と呼ぶ。損失係数は、制振材料の特性(振動を抑える能力)を表す指標であり、JIS G 0602 : 1993、JIS K 7391 : 2008、 ISO 16940 : 2008、ASTM E756-05(2017) などの規格にその測定方法等が記載されている。本稿で紹介する損失係数測定システムAS-14PA5(以下、本システムと呼ぶ)は、中央加振法・片持ち梁法の2種類の方法で、短冊形状をした制振材料試験片の損失係数やヤング率(または せん断弾性係数)を測定することができる。

2.本システムの構成
 図1に本システムの構成を、図2に試験片取り付け部の模式図を示す。中央加振法・片持ち梁法のいずれのシステムでも、周波数分析器としてSA-02を、信号発生器としてSA-02SG を用いる。そして Windows PC 上で動作する専用ソフトウェアを用いて損失係数およびヤング率の測定を行う。
図1 本システムの構成図
図2 各システムの試験片取り付け部の模式図

3.測定対象試験片
 図3に、中央加振法システムで測定対象とする試験片の模式図を示す。試験片には以下の3種類がある。
 ・ 単一の材料で製作された単一梁
 ・ 基材の上に制振材料を貼り付けた、オバスト梁
 ・ 基材で制振材料を挟んだ、サンドイッチ梁(基材には鋼板やアルミニウム板などを用いる)
 片持ち梁法システムで測定対象とする試験片は、単一梁については中央加振法システムで対象とする試験片と同様だが、オバスト梁・サンドイッチ梁については、試験片の片端 20mm 程度には制振材を配置せず、片持ち梁試験器でクランプするための「つかみ代」とする。
図3 測定対象試験片の模式図

4.中央加振法システムによる測定方法
 中央加振法システムでは、試験片の中央を支持し、両端を自由端として支持部を加振し、損失係数を測定する。このシステムでは、加振器EM-1028A に、インピーダンスヘッド PF-60A を取り付ける。インピーダンスヘッドとは、加振点における加速度と加振力を同時に測定できるセンサである。インピーダンスヘッドの上には、試験片を取り付けるための治具であるコンタクトチップ VP-610400を取り付ける。試験片は、その中心位置をコンタクトチップの真上に合わせ、接着剤などで固定する。ここで、試料セッティング治具 DX-10 を用いることで、試験片の中心位置を容易にコンタクトチップの真上に合わせることができる。
 インピーダンスヘッドから出力された加速度信号と加振力信号は、マスキャンセルアンプ XG-81Bに入力される。ここで、インピーダンスヘッドから出力された加振力信号には、試験片の質量とコンタクトチップの質量の双方が影響している。マスキャンセルアンプでは、加速度信号にコンタクトチップの質量に相当する定数を乗じ、加振力信号から差し引く電気的処理を行う。この処理により、マスキャンセルアンプは、試験片に加わる真の加振力信号を出力することができる。
 中央加振法システムでの測定では、信号発生器でスイープサイン信号を発生して加振器に入力し、試験片を加振する。インピーダンスヘッドは加振点での加速度と加振力を同時に測定し、マスキャンセルアンプは加速度と真の加振力を出力する。ソフトウェアでは加速度を積分して速度に変換し、[真の加振力]/[振動速度] の伝達関数で規定される機械インピーダンスを、FFT によるクロススペクトル法で算出する。

5.片持ち梁法システムによる測定方法
 片持ち梁法システムでは、一端を固定し、もう一端が自由になっている梁を用い、梁の自由端を加振して、損失係数を測定する。このシステムでは、片持ち梁試験器 DX-01A のクランプで、試験片の上端を固定する。片持ち梁試験器の下部と上部には、それぞれ電磁変換器 MT-03が取り付けてある。下部の電磁変換器は、信号発生器が発生したスイープサイン信号、そしてそれをパワーアンプXH-38を用いて増幅した信号で、試験片の下端(自由端)を非接触で電磁的に加振する。上部の電磁変換器は、試験片の固定端に近い位置の振動速度を、非接触で電磁的に検出し、プリアンプXH-25を用いて増幅する。ソフトウェアでは、下部の電磁変換器に入力した加振力信号と、上部の電磁変換器から出力された振動速度信号を用い、[振動速度]/[加振力]の伝達関数で規定されるモビリティを、FFT によるクロススペクトル法で算出する。

6.中央加振法システム・片持ち梁法システムの特徴
 表1に、中央加振法システムと片持ち梁法システムの特徴を示す。中央加振法システムは、損失係数の測定精度や、測定上限周波数がより高いという利点があるが、加振器の耐用温度に律されるため、使用可能温度範囲が狭いという制限がある。また、試験片を固定する際に接着剤などを使用するため、測定までに一定の時間と手間を要するという制限もある。一方、片持ち梁法システムは、構成部品の構造が比較的単純であることから、使用可能温度範囲が広く、また、試験片の固定が容易であるという利点がある。しかし、非接触式の電磁変換器を使用するため、周囲にトランスなどの強力な電磁界を発生する装置が存在する場合には、測定が不安定になりやすい。損失係数を測定する場合には、測定対象とする制振材の使用温度範囲や対象周波数だけでなく、周囲の電磁的環境なども考慮した上で、中央加振法システム・片持ち梁法システムのどちらの測定方法を採用するかを定める必要がある。
表1 中央加振法システムと片持ち梁法システムの特徴

7.損失係数およびヤング率の算出
 中央加振法では、算出した機械インピーダンス伝達関数の周波数特性グラフに、N次の反共振モードのピークが現れる。中央加振法における反共振モードとは、加振点および振動加速度検出点(ここでは試験片の中心)において、加振力に対して振動速度が極小となるモードである。
 一方、片持ち梁法では、算出したモビリティ伝達関数の周波数特性グラフに、N次の共振モードのピークが現れる。片持ち梁法における共振モードとは、試験片の自由端に与えた加振力に対して、試験片の固定端に近い位置で測定する振動速度が極大となるモードである。
 本システムのソフトウェアでは、これらの伝達関数のN次のピークを自動的に検出することができる。図4に、本システムの伝達関数および損失係数の表示画面を示す。
図4 伝達関数および損失係数の表示画面

 各次数の損失係数ηは、それぞれの次数に対応する伝達関数のピークに対して、図5および式(1)に示す半値幅法を用いて求めることができる。

  η =2(f2f1 )/(f2f1 )    - ( 1 )
   f1, f2 : 伝達関数のピークレベルより3dB低減したレベルに対応する周波数 [Hz]
図5 損失係数算出方法の模式図(半値幅法)

 ここで、各ピークの半値幅f1f2 の間に含まれるFFT スペクトルラインの数(SPD 指数と呼ぶ)が10個以上ないと、損失係数測定の誤差が大きくなる事が知られている。そこで、本システムでは、各ピークについてSPD 指数を監視し、その値が10 に満たない場合には、FFT の対象周波数レンジを下げる、FFT 分析点数を多くする、などの分析パラメータ変更(ズーム分析)を自動的に行い、適切な SPD 指数で損失係数の算出を行うことができる。本システムでは、このズーム分析を自動的に行う機能を「Auto モード測定」と呼ぶ。
 そして、各次数の共振周波数または反共振周波数と、試験片の寸法・密度から、式(2)によりヤング率を、式(3)によりせん断弾性係数を求めることができる。

  E = ( 48 ρπ24 f i 2 ) / ( h 2 θi 4 )    - (2)
   E : ヤング率 [ N/m2 ]
   ℓ : 試験片の長さ [ m ]
   h : 試験片の厚さ [ m ]
   ρ : 試験片の密度 [ kg/m3 ]
   f i : 各次数の共振周波数、 または反共振周波数 [ Hz ]
   θi : 次数と試験片の振動モードで決まる定数

  G = E / { 2 ( 1 + μ ) }    - (3)
   G : せん断弾性係数[ N/m2 ]
   μ : ポアソン比

 また、本システムでは、測定した伝達関数について、各次数のピーク周波数近辺のナイキスト線図(伝達関数の実数部を横軸に、虚数部を縦軸にして描画した図)を描画することができる。図6に本システムで描画したナイキスト線図を示す。損失係数が適切に測定できた場合には、ナイキスト線図は円を描くことが知られている。よって、損失係数測定の際に、各次数のピークについてのナイキスト線図を確認することで、測定が適切に実施できたかを確認することができる。
図6 ナイキスト線図表示画面

8.制振材料単体の損失係数およびヤング率の算出
 軟質の制振材料については、その材料のみで試験片を製作することができない。そのため、図3に示すオバスト梁やサンドイッチ梁を用いて損失係数を測定する必要がある。この測定結果には基材の影響が含まれてしまうが、本システムでは、オバスト梁またはサンドイッチ梁試験片の損失係数測定に加え、基材単独で単一梁とした試験片に対する損失係数測定を行い、前者から後者の影響を取り除く処理を行うことで、制振材料単独の損失係数やヤング率を求めることができる。

9.恒温槽を用いた損失係数およびヤング率の測定
 制振材料の損失係数やヤング率は、温度に依存することが多い。対象とする制振材料を特定の温度帯で使用したい場合には、想定される温度条件の下で測定を行うことが重要である。本システムでは、測定用PC と指定の恒温槽を、RS-485 インターフェイスを用いて接続することで、自動的に温度をコントロールして測定を行うことができる。ここで、恒温槽内が目標温度に達したあとには1時間程度をおき、試験片の温度を順化させることが望ましい。そのため、複数の温度で測定する場合には、合わせて数時間以上を要する。本システムでは、その間の操作を自動で行うことができるため、測定の省力化が可能である。また、本システムでは、複数の温度で測定した各次数の損失係数やヤング率を、グラフや表で比較する機能がある。図7に、各次数の温度と損失係数の比較グラフの例を示す。
図7 湿度と各次数の損失係数比較グラフ表示画面

10.換算周波数ノモグラム
 複数の温度について損失係数およびヤング率を測定した場合には、それらの結果に対して、温度 - 周波数換算則(WLF換算則)を用いて、換算周波数ノモグラム(温度・周波数・損失係数・ヤング率の関係を一つのグラフ上に示したもの。以下、ノモグラムと呼ぶ)を作成して測定値を整理する場合がある。本システムでは、オプションの「ノモグラム作成ソフトウェア」を用いて、JIS K 7391 : 2008 に対応したノモグラムを作成、描画することができる。図8にノモグラム作成ソフトウェアの画面を示す。
図8 ノモグラムソフトウェアの表示画面

11.おわりに
 本稿では、損失係数測定システム AS-14PA5 の機能と特徴を紹介した。本システムには、試料セッティング治具による容易な試験片の取り付け機能、伝達関数ピークの自動検出機能、Auto モード測定機能、恒温槽制御機能などが搭載され、損失係数測定の省力化に寄与することができると考えている。本稿が、損失係数を測定しようとする方々の一助となれば幸いである。

参考文献
・日本工業規格 JIS K 7391 : 2008
・制振材料研究会 計測・評価技術分科会 規格調査サブワーキンググループ、「損失係数測定解説書」、1995 年9月
・制振工学研究会 計測・評価技術分科会 2層形制振材料JIS規格化検討 WG、「2層形制振材料の振動減衰特性および考察-試験・評価方法のJIS 化に向けて-改訂第1版」、2009 年1月

-先頭へ戻る-